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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
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180話:王子様インファイト⑤

繰り出された正拳突きは、マーカスの胸部に直撃した。


「…ッ!?」


しかしながら、ベルディゾは手に伝わった感触の奇妙さに、驚愕するしかなかった。柔らかい感触、そのあとに硬い感触。硬い感触は分かる、これは確実に魔力膜によるものだ、だが柔らかい感触が分からないのだ。


ベルディゾはおずおずと自身の拳を見た。


おかしい、何かがいつもの拳と違う。


否、おかしいのは拳ではなく、ドリル回転させた魔力膜の方だ。


――回転していない。


「…………は?」


まるで何かが絡まり詰まって、回転を阻害しているようなのである。見えないが感じる、柔らかい感触のものがベルディゾのドリルパンチに絡みついている。ベルディゾはその『何か』の正体に心当たりがあるも、ありえないと心が否定していた。


だって、絡みついているのはマーカスの魔力膜だから。


じゃあ、硬い感触は?


(これも魔力膜だろう!?)


柔らかくした魔力膜が回転を阻害。

これは理解できる。


硬い魔力膜が拳を受け止める。

これも理解できる。


柔らかい魔力膜と、硬い魔力膜が同時に存在。

これが理解できるが、納得できないのだ。


(これが可能となる状況は…二重の魔力膜だけ。)


性質の違う二層の魔力膜――そういうことだ。

こんなもの机上の空論。

実戦での使用なんてありえない。


驚愕に動きが止まるベルディゾに、マーカスは口を開いた。


「ふ~、あぶねぇところだったぜ。」


「ま、まさか、本当に、やったというのか!?」


「ケッ、できなきゃ今の俺は無事じゃねぇだろ。」


「貴様、いつ対策を!?」


「ん? いや? 即席だが?」


『やべぇバケモノ』とも言えるような弟のせいで、自身は一般人並みの才能しかないと思い込んでしまった『ただのバケモノ』、それこそがマーカスという男である。間違いなく彼は『王の証』を持って生まれた王子様なのだ。


(ハッ!? 右側からのフックパンチ!)


ベルディゾは未来視への対応が遅れてしまい、避けも流しもできなくなてしまっていた。だからこそ、彼は腕で受け止めるという選択以外は取れない。振りぬかれる拳、あまりの力強さに受けた腕がビリビリと痺れる。


(だが、防いd――)


次の瞬間、『左頬』にフックパンチが直撃――の未来視。

これもまた腕で受け止めるという選択以外はなかった。


そして、さらなる未来視は自身の腕しか見えない。


これが意味することは、未来のベルディゾは頭部を防ぐという選択肢しか取れなくなってしまっているということ。実際、振り抜かれた二撃目のあとの、再びのフックパンチに対して彼は腕で守った。


左右から繰り返して飛んでくる拳の雨。


「フッ! フッ! フッ! フッ!」


今のマーカスはただ全力を押し付けているだけだ。

魔力濾過ができるからこそ可能なフルパワーの連撃。


ジャブパンチのような『刹那的な力み』とは対照的な、ただただ『持続的な力み』だけで成立させたもの。拳を大きく振り、振り抜けようとするところを無理矢理に抑え込み、次の拳へと強引に切り替える荒業。


そして、何度も何度も繰り返すことによって生じるのは――左右往復による無限のフックパンチ。マリアンネの前世における名称は『デンプシーロール』。


ベルディゾが合理によって『正拳突き』に辿り着いたのとは対照的に、マーカスは合理を捨てることによって『デンプシーロール』へと辿り着いた。


「ぬ、ぬおぉぉぉッッ!」


未来など見るまでもない、あからさまな連撃。

だが、未来を知ろうとも対応できなければ意味がない。

重さのある連撃を、ガードが崩れるまで、ただひたすらに。


(こ、これは、く、崩される…クッ!)


そうして、ガードが次第に動いていく。

時間の問題、そういう状況へと至っていた。

揺れて、よろけて、外れて――空いていく。


空いた分だけ、ベルディゾの視界も広くなる。


そこで彼が視たのは、未来などではなかった。

現状だ、現状のマーカスを見たのだ。



――腹部の出血が増している。

――顔色は青くなり、苦しそうだ。



(そうだ、なぜ俺は気付かなかった。)



――腹部へのドリルキック。

――スィレンとの戦闘。

――同ヶ所へのドリルパンチ。

――そして、対策はあったが直撃はしている正拳突き。

――これらが休憩なしの連戦で発生。


マーカスに蓄積されたダメージは計り知れない。


そんなコンディションの中で、強引な体の捻りによる連撃を繰り出しているのだ。例え身体強化によって『動かされている』としても、『動く』のは肉体なのだから負担にならないわけがない。


(持久戦なら、俺が有利よ!)


そう思った、その時だった――


――ベルディゾの耳に音が入り込んだ。




ギュルルルと空気を裂く音。




これはまさしく相手の魔力膜を削る――ドリルパンチ。

マーカスの拳は今、ガードをねじ壊す拳となっていた。


(こいつッ!? この土壇場で! 俺の技術を模倣してッ!?)


だが、ドリルパンチの対策については、つい先ほどベルディゾも受けたばかりである。魔力膜を絡ませることで回転を出来ない状態にするだけでいい。つまり、これは互いが互いの技術をコピーして上回る、そういう戦いになっているのだ。



未来視が更新された――



――未来が見えなかった。



「そうか。俺の未来は――」



――もう俺に未来はないのか。



マーカスは戦いの最中、ベルディゾの技をコピーした。

対して、ベルディゾではマーカスの技をコピーできなかった。

努力によりいつかはできるだろう、だが今ではない。


守るための腕がへし曲げられる。

これにより、顔面がフリーとなるのだった。


マーカスの止まらぬ連撃が、ベルディゾの顔面に迫る。




(これだから俺は…天才が嫌いなn――。)




ラウンド3を以て決着――勝者、マーカス。


【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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