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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
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178話:王子様インファイト③

倒れるマーカスをベルディゾは見下ろす。


明らかに覚悟も経験も足りない男ではあるが、特別と才能の両方を有しているからこそベルディゾに惜しいところまでたどり着いていた。その事実に、ベルディゾは苛立ちを隠すことができない。


そして、エイリーンの娘であるネルカは、そんなマーカスですら霞んでしまうほどの才能を持っていると彼は聞いている。それが意味することは、ネルカの才能はエイリーンを超える可能性が高いということである。


なおさらに彼の心にドス黒い感情が沸き立ち、なおさらにエイリーンの弟子として過ごした日々を追いかけてしまい、なおさらにネルカと対面した時に何が起きるのかをベルディゾは想像できない。


「貴様の母親から、『王の証』なる話を聞いたことがある。なるほど、確かに、才能の塊だ。憎い…憎いほどの貴様は天才なのだよ。こちらとて、先ほどの闘いは何度か危うい場面があった。」


「…。」


「だが、いずれも荒削りであるし、補うだけの気迫もない…技術戦術を超えた先を、貴様は知らなかった。『勝つ』には才能だけでは足りぬ。貴様はまだ戦士ではない。」


「…。」


「返事もできぬか? 思った以上に虫の息のようだな。」


彼は改めてマーカスを見た。


――魔力の濾過が可能。

――未来視すらも誘導する胆力。

――格闘に対する適正。


(このマーカスという男が、もしも自分の元で修行すれば)とベルディゾは一瞬考えた。彼はそう考えてしまった自分に対し驚くも、そこでふと(師が自分を弟子に取った理由は、もしかしたら同じだったのでは。師は俺に『期待』を……。)とも思い至ってしまうのだった。


だが、すぐに頭を横に振る。

そして、自分に言い聞かせるように呟いた。


「バカバカしい。あれはただの気まぐれ、そんな訳はない。」


彼は気を取り直してマーカスに向き合う。

そして、最後のトドメを刺すべく拳を振り上げた。


そこで彼が見たのは、マーカスによって拳が止められる未来。


「な!?」


だが、今のベルディゾの拳は相手を殺すための拳であり、例え未来が視えたとしても切り替えることなどできやしない。だからこそ、見た未来通りに拳を掴まれてしまうのだった。


ミシリッという音が、掴まれた腕から鳴る。

死に体とは思えないほどの握力だ。


「けっ、やっぱり未来視ってのはカウンター一択だよなぁ? むしろ、攻め手に回ると、未来視が枷になって動きにムラが出るみたいだし。一度振った拳は止めらんねぇから、当然か。」


「貴様…どこにそんな力が!?」


掴まれた腕を振りほどくと、ベルディゾは距離を取る。


数十年も戦いに身を投じてきた彼であるが、今のマーカスのような目をした者は何度も相対したことがある。何かに憑りつかれたように眼球をせわしなく動かし、それでいて思考は空に存在するかのよう。


マーカスは今、集中力が極限化しているのだ。


この状態に入った人間は非常に厄介だ。

ベルディゾは気を引き締めた。


「なぁ、テメェよぉ、人生は楽しいか?」


「なんだと?」


「俺は今が一番に楽しいんだぜ? あれだけのバケモノ集団で隊長なんて務めてよぉ、両の手で数えれる程度しか歳の変わらん義娘ができてよぉ、いっぱい気苦労を重ねられてよぉ……こうやって死にかけの窮地に追いやられてよぉ……なのに楽しいんだぜ? おかしいだろ。」


今、マーカスの体は悲鳴をあげている。

相手は格上であり、こちらは万全ではない。

はっきり言って勝てない相手なのだ、と。


もうやめろと生存本能が訴えかける。


なのに、気持ちよい。

圧倒的快感。

苦しみが、心地よいのだ。


そして、ここを乗り越えたとき、いったいどのような感情に支配されるのか、想像するだけでも狂おしいほどのワクワクがこみ上げてくる。先ほど、ベルディゾはリーネットの感性は理解できないと言っていたが、逆に今のマーカスならばリーネットの感性を理解することができるだろう。


マーカスは笑った。


「俺は間違いなくッ! 母上の息子だッ!」


だが、それだけでは彼はきっと立ち上がることはできなかったことだろう。快感よりももっと、胸を熱くする正義を彼は持ってもいたのだ。それはベルガンテ王国を背負うという、王族の血による義務感が背中を押してくるのだった。


ここで負けたとしても、ネルカがいる。

彼女ならベルディゾには負けないだろう。


それでも、マーカスは自分がやらなくてはいけないと感じていた。


自分が負けるということは、それすなわち国が負けるということなのだ。国王の息子としてこの世に生まれたからには、例え今は継承権をはく奪されているとしても、ベルディゾごときに負けてはいけないのだ。


「そして間違いなくッ! 父上の息子でもあるッ!」


どちらの想いが強いかなどはない。

どちらの想いも彼の原動力なのだ。


母の血と父の血が、マーカスには宿っている。

狂気と正義の混血戦士が、ここにて覚醒した。


「俺こそが――マーカス・ベルガー・アランドロだ。」


両者が立ち上がる限り、闘いは終わらない。


マーカスVSベルディゾ――ラウンド3――開始。


【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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