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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
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167話:『神隠し』

その現象は昔から存在していた。


――『神隠し』


時間も、頻度も、対象も、消えた先も予測することが出来ないほど不規則かつ突然に、人がフッと消えてしまうのだ。目の前にいようが、手を繋いでいようが、消える時は消えてしまう。


しかし、現象が起きうる場所だけは予測できた。

というのも、この現象は移動するからだ。

町から町へと、基本的には直線で移動する。


何か目印があるというわけではなく、人が消えたという結果からでしか現象を確認することはできないが、ここ数十年の間は移動の予測が外れたことはなかった。


そして、避難でもしようものなら、移動先が変わってしまうということも分かっている。だからこそ、消えると言っても一ヶ所あたり両手の指で数えれる程度の人数で終わることもあって、この現象の詳細については権力者の間でしか共有されておらず、消えた民たちは『仕方ないもの』として扱われるようになってしまっているのだ。




そんな、神隠しが――ベルガンテ王国に上陸した。




いつもなら民たちに申し訳ないと心の隅で思いつつも、結局は何もしないままで終わってしまう。だがしかし、神隠しを追って移動している団体がおり、その団体を調査しようとした者が、ことごとく死体で発見されたとなれば話は別だ。


怪しい。


あまりに、怪しすぎる。


どの陣営かは知らぬが、対処すべき案件だ。


「この案件は、第零に任すとしようかのぉ。」


ガドラクはそう決断した。


というのも、この世界では『魔力』が存在しているため、どのような不可思議な現象が起きたとしても、魔力によるものだと結論付けられることが多い。だからこそ、説明不可な事象が発生した時は、魔力によって生まれる知的生命体である精霊――その上位種である『神』を現象の名前に使うことが多かったりするのだ。


ちなみに、この考え方はベルガンテ王国に限らず、少なくとも大陸中のあらゆる宗教において共通事項であり、だからこそ宗教同士で考え方の相違が起きることがなかったりする。それどころか、宗教が混ざるということもざらにあったりするせいで、複数の宗教に属している人の方が多いほどだ。


『神隠し』も同じ、原因不明ゆえの呼称。


だが、魔力による現象ということも同じなはずだ。




だとしたら?




黒魔法や魔王なら、神に対抗できる。


怪しい集団と戦うにしろ、神隠しに対処するにしろ。

ネルカ・コールマンを向かわすことが最適ということだ。



 ― ― ― ― ― ―



遠くの山から街を眺める姿が複数人。

その中の一人であるネルカが呟いた。


「随分と大きい街ね。壁に囲まれるし。」


「侯爵領の主要都市ですからねぇ。」


「まずは、集団の顔を知っている部下に会って、話を聞いておく必要があるな。『太陽の笑顔』という名の酒屋で合流する予定だ……変装せずに向かうぞ。野郎共もそれでいいな?」


「「「「了解。」」」」


そうして、彼らは馬を進めて、関所へとたどり着いた。

ゴツい体の帯剣したスキンヘッド集団が近づいてくると、関所の番人は初めこそ警戒していたが、先頭を行く三人組を見るとその態度を一変させるのだった。


「でででで殿下! どうしてここに!」


「ん? 俺を知ってるか?」


「ハッ! 私は、王宮騎士団の見習いだった時期もありますので! 途中で侯爵様にスカウトされた身なれど、殿下のことは何度か拝見しておりました!」


「そうか、それなら話が早い。俺らに協力しろ。」


「殿下は、何をしにこちらの街に?」


そう問われたマーカスは、神隠しの件だけは正直に話せないことなので、どう話そうかと迷う。しかし、迷ったのも一瞬ですぐに口を開いた。


「…最近、怪しい集団を見なかったか?」


「集団……ですか……その、集団ではないのですが、少し不審感を抱いたことが二つほどございます。一つ目は、行方不明者の報告がいくつか届いているということです。」


「……………二つ目は?」


「白仮面の男がこの関所を通ったのです。」


「ふむ。」


「その時、私は別件で不在でしたので伝聞だけですし、白仮面の男がどこの誰というのを知っているわけではなのですが、ただ怪しいというのは当然でしょう? しかし、不思議なことに、見た当初は『そういう存在がいるなぁ』程度にしか思わなかったと皆が口を揃えて言うのです。時間をかけて徐々に『仮面の男なんて怪しすぎる』と疑問を抱くようになっていったそうでして…。」


門番の男は初めこそ部下の怠慢が許してしまった侵入かと思っていたが、あまりにも同じ報告が回ってくるものだから、ただ事ではないと判断しているとのことだった。

しかし、いざ街内の見回りを強化したとしても、やはり遭遇しても何の感情も沸かなかったという結果に終わってしまう。そして、相手も警戒しだしたのか、途中からそもそもの遭遇したという話すらも上がらなくなってしまった。


「そやつはいったい…何者なのでしょう…。」


そんな門番の男の呟きに、口を開いたのはエルスターだった。


「ふむ、王都でも目撃情報がありましたねぇ。例の襲撃の日に。」


「「「なっ!?」」」


「人によっては複数回見たと。しかしながら、いずれも同じことを言うのです…『見かけたときは、何も違和感を覚えなかった』。まぁ、同一人物と考えて問題はないでしょう。」


「認識を狂わす魔法かしら。あるいは呪具?」


「それに関しては、こっちには黒魔法の使い手がいるからな。俺らすらも騙せても、ネルカだけは無理だろうよ。それより、どっちの勢力かも大事だな。」


「ゼノン教だとしたら、ハスディとやらと共に表立って行動していたでしょうねぇ。私の予想としましては別勢力…リーネット勢力かと。」


「エルと同意見ね。」


仮面の男に謎の集団、そして、『神隠し』。


目立つことを優先とした任務であるはずだったが、もしかしたら何か大きな事件に関わるかもしれない。そのことに気付いた門番の男は、他の騎士たちにネルカたちに協力するようにと伝え回すべく動いたのだった。




「この街で、何が起きるってんだよ。」




マーカスの呟きを合図に、一同は一歩を踏み出した。


彼らの心配を表すように、空は曇りを増していく。




【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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