166話:次の任務へ
会議終了後、ネルカはガドラクに呼び出されていた。
団長執務室にて、二人はテーブルを間に向かい合った。
「ネルカ嬢よ、第零部隊にはのぉ、魔物退治の準備とは別の任を受けてもらうことにしたのじゃ。じゃがまぁ、お主の性格を考えたら、ちまちまと準備するよりかは、そっちの方が嬉しいじゃろうて。」
「ようやく部隊として本格活動って感じね。任命式なんて一切ないまま淡々と副隊長になって、しばらくは任務も無し……茶化されていたのかと思ってたわ。コードネームなんてカッコいいじゃないの、使う機会を今か今かと待ち望んでいたのよ?」
「ガハハハ! 一応は秘匿部隊じゃからのぉ!」
「で? 会議直後の呼び出しなんて、何をさせる気なの?」
「まっ、陽動要員ってとこじゃな。」
会議でも話があったように、今回の魔物討伐の一件は魔王が関わっている可能性が高い。しかし、敵組織が大きな動きを見せていない以上、気付かれていない可能性も高いというのが現状。だからこそ、『魔物討伐は優先しないといけないことだけど、それとは別で魔王探しも並行でやっています』と思わせることが大事――ガドラクはそう説明したのだった。
「なるほど、それなら私たちは適任ね。目立つもの。」
「で、最初の任務についてじゃが。」
「ええ。」
「港町ケイネスにいるハラデル・ワモルノという男が、非公式に武器の運搬をおこなっているという話を掴んだ。まぁ、相手が元側妃だとかゼノン教だとかじゃなかったとしても、碌でもないことには変わらん。デカい商会の主じゃ、派手さも十分じゃろうて。」
「悪者退治なんて、私好みの任務ね。」
「あの町には『獅子』と『蛇』を潜行させておる。『猟犬』を連れて合流しろ。その後の判断はすべてそなたらに任せる……好き勝手しろ、暴れろ、恐れられろ……とにかく派手に……そのための第零部隊じゃ。」
「あら、しばらく婚約者の姿を見ないと思っていたら、殿下とデートをしていたなんて…嫉妬しちゃうわ。あまりにも嫉妬し過ぎて、大暴れしちゃうかも。フフッ。」
笑うネルカの目は、爛々と輝いていた。
野性的、嗜虐的、そして恋に溺れた目をしている。
様々な意味が込められた、狂気の笑みだった。
そんな彼女を見ながらガドラクを腕をさすった。
「うぅむ、天職じゃのぉ…。」
― ― ― ― ― ―
――そんなこともあっての現在。
死体だらけの商船の上で、四人の戦士が集まっていた
その中の唯一の女性が、ハラデルの切り離された頭部を足の裏でゴロゴロと転がしている。その光景をあまりよしとしない銀髪の男が、頭を奪い取って海へと放り投げたのだった。がっかりする女性の肩に手を置く黒髪の男に、何と言えばいいか分からず隻腕の男が苦笑していた。
銀髪の男――『獅子』――マーカス・アランドロ・ベルガー
女性――『鴉』――ネルカ・コールマン
黒髪の男――『蛇』――エルスター・マクラン
隻腕の男――『猟犬』――ロルディン・ゼーナバル
四人の戦士とはまさしく、第零部隊の面々だった。
「ふ~…まっ、とりあえず、ハラデルの一件は解決したと王都に報告だな。まさか、あの伯爵が裏で繋がっていたとは…そりゃあ、こっちの情報は筒抜けだよなぁ。」
「裏切り者を特定できたのは、今後として大きいことですけどねぇ。」
ハラデルが情報の提供を受けていた伯爵家は、ずっと正妃側の勢力として活動しており、今では国の中枢を担う人物でもあった。そんな存在が実はリーネット勢力の一員であり、彼女が逃走した後も交流が続いていたともなれば、さすがのエルスターですら驚愕の事実だった。
しかし、この時期に見つけることができたということは、ある意味では幸運だったかもしれない。現状として魔の森に魔王が存在する可能性は気付かれてはいけないことだが、どれだけ秘密裡に動いたとしても、例の伯爵が裏切っていたのならばバレるのも時間の問題だ。
今ならまだ間に合う。
「王都には俺が行こうか。元・第二部隊の俺なら、誰にも気づかれることなくガドラク様の所へとたどり着ける。それに、次の任務もあるでしょ? 誰が残るってなったら、隻腕の俺が真っ先の消去法だろう。」
「じゃあ、お願いするわね、ロルディン様。」
ロルディンは「おうよ。」と答えると、身支度をして船から降りるのだった。
騎士団随一の勘と身軽さを持つ男だ、誰も心配などしてはいない。
そして、残った三人は気持ちを切り替えて、次の話題へと移った。
「で? 私は次の任務のことまでは聞いてないけど?」
「あぁ、そのことなら、エルスターの方が詳しい。説明頼む。」
「えぇ、分かりました。私たちが次に向かうのは、ブロイドル侯爵領にあります『ガッベ』という街になります。ここからは隣領とは言え少々遠い位置になりますし、それに引き続いてスキンヘッド部隊も利用した方が良い案件……となれば明日は丸一日は移動になりそうですねぇ。」
スキンヘッド部隊の発端こそは『リーネットに協力せざるをえなかった集団の贖罪』ではあったが、今では『マーカスという一人の隊長に憧れて集まっている』になっており、その数はどんどん増えている。人海戦術としてだけではなく、その実力を期待して連れて行くのだ。
そして、エルスターは言葉を続けた。
「私たちが調査するのは――【神隠し】。」
その言葉に、ネルカは目を瞬かせるのだった。
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