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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第二部:第2章:王宮騎士団第零部隊
165/206

165話:討伐に向けて

第零部隊が港町ケイネスに行く、数日前――


 ― ― ― ― ― ―


王城の中でも奥に存在する会議室。

よほどの事態でしか使われない部屋で、ネルカは椅子に座っていた。

ガヤガヤと騒がしい円卓、席が足らず壁際も人でビッシリだ。


(ここに集まるということはそれなりの立場の人でしょうけど、見覚えがない人が多いわね。領土騎士は紋章を見ればわかるけど、国管轄と思わしき知らない紋章があるわ…………あぁ思い出したわ、確か…王都外の騎士だったかしら。)


王宮騎士団は四つの部隊しか存在しない。

だが、決して国を守る騎士がそれだけしかないわけではない。

彼らは『王宮』騎士団であり、『王国』騎士団ではないのだ。


王都外の国騎士たち――王国鷹兵団。

つまり、国全土の防衛者がここに集っているというわけである。

また、鷹の名を入れているのは、モチベーション維持のためだ。


ちなみに、ネルカは第零部隊の副隊長としてこの場にいる。


(あら、ナハス兄さんもいるわね。それに、ギウスレア殿下も?)


そうこうしているうちに、団長であるガドラクが入室する。

一同は始まりを予見し、一斉に静かになるのであった。


そして、全体を見渡した後、口を開いた。


「この度は、突然の招集に応えてもらい、大変感謝する。何を話すのかということも碌に伝えなかったわけだが……まぁ……派閥も国も関係なく各リーダーが集められたんじゃ……何に関することなのかは想像に難くはないじゃろう。」


理由など一つしかない――【魔王】に関することだ。


これだけの面々を揃えたということは、何か決定的な情報を得たため、これからは攻める側として戦うのだ――室内にいる者のほとんどはそう信じて疑っていなかった。散々に苦渋を舐められ続けている現状、ついにという昂りの気持ちで満ちていた。


しかし、続くガドラクの言葉は、想像とは違うものだった。


「皆は、『魔の森』をご存じじゃろうか? 」


そこはネルカの故郷。

まさかの名前に、彼女は姿勢を正した。


「ただひたすらにデカい木々で覆われた……べルガンテ王国屈指の危険地帯、魔物の巣窟となっている森じゃ。魔物の強さは警報級を超えるようなものはあまりおらず、ただ数が多すぎるという理由だけで危険となった森…………で説明が終わるはずじゃった。」


「………ガマーシュね。」


「あぁ、ネルカ嬢、その通りじゃ。一匹だけ異常に強い個体、魔害級に相当する魔物、しかも蛇竜種が発見されたのぉ。そう言えば、最初にこちらに情報をもたらしたのは、コールマン家のナハス殿じゃったな……まぁ、その情報を元に、ワシらは優先討伐対象として騎士を派遣した。」


「まさか。」


「結果は――完全な敗北じゃ。」


その言葉にネルカを含めた部屋の者が驚愕する。

彼女はナハスの救助をした際にガマーシュと遭遇しており、確かにその時こそは逃げの一手を取るしかなかった。しかし、あくまで唐突の遭遇でネルカ単体、ナハスの救出を優先させたからこその逃げに過ぎない。


つまり、初めから狩る気概で計画を立てた、正規騎士の隊が派遣されたとなれば、さすがに勝てるという程度ではあったのだ。知能の高さを考慮しても魔害級を超えるものではなかったのだ。


あれからさらに成長した?


もしくは、他の要因が――


「近辺の領騎士に、王宮騎士団第三部隊までもがほぼ壊滅に近い状態じゃ。これを魔害級だのという言葉で終わらして良い問題ではないことぐらい、皆も分かることじゃろう? ワシらはこの魔物……いや、『今回の一件』を終焉級とみなすことにした。」


「「「し、終焉級!?」」」


終焉級とはつまり、国という単位を以てして挑むということ。

確かに、これだけの被害となっているのだから徹底しなければならないが、それでも国が【終焉級】として認定するというのは話が変わってくる。となればやはり、含みを持たせた『今回の一件』という言い回しと、他国をも巻き込んだ会議――


そこから導き出される結論は――


「魔王が………いるのですね。」


誰かがポツリと呟いた。

ガドラクはその言葉を紡いだ者へと顔を向けた。


「可能性はある。非常にな。じゃからこそ同盟国も呼んだということではある。じゃが、終焉級として認定したことは、魔王の存在の有無など関係はない。ワシらはあくまで『魔害級上位あるいは厄災級下位の魔物』に対して終焉級として認定しただけじゃ。」


「でしたら、なぜ!」


「もしも、同格の魔物が複数体確認されたとしたらどうする?」


「なっ!? まさか!?」


「そのまさかじゃよ。第三部隊が二体を討伐したらしいが、それでもまだ複数体いることが判明しておる。確認できている限りでも…四体。確定の情報がないだけで、さらにあと二体はいるのではと推測されているがのぉ。」


「魔害級や厄災級が…合計…じじじ、十体!?」


「ゆえに、ワシらは魔物共を【個体としての魔害級】ではなく、【集団としての終焉級】として扱うことにした。つまり国という単位を以てして全力で潰さなければならぬ対象じゃということ。そして、それぞれの魔物に固有の名称を付けることとしたのじゃ。」


蛇竜型魔物ガマーシュ種――【水蒼竜】


牛人型魔物タウルス種――【壊獣】


狼型魔物ルーフ種――【黒影狼】


骨型魔物パリュト種――【死魔骨】


いずれも種として上位側の魔物。

ルーフ種とパリュト種に至っては、下位種を伴って活動するため、『連携』に長けている。もしも、その連携を多種とも取れるというのならば、今までの部隊が壊滅したこともうなずける。むしろ、この状況下で2体を討伐した第三部隊に尊敬の念を抱くほど――と部屋にいる者の多くは考えていた。


だが同時に『これを自分たちが相手するのか?』とも考えていた。


団長がいて、英雄もいる。

だから、見込みで言えば――勝てる。


勝てはするが、どれだけの被害で終わるのか。


報告によれば、この魔物たちから積極的に仕掛けてくることはないのだと書いてあるため、討伐しないという選択肢だってあるのではないのだろうか。魔の森から出させないという計画なら、被害も少ないはずなのだ。


(((この作戦、賛成はできない。)))


部屋の空気が重苦しくなる。

その時だった――


「フハッハ~! 魔王退治か! 心躍るではないか!」


場違いに明るい声が響いた。

皆が声の主の方へと振り向くと、満面の笑みで立ち上がるギウスレアの姿があった。彼はダンッと右足を卓の上に乗せると、周囲を挑発するように続けて口を開いた。


「可能性ではない! 魔王は森にいる! ならば帝国は参加だ!」


「……………皇太子殿、理由を聞いても?」


「これだけの魔物が揃っておきながら、発見のきっかけは一匹の魔物だけだったというのもおかしな話だとは思わぬか? 人間にバレぬよう、隠れているということだ。それに、この報告書の内容、やつらの目的が食事ではないことは明らかではないか! つまり、やつらの目的達成というのは『戦わないに越したことはない』……そんなこと魔物畜生が考えに至るとしたら結論は一つだけ――守る対象がいるということだろう!」


「魔物の守る対象…それって…魔王の事か!?」


「これを逃せば奴らは今以上に力をつけてくるだろう。そして、機が熟した時に魔物たちが一斉に暴れ出すのだ。人類と魔物の戦争、つまりは【終焉戦争】の再来………ありえるとは思わぬか?」


その言葉に拒否の言葉はなかった。

そして、皆の意見がまとまるきっかけとなる。

放置などありえない、魔王は討伐する。


準備等を考慮して――二ヶ月後に討伐作戦が決行されることになった。




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