163話:要人会議
王城の一室。
そこには王宮騎士団の要であるガドラクとアルタン、そして、政治の要である国王ガルドと宰相ドロエスがソファに座り込んでいた。いずれも険しい顔で机の上に置かれた紙を眺めている。
「この報告書について…嘘ではないな?」
「嘘であってほしいが…残念ながら。」
報告書の内容は――魔の森の一件だ。
王宮騎士団第三部隊――半数近くが死亡。
ジャイロ隊長:行方不明 及び センテカ副隊長:意識不明。
隊全体として生存者の心理状態は不安定。
部隊として壊滅したとも言える事態である。
「ガドラクよ、率直に聞こう。これは魔王が関わっていると思うか?」
「そうじゃな…少なくともワシは今、魔王が存在することを前提に計画を練っておる。勘と言えばそれまでじゃが、この結果じゃ……どっちみち最大戦力で向かわねば……ならぬ。」
「そうか、お前がそこまで言うなら、間違いはないだろう。」
近隣領による私兵団、そして王宮騎士団。
これらの大打撃ははっきり言ってしまえば、かなり危険な状態だ。
彼らの主な存在理由が魔物討伐だとしても、大きな戦いがあれば駆り出される。ただでさえ王都襲撃により、王国は他国の力を借りざるをえない状況に陥ってるのだから、戦争でも仕掛けられたら降伏するしかなくなってしまう。
「魔の森がかなり怪しいことは、聖女からの言葉で前から分かっておったが……こちらは味方に隠しすぎてしまっておったかもしれぬな。様子見している間に、知らぬ味方が動いてしまうとは。連合隊と第三部隊、別々でなく同時で協力しておれば、もしかしたらがあったかもしれぬのに…。」
「陛下、お言葉ですが、どこに敵の手の者がいるか分からぬのです。どこかで情報が洩れて、四すくみの状態にでもなっていれば、被害はより一層に広がっていたやもしれません。それに、最大戦力で立ち向かわなければならぬ相手がいるから、という理由で魔王探しを隠せる今を活かしましょう。我々が先手を打てるうちに。」
「そうじゃな。宰相殿の言う通りじゃ。起きてしまったことは戻らぬ。」
「大事なことは、これから…か。」
魔の森を攻略することは確定。
自国の最大戦力を投入させるのも確定。
問題は――他国の力をどこまで借りるか。
今、王国に滞在している他国騎士たちは、ゼノン教と戦うために存在している。魔王が存在するかもしれないからと、協力を仰ぐことは容易なことだろう。それは同時に、敵に見つかるリスクが高まるということでもある。
「借りたら気付かれる。借りなければ戦力に不安が残る、か。しかし、危険な魔物を討伐するという名目があれば、あるいは隠し通せるかもしれないし、そうでないかもしれない。うぅむ…決断が鈍る。」
「騎士団長という立場して言わせてもらえば、借りるべきじゃな。隠す隠さないしたところで、ワシらが遠征するとなれば、どっちにしろ怪しまれるわい。それに、奴らにバレることより、全力を出さず返り討ちにされる方が最悪の展開じゃ。正直なことを言えば、この報告書を読む限り、ワシらだけじゃと負けると思っておる。」
件の魔物――【蒼水竜】。
純粋に強いというのもあるが、報告書の中で最も懸念すべき事項が『知能の高さ』である。基本的に魔物を狩るということにおいて、中身は獣と変わらないという前提がある。もちろん、連携だとかをしかける動物はいるのだが、蒼水竜に至っては獣としての知能の高さの枠を超えている。
どちらかと言えば、霊長類に近い知能。
これだけでも厄介なのに――報告書には――
宰相ドロエスは深い溜息を吐いた。
王国最強のガドラクがいたとしても、あるいはと不安になる。
それほどまでの異常事態が魔の森では起きている。
「ふむ、ガドラク殿の言に従いましょう陛下。例え気付かれたとしても、『実行して初めて気付かれる』という状態に持っていけばいいだけですからな。奴らとて準備は必要でしょう。」
「そうか…そうだな。よし分かった、この件はすべてガドラクに任せるとしよう。必要なら俺や息子どもを使っても構わん。解決を優先しろ。」
「御意…。」
今後の方針としては決まり話は一段落だが、これからこそが油断もできず忙しくなることなのだと、それぞれが深い溜息を吐いた。あらゆる事態がベルガンテ王国にとってマイナスへと動いており、総合的に見れば今は崖っぷちとも言えるだろう。
そこで、ガドラクが口を開いた。
「じゃが、今の言葉で安心したわい。これで、アルタンに任せていた件も前に進みそうじゃな。よし、陛下からの言質はいただいた、殿下を動かしても良いとな!」
「む? ガドラクよ、俺の息子を…動かすだと?」
「あぁ、ずっと考えておったのじゃよ…死神娘や宰相殿の息子、それにマーカス殿下…奴らのように『優秀だが、集団行動をするには難しい存在』をどう扱うべきなのかをのぉ。今はかなり中途半端な立場となっておるので、明確にどこかに所属するべきなのではないか、とな。」
「おや、私の息子もか。それで? 具体的に?」
すると、ガドラクとアルタンはニヤリと笑った。
それまでの重苦しい空気を取り払えるほどの朗報であるかのような態度に、ガルドとドロエスは腰を少し上げて聞き入るように前傾姿勢を取る。そして、アルタンが服の内ポケットから一枚の紙を取り出すと、机へと広げた。
それは人物リストだった。
中にはネルカやエルスター、マーカスの名前も。
だが、知らぬ名前の方が多い。
「部隊の新設――王宮騎士団第零部隊じゃ。」
ベルガンテ王国初の【公認 裏組織】、ここに誕生。
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