141話:魔の森
少しばかりお待たせしました!
今日より、第二部が開始します!
【魔の森】――そこはベルガンテ王国きっての危険地帯。
ネルカの故郷となる大森林で、魔孔のある土地だ。
一応、隣国であるアースラッド王国の領土になるのだが、隣国側から魔の森に行くには山脈を通らなければならず、手を付けられない地域となっていた。
しかし、魔の森から出てくる魔物の被害のすべてはベルガンテ王国が被ってしまい、隣国へと苦情を言った結果――二国での共同管理という形になり――実質的にベルガンテ王国の土地となってしまっている。
そんな土地でも人は暮らしているのだから、不思議なものである。
― ― ― ― ― ―
王都が襲撃を受ける少し前――
魔の森を馬で駆ける二人の騎士の姿があった。
全身を銀の鎧で固めている若者と、軽装で頬に傷跡のあるベテランの二人だった。彼らは必至の形相で、まるで何かから逃げるかのようだった。うっそうと茂る木々に空を見ることも叶わず、方角も碌に分からぬままひたすらに直線を駆けていた。
「チクショォ! なんなんだよ! あの化け物はよおぉ!」
「知るか! 撤退だ! あれは魔害級の範疇じゃねぇよ!」
一年前、ナハスを襲った蛇竜種の魔物『ガマーシュ』。
あの日以来、凶悪さを増したその存在に多くの狩人が命を落とした。
ガマーシュの脅威度は――魔害級。
その報告を受けて編成されたのは周辺の領地部隊、準備の完了を以て討伐任務が始まった。魔の森に面する辺境の地を守る騎士たちである、当然に彼らは貴族私兵団の中でも屈指だ――誰もが勝利を確信していた。
結果は――惨敗。
散り散りになった部隊にもはや強さなど残ってはおらず、生き残った者たちは撤退するしか選択肢が無かった。たまたま近くにいた二人は並んで逃げることになってしまったが、他の面々がどうなったかを気に掛ける余裕もあるはずがない。
「報告が優先だ! 生存率を上げるぞ!二手に分かr――」
「え? ……先輩…?」
右前を走っていたベテラン騎士が、頭部と胴体が離れ離れになる光景を若手騎士は見た。何事もなかったかのように馬だけは走り続け、ベテラン騎士の胴体は上に乗ったままである。
(まただ…この攻撃で、仲間は…。)
一瞬だけ何か線が見えたと思ったら、人が死んでいる。
それこそが連合騎士隊が壊滅した原因である
人も、木も、鎧も、魔力膜も――すべてを貫く直線の攻撃。
(いったい、どんな攻撃をすれば――)
次の瞬間、若手騎士は宙に放り出されていた。
制御の効かない空中の中で彼が見たのは、前後の左足が消失してしまって倒れ込む馬の姿だった。自分には攻撃が直撃しなかった、そんなことを思いながら彼は地面へと叩きつけられてしまった。
馬による全力疾走中の放り投げ――
「ぐっ……あ…がっ!」
受け身を取ることなど叶うはずもなく、縦に横にともみくちゃになりながら転がり回る。頭の防具も脱げ、腰に差していた剣も落ち、彼はついにどこかに体をぶつけて止まった。「ぐえっ」という言葉が口から洩れ、その場に倒れ込むが碌に体を動かせそうになかった。
「……ぅ…あ…。」
ズルリ……ズルリ……
フシュルル~~…。
男の近くに一匹の蛇竜が近づいた。
しかし、打ち所が悪かったのか彼の体はピクリとしか動かすこともできず、視界もおぼろげなものしか見えなくなっていた。そして、彼は圧し潰されるような魔力を感じ、自身が今から喰われて死ぬのだと諦めた。
次第に視界は戻っていく。
ガマーシュが顔を覗き込んでおり、目と目の距離は1mほど。
すぐにその巨体は離れ、次の獲物を求めて移動を開始した。
(た、助かった…のか?)
若者の騎士はさきほどの爬虫類の瞳を思い出す。
死ぬなら興味が無い――そんな眼だった。
(目的は…捕食ではない…?)
体は少しずつ感覚を取り戻ってきた。
どうやら、死につながる打ち所ではなかったようだ。
それでも、死に体であると魔物を騙せたのは幸運だ。
「この……危機を……報告しなくては…。」
彼は幸運を噛みしめる暇もなく、動き出した。
少しでも早く、待機部隊と合流する必要がある。
そうしなければ、被害はさらに増えることだろう。
這ってでも、伝えなくては――
(このままじゃ…援軍が来ても…壊滅してしまう。)
敵は――
― ― ― ― ― ―
辺境貴族による連合騎士隊――生還は1人。
その一人も情報を伝えると、すぐに事切れてしまった。
つまり、全滅と表現しても間違いではない結果になった。
あまりの被害に国はこのガマーシュ種の脅威度を繰り上げ、【厄災級】として討伐最優先の魔物と認定した。それは、王宮騎士団第三部隊をフル活動させるべきだと判断されるに至った。ハスディが王都を襲撃している頃、第三部隊が不在だったのは魔の森に遠征していたためである。
ガマーシュは特殊個体として――【蒼水竜】と名が付けられた。
念には念を入れた準備の下、彼らは遠征に赴くのであった。騎士の中でもエリート集団の王宮騎士団、その中でも魔物退治のエキスパートである第三部隊――厄災級の上位まで対応できる集団だ。それでもなお、万全に期して、集められる限りの領地騎士に協力すら募ったのだ。
彼らは知らなかった――本当の脅威を知らなかった――
唯一の生還者はすべてを伝え切れていなかった――
――バケモノは一体だけではないことを――
勝利の確信は、二度裏切られた。
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