140話:ゼノン教幹部たちの招集会議
これにて第一部は終わりになります。
次回から第二部が開始されますので、これからもよろしくお願いします。
誰も来ぬような山の中、場違いな円形の建物が存在していた。
そこはゼノン教の施設であり、一つの人影が近づいていた。
人影――ゼノン教幹部の一人である魔人シュヒ―ヴルは、建物に入るための扉に手をかけた。中から洩れる光に目を細めつつ、その扉を開くと中は円卓と椅子があるだけの簡素な議場だった。
椅子の数は11つ。
しかし、座っているのは5人だけだった。
彼は自分の座席へと歩いて行く。
「シュヒちゃん、やっと来たし、おっそ~い! ただでさえ集まりが悪いんだから、遅れるとかマジかんべんだし。」
そんな彼に話しかけたのは、隣の椅子の女性。
パッと見た感じは若気ではあるが、よくよく見てみると厚化粧をしているだけであり、ところどころが皺によってヒビ割れていた。彼女も幹部の一人である。
「黙れ若作りババァ、甲高い声が耳に障る。」
「ひど~い!」
そんな言葉を無視したシュヒ―ヴルは椅子に座ると、円卓を見渡して集まりを確認する。しかし、特に何もなかったのか、テーブルの上に足を置いて、退屈そうに天井を見るのだった。
(いつものメンツ…いや、珍しくハスディが不在か。)
彼は円卓の中でも一際大きな椅子へと目を向けた。
議長席であるそこには、一人の少女が座っている。
――金色の聖女ズァーレだ。
ちなみに、議長を最年少のズァーレが務めている理由は、聖女の持つオーラを使いでもしないと、ゼノン教幹部たちは碌にまとまることもできないからである。聖女の威光使っても集まりはこのザマではあるが、それでも彼女の参入以前以後では情報共有は天と地。ここまで脅威の組織とはなってなかっただろう。
「皆さま、忙しい中、集まってくださりありがとうございます。」
「挨拶はいらねぇ。わざわざ本部じゃねぇ、こんな変な場所に招集したんだ。他の下っ端には聞かせらんねぇような、重大が起きたってことだろう?」
「えぇ、そうですね――。」
ズァーレは少し間を置いた。まるで言い淀むように。
一同が緊張した面持ちで見つめる中、彼女は次に言葉を絞り出した。
「我らが同志、ハスディが殺されました。」
そのまま彼女は何があったのかを報告する。
――裏でハスディが魔王を種から芽吹かせていたこと。
――ハスディは魔物から愛される体質であったこと。
――その力を以て、ベルガンテ王国の王都を侵略したこと。
――そして、ネルカ・コールマンによって殺されたこと。
最後に、体質のことは彼女だけは前から知っており、なんならハスディの体の一部――足の指を託されていたことを明かした。これに関しては、幹部たちは飛龍による移動という形で恩恵を受けており、『聖女だから飛龍は従っていた』と勘違いしていたことである。
「つーか、ハスちゃんも、あーしらに黙って動いて、マジサイアク。シュヒちゃんかベルタっちあたりが付いていれば、勝っていたっしょ。」
「まっ、聖女除いて、俺らはジジイとは気が合わなかったからな。」
ざわつく議内、だが困惑する者こそいれど、悲しむ者はズァーレを除いて誰もいない。そんな中、黒装束を身にまとった一人の男が立ち上がり、彼女に対して言葉をかけたのだった。
「聖女殿、一つ、よろしいでござろうか?」
「どうぞ。」
「拙者考えたのだが…今後、ゼノン教は結託し直さなければならぬのではなかろうか? ハスディ殿が発芽させた魔王の種とは、我々が盗まれたと思っていた……初代教祖カンザキ様に託された種で間違いないでござろう? すなわち、最終手段が確実につぶれてしまったことを意味するでござる。」
「そう考えるのが妥当でしょう。」
「あ~、くそっ、種を探すために帝国で暴れた俺の労力返しやがれってんだ、あのクソジジイ。だがまぁ…皇太子と戦ったのは楽しかったから良しとするか、キヒヒッ!」
「となれば、もう一体の魔王…拙者たちが『ゲームの魔王』と呼んでいるものを、本格的に探す必要ができたということでござる。幸い、王都はハスディ殿のおかげで疲労しておろう…幹部もこうして集まっている…攻めるなら今ではござらぬか?」
その言葉には全員が頷いた。
キワモノ集団と自覚のある彼ら自身であるが、今日集まっているメンバーは(普段やらないだけで)協力し合える。皆が、この事態では理性を優先すべきだと判断した。
次の瞬間――
『――王都を攻める必要はないわぁ。』
天井が爆発し、崩壊した。
― ― ― ― ― ―
瓦礫で覆いつくされた一帯。
不自然に綺麗な箇所が一つだけあり、議長席に座ったままのズァーレと、黒装束の男が「聖女殿の隣の席で助かったでござる。」と呟きながら地面に突っ伏していた。
「お久しぶりです、リーネットさん。」
いつの間にか、ズァーレの前にリーネットが立っていた。
しかし、生気を感じられない。幻影だとズァーレは察した。
悲し気な表情をしながらも語り掛けるズァーレに対し、リーネットは扇子を口元に広げるとフフフッと笑った。間に挟まりたくない黒装束の男は空気に徹することに決めていた。
『あら、半年前に一度しか会ってなかったと思うけど、覚えてくれているなんて嬉しいわぁ。やっぱり仲良くするなら、聖女様ね。』
「建物の破壊は、仲良くすることとは真逆では?」
『挨拶代わりのつもりよ。二人以外は死んじゃったかしら?』
そう言ってリーネットが周囲を見渡すと、いくつかの瓦礫の中からボコリと手が出てきた――這い出るは各幹部。厚化粧の女性だけはシュヒ―ヴルに守られながらの登場で、「シュヒちゃん、マジかっ……って鱗が痛い!」「うぜぇ! 黙ってろ! 離れろ!」といったやり取りをしていた。
ズァーレはホッとした表情へと切り替えた。
そして、リーネットに対してキッと睨む。
「今日は何の御用でしょうか?」
『忠告と助言に来たのよ。』
「……………。」
『あなたたちが探している物は、確かにあの国にあるけれど、残念ながら王都には無い。だから、あなたたちの活動は全部、無駄足よ。ってことを教えに来たの。』
「……どうして、そのようなことを私たちに?」
『フフッ、教えた方が面白いからに決まってるじゃない! だって、教えなかったら、あなたたち、いつまで経っても王都にこだわるでしょう? そしたら、王国とあなたたちの戦いになっちゃうじゃないの! そんなのイヤよ、私も混ぜなさい。』
カラカラと笑う彼女はなんてことないようだった。
冗談などではなく、嬉々として本音を語るかのように。
幻影越しながら、嘘ではないと思わせるものがあった。
悪意も善意もない――ただ欲のままに。
『連合国とゼノン教と私たち…果たして最後に笑うのはどの勢力かしら? いいわぁ、いいわぁ、きっと熾烈を極めることになるわぁ! フフッ…た・の・し・み。』
ズァーレは思わず空を見上げて溜息を吐いてしまった。
めんどくさい人間に目をつけられてしまったのかもしれない。
同時刻、とある騎士団長も空を見上げていることなど誰も知らない。
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