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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部: 後 日 譚
139/207

139話:調査

ベルガンテ王国の下水技術は大陸一だと言われている。

それは多方面での意味合いであり、衛生管理だけでなく下水道の建設技術なども含めた話である。一度入ってしまえば抜け出せない、などと冗談で言われるほどに下水道は非常に広いのだ。


そんな下水道の山側――そこには大穴があった。


「これは……相当じゃのう…。」


「そうですね。」


王宮騎士団第一部隊長ガドラク・ワマイア。

王宮騎士団第四部隊副隊長アッシュ。


珍しい組み合わせの二人が大穴を見て呟いていた。

周囲では騎士たちが忙しそうに作業をしていた。


「だ、団長! 報告致します!」


「うむ。」


「壁の素材ですが、おそらく生成方法は我々が知るものと同じで、冷え固まる液体と鉱物を混ぜたもので間違いないでしょう。ですが素材の詳細が分かりません………耐久度に関して言えば、我々のものよりも非常に高いものになります。それに、金属質の枠組みが中に仕込まれてもいます。」


「なるほど、お前さんの見解は?」


「人の手では作ることが出来ません。」


「となれば魔法かのう。引き続き調査をせい。」


「ハッ!」


ガドラクには一つだけ心当たりがある――ゴーレムだ。


商業地区の連なる背の高い建物、それらを優に超えるサイズのゴーレムともなれば、この大穴を舗装しながら作ることなど容易いことだろう。問題点としては魔力の反応で気付かれやすいことだが、日や時間に注意さえすれば無理というわけでもない。


「王都で暴れていた大型の魔物も…この穴を通ったか。」


「大型は…軟体型や群体型ばかり。通れないことはないかと。」


「出口は?」


「山の反対側でしょう。」


「うぅむ…。」


王城の背後には山がある。


しかしながら、王城に近い部分は崖となっており、山の中は毒性の強い植物が多く、自然の防壁となっており越すのは厳しくなっている。毎年、第三部隊が仕掛けた罠の点検に山に入ることになっているが、手練れの騎士ですら万全に万全を重ねる必要がある。


しかし、それは越すときの話だけ。


下からの侵入は想定していない。


「奥も調査すべきなんだろうが。無理そうか?」


「そうですね…感じます。多くの魔力が。逃げた魔物がどこに行ったのか気になっていましたが…攻めもできず、帰りもできなくなった…といった感じでしょうか? ただでさえ暗闇ですので…長期戦になるかと。」


「まっ、向こうさんから来ないなら、構わないわい。見たいもんは見た、お前さんは第四とこの隊長に報告しておけ。」


「了解。」


アッシュはそう言うと、消えるようにその場から離れた。



 ― ― ― ― ― ―



ガドラクが地上に戻る頃は、昼下がりの時間だった。

彼は曇り空を見上げると、一つ伸びをして肩をほぐす。


「さて、どうしようかのぉ。」


あれから三ヶ月ほどが経過したが、街の復興は想定の何倍も早く進んでいるようだった。その理由として、リーゼロッテや影の一族の祖国であるジャナタ王国に限らず、周辺の国すべてで連携を取るようになったことが大きいだろう。


アースラッド王国、クカン王国、パラナン帝国の三ヶ国。


というのも、報告が無かっただけでゼノン教の活動は、皆が思っている以上に広範囲に広がっているのだった。まるで、何かを探しているかのような動きっぷりで、攻撃の対象が見境がないのだ。


そして起きたベルガンテ王国の王都襲撃。

さすがに秘匿できるものではない被害。


そこでようやく、各国が「自国だけでない」と初めて知ったのだ。


自然、生じる流れは――同盟。


「にしても、この国に対するこだわりは異常じゃのぉ。」


他の国に対してしたことと言えば、呪具の回収や実験の成果を試す――これだけでもゼノン教が恨まれるには十分だが――ベルガンテ王国だけは随分と格が違う。


――側妃勢力のクーデターに協力。

――王子を狙うために避暑地を襲撃。

――(ハスディの独断とは言え)王都を襲撃。


あまりにも集中砲火なものだから、周辺国から「何か隠しているあなたの国が悪いのでは?」と疑いが向けられたほどだ。ちなみに、この疑いに関しては情報をオープン――それこそ本当なら出すべきではない情報すら開示――したことで晴れている。


だが、知らないだけで何かがあるかもしれない。


ということで、各国の騎士たちが現在、王都には滞在している。


「ワシらが知らないこと…。そう言えば、聖女様が言っておったか、ゲームとやらの最後は魔王を討伐するって。ありゃ? でも、それは二年後の話で…待てよ…確か嬢ちゃんから聞いた昔話では、教祖カンザキのもとに『魔王の種』が届いたって話じゃったな。ん? そうすれば――」


今回の襲撃した魔王が、種からうまれた存在だとしたら?


「かつて世界を滅ぼした存在が、あの程度で終わったことにも納得がいくわい。きっと、あれはまだ幼体…発芽したての魔王じゃったのかもしれない。」


とすれば、可能性として高くなるのは――


――聖マリで復活する魔王は別で存在するということ。


「もしや、奴らがこの国にこだわる理由は―――」


と、その時だった――


『――ようやく気付いたか。』


ガドラクの背後から声がした。

彼には声の主に聞き覚えがある。

しかし、ここにいるはずがない存在だ。


彼は恐る恐る振り返った。



「なっ!? 貴様!」



そこにいたのは――



――黒血鎧バルドロだった。



(ワシが気付かなかった…!? こやつほどの存在を!?)



ガドラクは一瞬で魔力を昂らせた。

今のコンディションなら筋肉開放も可能。

その気になれば、いつでも本気で戦える。


「……………なんじゃ、久しぶりじゃのう。」


『あぁ、そうだな。貴様とは久しく感じる。』


「ふん、死神に負けたと聞いたぞ。ちなみに、ワシは勝った。」


『秘義を使って…だろう。緊急用の最終手段だったはずでは?』


「ガハハハ! おかげで、先日は本気を出せなくて困ったわい。」


会話をしながらもガドラクは観察をやめなかった。

そして、一つの違和感を覚えたのだった。

しかしならがら、その違和感の具体性は分からなかった。


『おっと、無駄話をしてしまったな。どうにも、貴様といると口が軽くなってしまってかなわなん。ふんっ、安心しろ、戦うことなどできやしない。今日はただ、話をしに来ただけだ。』


その言葉で、ガドラクは違和感の正体に気が付いた。


(こやつ、幻影か! どおりで何も感じないはずじゃ…。)


それならば相手側の目的は、伝令もしくは宣戦布告。

少しでも情報を聞き出す方針へと彼は切り替えた。


「仕方ない、話だけは聞いてやるか。」


『まぁ、話と言っても、ちょうど先ほど貴様が気付いたようだがな。』


「それは、魔王についてのことかのう?」


『知った経緯は貴様らとは違うがな。我々の仲間に、未来を知ることができる者がいる。当然、ジャナタ王国の姫聖女のような力を持っているわけではないが……少なくともその情報を元に行動してもいい……そう判断できるだけの確実性はある。』


「なるほどのぉ。つまり、魔王が復活することは分かっているということか…。しかも、この国でってことじゃな? それはゼノン教も同じことで。じゃが詳細までは知らなくて、ゼノン教は国が隠していると踏んで襲撃を…と言うことか…。」


『ご明察。その通りだ。』


バルドロはそう答えると、ジジジ…という音ともに姿が崩れ始めた。別の魔王がいると言う情報を伝える、そのためだけにバルドロの幻影が来たということに、ガドラクはどうしても驚きを隠せなかった。


震える声を抑えて、彼は話しかけた。


「最後に一つ、問おう。」


『なんだ?』


「なぜ、ワシに教えた。」


『――その方が楽しいから、我々にそれ以上の理由などない。』


そして、幻影は消えた。


一人残されたガドラクは空を見上げ、長い溜息を一つ吐いたのだった。未だに曇りが晴れぬ空模様であるが、吹く風に寒さは感じなかった。しかし、肌ではなく、心が冷える感覚が彼にはあった。


次の季節が、迫ろうとしていた。




【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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