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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部: 後 日 譚
133/206

133話:親子? 兄妹?(前編)

第一部は終了しましたが、『話のオチ or 今後のキッカケ』として後日談があります。

どこかの山小屋、一人の女性と一つの鎧が暮らしていた。

彼女はエプロンを付けた騎士が淹れた茶を飲みながら、王都に潜入させている部下からの報告書を読んでいた。初めは退屈そうにしていたけれど、途中で思わずといったようにフフッと笑った。


「リーネット様、何か嬉しいことでも。」


「えぇ、バルドロ、あなたも読んでみなさい。五つ目の報告よ。」


女性と鎧の正体はリーネットとバルドロだ。

シュヒ―ヴルの襲撃により隠れ家として使っていた家は消滅し、それどころか調査も入ってしまったため少し遠出を強要されてしまったのだ。今は、王国西部にある山で過ごしており、以前よりも不便な生活になってしまった。


バルドロは渡された報告書を受け取ると、ジッと内容を見る。

てっきり彼女のお気に入り娘のことだと思っていたが――


「マーカス殿下…のことですか…。」


「あの子が聖女ちゃんの保護者になったのよ。部隊組んで国中を回ったってのも驚きだったけど、まさか国を救った英雄の一人に選ばれるなんてね。フフッ、さすがは王子ね。」


「リーネット様がそのように言うなんて…驚きました。」


「やぁねぇ、いくら私でも自分の子供ぐらいは気に掛けるわ。確かに野望のための道具として使おうとは思っていたけれど、基本的には母と子よ。」


基本的にリーネットの優先事項は『自分にとって楽しいかどうか』である。それは家族に対しても同じであり、昔からの仲がどうなろうが、それこそ実家であるアランドロ家がどうなろうが、興味がない相手にはとことん興味がない。


では、マーカスに興味がわいたのか?


違う、この顔は違う。

バルドロには違いが分かる。


これは子を想う母の顔だった。


「ねぇ、王家七不思議の一つ…『王の証』って知ってるかしら?」


「………いえ、存じ上げませぬ。」


「国王の子はね、必ず銀色で、顔がよくて、優秀なの……例外なく。デインという規格外が弟にできてしまっただけで、決してあの子は無能なんてことはないわ。自信をなくして引き籠っているけど、唯一の王女であるイアラだって同じよ。み~んな、王の証を持った子よ。」


「王家の血ということですか。」


「でね、ここからが七不思議と呼ばれる由縁なのよ。王の証は国王の子だけにしか出ない。兄弟姉妹の子に銀髪が生まれない。そして、事情によって国王が変わった場合、それまで王の証を産まなかったとしても、国王になった瞬間から王の証の子を産めるようになるのよね~。」


「それは…確かに奇妙な。」


「ごくたまに、王子であるうちに証の子を産むこともあるみたいだけど…でも、その王子は必ずいつか国王になっている。つまり、国王になる運命を持っているの。ほら、孫のエラトがそうでしょう?」


バルドロはチラリとリーネットを見る。

その表情は珍しく、悲哀の色を帯びていた。

彼はこんな主人を今まで一度も見たことは無い。


どうして王の証の話をしたのか。


どうしてそんな表情をしているのか。


どうして息子だけは想う対象になるのか。


バルドロには家族というものは分からないが、今のリーネットは誰かからの言葉を待っているようだった。彼は正解を言える自信はなかったが、それでもついと思ったことを口に出さずにはいられなかった。


「あの方は、リーネット様の御子息です。」


「そりゃそうよ。私の子よ。私が産んだもの。」


「そういう意味ではございません。」


「あら、どういう意味かしら。」


「マーカス様は、陛下とリーネット様…御二人の特徴を足しております。」


「え? 私のも?」


「えぇ、ですので…マーカス様にとって、これまでの人生よりも、これからの人生の方が楽しく感じるようになるでしょう。あの方は…誰からも親しく接してほしいという気持ちと…困難に立ち向かう快感を味わいたいという気持ち………そんな陛下とリーネット様の性格を、きちんと受け継いでおられます。今まで、それらを表に出す機会が無かっただけです。」


「そう…………なのかしら。」


「王の証とは、片割れが王だっただけにすぎません。」


リーネットは窓へと近づくと、おもむろに空を見上げる。

この空を、息子も見ているだろうか。



 ― ― ― ― ― ―



マーカスは王城を歩いていた。

本丸とは別の、主に騎士関連が使用する棟だ。


この棟が一番、恩人である辺境伯に会える確率は高く、だから彼はこの棟で意味もなく歩くことが好きだ。夜会以降はしばらく帰っていなかったものだから、懐かしいという気持ちを抱いていた。監視もいない一人の時間に、彼は自身の思考世界に没頭することができていた。


(甘やかされてんなぁ…俺…。)


マーカスの実母が国の乗っ取り行為をしたことについて、息子である彼がどうこう言われたことはない。むしろ、デインと共に兄弟で城を守り抜き、敵の兵士をこちらに引き込んだ王子という、美談だけが出回ってしまっている。そして今回、引き込んだ兵士と共に王都救出に駆け付けたので猶更だ。


嘘ではない。が、本当が隠されている。


『母の所業知っていて、無関係を貫こうとしていた。』


加担はしていないが、加担に限りなく近かったのだ。

動くのは罪だが、動かないのも罪である。


それを国王は――父は――許すどころか、今後を整えた。


(だが、自由ではなくなったな。)


これまでの人生、自由だった。

母方の実家に加担しない、それさえ満たせれば自由だった。

多くを遊びに費やし、多くを怠惰に生きてきた。


なのに、今は、騎士団の新部隊の隊長になる方針になっている。

スキンヘッド集団による救援活動が評価されたのだ。


彼らは作戦実行に移る前だったことと、今回の王都襲撃を救ったことの評価で許されることになるだろう。ただし、許されると言っても、マーカスの部隊員として国に貢献することは強制である。例え贖罪活動が終わっても、完全な解放とまではいかないだろう。


(さて、どうしていこうか。)


ふと立ち止まると、何気なしに窓先を見る、

ボ~っと景色を眺めていると、どこからか声が聞こえてきた。

それは階下の庭からで、二人の女性の声だった。


「腰が引けているわ! 腰は据えるのよ!」

「はい! 分かりました! 師匠!」


ネルカとマリアンネだった。

前者はなぜか騎士服を着ており、後者は短シャツ短パンツに薄地の肌隠し(おそらくサラシを巻いている)というスタイルだった。あの二人が高位貴族女性と聖女なのだと言われても、知らない人ならきっと信じないことだろう。


そんな二人がしていることは、木剣を使った鍛錬だった。また、よく見てみると、近くには聖女付きの護衛がいるにはいるが、護衛であるはずなのに彼らは彼らで鍛錬をしている。


(何してんだ…アイツら…。)


マーカスはその場を離れ、庭へと向かった。






【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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