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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部: 終 章
131/206

131話:聖戦の乙女マリアンネ (前編)

魔王の粉は聖女の力により無力化された。

それどころか、粉に聖女の力が付着したほどだ。


傷を癒やす、心を癒やす、破壊の運命を修復する力。


光り輝く粉が、真っ暗な夜の中、人々の元へと降りしきった。

寒い夜のはずなのに、不思議と温かいような気になってしまう。

きっと幻想的なその光景を、彼ら彼女らが忘れることなどないだろう。


そして、人々は皆が同じことを思った――



――あぁ、王都は守られたのだ。



 ― ― ― ― ― ―



ベルガンテ王国の王城、玉座の間。

そこには王家だけでなく、多くの人間が集まっていた。

彼らが見つめる先は、正面の大扉。


今、開かれる。


現れたのは豪勢なドレスに身を包んだ、桃色の髪の少女――マリアンネ。


数多くの視線を受けて緊張している彼女は、右手と右足、左手と左足が同時に出ている様子だった。そんな彼女を見た人たちの反応の中に、彼女を蔑む者など一つもない。しかし、彼女はあまりの緊張にそのことにすら気付いていなかった。


(マリ……大丈夫よ。)


その心が届いたのか、マリアンネはふと右を見た。

そこには彼女の師であり、親友でもあるネルカが立っていた。

騎士が並ぶ壁際だが、高身長の赤い髪はよく目立つ。


「あっ…。」


彼女は一呼吸入れた。

すると手足は問題なく動いた。


リハーサル通り、彼女は国王の前まで歩いて膝間づく。


「面を上げよ。」


その言葉に、彼女は目の前の人物を見た。

ガルド・ザ・ベルガー国王――人徳王だ。


マリアンネとしては初めて見る顔であるが、その人柄は街中でよく話題になるため知っている。民の為に常に考えてくださる方で、顔も声も知らないけど大好きだと言う人が圧倒的に多い。割と茶目っ気な性格なところや、親馬鹿であるという情報すら出ている。


(この御方が国王様……ということは……。)


そんな国王の傍には性別年齢問わず人が立っている。

すべての王家関係者がそこには揃っていたのだった。


現王の従弟や、長男ケルトの妻、長女イアラなど、ネルカでさえも初対面の者もそこにはいる。だが、いずれもその立場に値するだけの『格』をマリアンネは感じ取っていた。見慣れているはずのデインや、無精な風体のマーカス、幼子であるエラトですら、そこに立っているときは『王の格』を醸し出していた。


「マリアンネ嬢、此度は我らが王国を救ってくれたこと、感謝する。」


「は、はい!」


「皆に紹介しよう! この者は我が国を救った…【聖女マリアンネ】だ!」


ガルドが高らかに宣言すると、拍手が一斉に鳴り部屋を包む。拍手する人々は今にも感極まって大声を出したいところを、王の御前ゆえに我慢しているようでもあり、マリアンネもなんだかむず痒い気持ちが湧き出てしまった。


彼は横で控えている宰相に目配せをすると、頷いた宰相は傍の小テーブルに置いてあった指輪に手を伸ばす。そして、マリアンネに近づくと、リハーサル通りに差し出された右手の中指に着ける。


それは桃色の宝石が装飾された指輪だった。

今後はこの指輪も、【桃色の聖女】を証明する物となるのだ。

響く拍手喝采はさらに大きなものとなった。


「んん! ゴホンッ! マリアンネ嬢を聖女に認めるにあたって――」


だが、次の王の言葉で拍手は止まることになる。


「――マリアンネ嬢を保護する家が必要になる。そこで、彼女をマーカス・ベルガー・アランドロ騎士爵の養子に入れることに決定した。よって、今日よりマリアンネ・アランドロを名乗るがよい。」


宰相や王妃、果てはマーカスですら驚いた顔をしていた。

ならばきっと、これは国王の勝手な判断なのだろう。

サプライズが上手くいったとばかりに、ガルドはドヤ顔である。


これはいったいどういうことか。


『ベルガー』であり、『騎士爵』を授け、『聖女』を託す。


それが意味する事は、マーカスという存在に対し、

――親子関係を切ることをせず

――それでいて政治的発言力を与えず

――王都を救った英雄として扱う

国王がそういう判断をしたということである。


「ち、父上…。」


「良いな? マーカス。」


「は、はい!」


「マリアンネ嬢は、どうだ?」


「え? ん? はい…あ、はい! 謹んでお受けいたします!」


マーカスもマリアンネも国王のゴリ押しに、考えがまとまらないまま返事をする。部屋にいる貴族たちのどよめきや、王妃と宰相からのジト目を受けながらも、彼はそのまま聖女の授与式を進める。


「というわけだ。マリアンネ嬢、改めて此度の件、大変感謝致す。」


「えっと、あれ…言葉忘れ………はい、あっ、し、失礼します!」


リハーサルにはなかった事態に混乱し、言う言葉も忘れてしまった彼女は、深いお辞儀を一つ入れると、クルッと回れ右をして両手両足を揃えながら、扉の方へと歩いて行こうとした。


そうなると自然、ネルカを見る。

彼女が立っているのは騎士の列であるが、立つ者の配属部隊や地位はバラバラである。マリアンネにはあずかり知らぬことではあるが、彼らは今回の王都襲撃を防ぐにあたっての――功労者たちだ。聖女の授与の後に、武勲を讃えられることになっている。


そこには見知った騎士たちがいた。

マリアンネという人間は聖女として守られる以前から、避暑地でデインとアイナの恋路を応援した仲として、王宮に仕える一部の人と仲が良かったりする。もちろん王宮騎士団第二部隊の者がほとんどで、聖女となったこれからも機会は増えていくことだろう。


そして、第二騎士団の有望株――ロルディンも同様に。

デインやトムス、エルスターたちと共にゼノン教を調査し、王都襲撃の日には現れた巨大魔物の討伐に貢献している。夜会での一件も、避暑地での一件も、彼がいなければ被害がどうなっていたか分からないと言われているほどだ。



そんな彼の左腕は――なかった。



マリアンネは一瞬、息が止まった。





【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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