124話:時計塔の秘密兵器
王都には一つの時計塔が存在する。
大通り沿いに一つだけそびえ立っている。
基本的に、この世界において時計技術はあまり発展しておらず、金持ち貴族が玄関に大きなものを飾る程度の代物である。しかし、そんな時計を大衆でも使えるよう、時計塔を作った組織がいた――それは『ヤマモト連合』。
そんな時計塔の入り口に三つの人影があった。
「お、おい! 逃げよう! やべぇって!」
「逃げたきゃ逃げろよ、ジャン。大将が頑張ってんだ、俺は戦うぜぇ。なぁ、ラルシュ、だからオメェはこの時計塔に来たんだろぅ?」
「あぁ、マリは…俺が守る。兄だからな。」
人影の正体はヤマモト連合のメンツであり、魔道具製作のプロフェッショナルたちだった。その中の筆頭であり、マリアンネの双子の兄でもあるラルシュは、時計塔の鍵を開けると中へ入って行く。
(マリ…。)
実のところ、彼は少し前にマリアンネを見かけた。
それは丁度彼女が倒れている誰かを治しているところであり、彼女の体は光輝いているところだった。その瞬間、王都を包んだ光の正体が彼女のものであり、王族やネルカが彼女を守ろうとしていた真の意味を知ってしまったのだ。
妹がどんな存在かは知らない。
だが、今の王都に必要なだけは分かる。
治療が終わり、再び中央広場へと走り出す彼女を、ラルシュは止めることなどできなかった。それと同時に、いっしょに着いていくという勇気も起きなかった。
当然だ。ラルシュには力などない。
行っても足手まといになるだけだ。
だが、できることはある。
「まさか…使う機会が来るとはな…。」
時計塔の四階。
そこには部屋の大半を埋め尽くすような、布で隠された巨大な何かが置いてるだけの部屋だった。三人がかりで布を外すと、魔石回路が入った巨大な箱と、それに管で繋がった細長い物が繋がっていた。きっとこの場にマリアンネがいたとしたら、細長い物を「狙撃銃を思い出す形だ…。」とつぶやいたことだろう。
胴は筒状になっており、グリップと複数のレバー、そして望遠レンズが付いていた。
ラルシュは専用の弾丸を取り出し、グリップ底のカバーを外して入れる。いくつかのレバーを操作して、弾丸の装填を完了した。
「魔兵器『ディリュート』。」
英雄譚に登場する雷精霊からあやかった名。
「こんな兵器作ったなんて知られちゃったら、ぜってぇ怒られるな。いいか、今日使ったことも内緒にしておけよ。特に騎士団にだけは知られちゃなんねぇ。」
事の発端はミキサーを作成したときだ。
そもそも【電気】と呼ばれる概念が生まれたのは、ここ数十年の話であり、未だに名称としては【雷の系統】を使っているほどである。そして、魔法は別として魔道具となると、この系統の使い道は「発熱」「発光」だけしか知られていなかった。
王都は大規模な整備計画が実施され、電気を使った街灯こそ今では当たり前になっているが、この系統が使われているのはそれぐらいである。最も身近で、最も多く使われ、最も知られているにもかかわらず――最も理解が浅い――それが【雷の系統の魔力】なのだ。
だが、マリアンネはミキサーを作成するために、この世界にモーターの原理を持ち込んでしまった。それはラルシュたちが自分たちだけの秘匿情報にしなければならないと判断した、魔道具の歴史を飛躍させかねない原理だった。
ミキサーだけにして、封印しよう。
この原理で物を作らないようにしよう。
あっ、ちょっと待って……。
――なぁ? こっそりならいいよな?
好奇心には勝てなかった。
マリアンネには内緒にしておこう。
そうして作られたのがこの兵器。
電磁を利用した金属物射出兵器――所謂≪レールガン≫。
複雑かつ巨大な魔石回路、大量に必要とされる電気の魔石、熱による魔道具の大破――試用ですらコストの係る兵器である。あまりの威力に研究をストップさせていたが、『もしものとき』のために試作機の一台だけ残していたのだ。
今が――もしものとき――だ。
「で、誰が撃つんでぇ? ジャンか?」
「無理無理無理! 無理に決まってるだろ!」
「…………ラルシュは? 製作の第一人者だろ?」
「普通に考えて無理って分かるだろ。」
「おい! なんでここに来たんだよ!」
「ぐっ! し、衝動的に決まってんだろ!」
「ちなみに……何を撃つ予定だったんだ?」
「………。」
「それすらもかよ!」
この武器で狙える距離はそこまで遠くはなく、もっと言ってしまえば時計塔の高さ程度では、角度にも限界だってある。強いて言うならマリアンネが向かった先だが、そこは現在は魔王ジャングルと化しており、植物以外の生き物が外からでは見えない状態となっている。
3人はそれぞれ顔を見合わせて動きを止めたのだった。
そのとき――
「その武器、形状的に狙撃だな?」
下の階に続く階段から、誰かの声。
三人はバッとそちらの方を振り向くと、一人の男が上ってくるところだった。先端がウェーブ掛かった赤色の髪に、身の覚えがあったのはラルシュだけだった。彼は赤髪の男に恐る恐る声をかけた。
「貴族様、えぇっと…死神…の親戚か何かか?」
「おう、その通り、兄のナハスってんだ。よろしく。」
赤髪の男は――ナハス・コールマン。
二人の兄がこの瞬間、邂逅することとなった。
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