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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第10-2章:祭と友と恋と(後編)
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119話:最強の老兵(前編)

王城正面――そこは王都でも最も激戦区。

多くの魔物が、多くのゼノン教信者が押し寄せ、止めるべく戦う騎士たちでごった煮と化していた。そして、少し離れた位置、屋根の上に獅子型の魔物が鎮座していた。


大きさ事態は他の巨大魔物と比べれば小さい部類だが、あくまで比較対象が大きすぎるだけで獅子型の魔物も十分に大きい。また、獅子型と表現こそしたが、頭部には捩れ角、背には翼が生えており、尾に当たる部分は蛇となっていた。


魔物高位種――キマイラ。

動く気配は一切ない。


「動かんな…アルタン…どう思う?」


「そりゃあ、俺らと同じだろ。」


そんなキマイラと睨めっこ状態と化してしまっているのは、王宮騎士団第一部隊長のガドラクと副隊長のアルタンだった。彼らが戦場に出てしまえば、地上での頓着状態は一気に傾くのだが、キマイラから目を離す隙を見せたくはなかった。


そして、キマイラが動かない理由も同じ。

騎士団の最強たちから目を離したくないのだ。


「せめてもの救いは…他は片が着いた…ところか。」


彼らは王城の塀の上に立っている。

だからこそ、王都一面が上から見えるのだ。

もちろん、屋根を越すような巨大魔物は視認可能だ。


まず初めに巨大な水球が消え、次にオクナタスと思わしき魔物が萎んでいった。ピリピリと肌を刺激するような魔力の気配が薄れ、討伐に成功できたのだとガドラクは悟った。


そして、ちょうど真正面の見える位置、炎の魔法の使い手がゴーレムを撃破したのが見えた。近くには植物型と思わしき魔物と戦闘している者が、それこそ単騎で戦っているが、遠くからでも見覚えのある黒一色の様相にガドラクは心配をあまりしていなかった。


蛇型だけは見失ったが、それだけなら誰かが対応してくれるはず。

今の頓着状態を受け入れるだけの気持ちは存在していた。

(ふむ…ようやくか。)


そして、頓着状態だったからこそできることもある。

それは魔法を行使するための準備時間を稼ぐことだ。


城壁の麓、そこには王宮に仕える魔法使いたちが控えていたのだった。数にして7人、彼らは皆、≪理≫を以て魔法を研究する、本来の表現用途としての『魔法使い』そのものだ。運による、なんちゃって魔法使いではない。


七賢人――そう呼ばれている。


そして、彼らのうちの一人がガドラクに合図を送る。


「行くぞ!」

「了解した!」


ガドラクとアルタンは空中に身を投じた。

二人は武器を抜くと、臨戦態勢へと入る。


次の瞬間、賢人のうちの一人が魔法を発動させた。

二人に突風が生じたかと思うと、その体は地上で戦っている者たちの方へと押し出されていく。彼らが向かう先には、騎士団の連携により敵が固められていた。


「「ぬぅんッ!」」


――ガドラクの戦斧。

――アルタンの鉄棍。


二振りの破壊的攻撃により、敵は潰され、吹き飛ばされていく。

土ぼこりが舞い上がる中、そこに映し出される二人のシルエットに、人間はおろか魔物ですら恐怖を抱いた。そして、間髪入れる暇もなくガドラクが土ぼこりから姿を現し、近くにいた魔物を戦斧で切断。少し遅れて現れたアルタンがゼノン教の信者の頭部を粉砕した。


「「「「隊長に! 続け!」」」」


周囲の騎士たちに活気が満ちる。


『ガオッ!』


呼応するようにキマイラも動いた。

魔法を使うべく魔魂へと意識を向けると、キマイラの周囲がバチバチと音を鳴らしながら電気が発生し始めた。そして、青白い稲妻がハッキリと見えるほど魔力が高まると、ガドラクに向けて――


――稲妻は魔物の目の前に突如できた、白い壁に阻まれた。


否、白い壁ではない、それは氷の壁だった。

壁は円柱状になっており、キマイラを囲ってる。


『グルルゥ…。』


キマイラは破壊するという選択肢を取らず、空いている上側から脱出するという選択肢を取った。四肢に力を入れ跳躍し、背の翼を羽ばたかせ上昇する。外に出るのに目と鼻の先まで迫っていた。


『ガゥッ!?』


炎の塊が逃げ道を塞いだ。


『ガオォォォォ!』


爆音とキマイラの叫びが響き渡り、氷の円柱の上部から爆炎が立ちこもる。今ごろ壁の中では、地に落とされたキマイラは業火に焼かれている頃だろう。それでも氷の壁は壊れる気配は一切なかった。


七賢人による連携攻撃だ。


「さすがは賢人たちじゃのぉ!」


「あれで終わってくれませんかねぇ。」


「ワシの見立てでは、無理じゃろな。」


作戦の手順は二つ。


一つ――キマイラを封じている間に、地上の敵を減らす。

二つ――ある程度余裕を作ったら、キマイラ撃破へ一斉攻撃。


「じゃが、ワシは今、筋肉開放が使えんでの。アルタン、ちょっとばかし苦労をかけるが、まぁ、頼むぞ?」


ガドラクが普段は巨体を収めているのは、何も生活に困るからという理由だけでもない。彼の肉体が氣功術との相性があまりにも良すぎて、抑えておかないと無限に魔力を食らい続けてしまうのだ。


さらに、普段抑えてしまっている反動なのか、一度開放するとしばらく筋肉が『ハイな状態』になってしまい、魔力の消費量が何十倍も跳ね上がってしまうのだ。一応、開放状態から再び抑え込んだらその状態になるというだけの話だし、抑え込んでいる間は魔力も食われないのだが――少なくとも連続使用はできない。


筋肉が静かになるまで要する期間は経験上約三ヶ月。

まだ、ネルカとの戦いの熱は冷めきっていない。

ガドラクは筋肉が疼いているのを感じていた。


「あなたは本気じゃなくても強いでしょう!」


「ガハハ! では、期待に応えるとしようか!」


ガドラクは跳躍し襲ってきた犬の魔物を斧で受けると、左手でその頭部を掴み、何でもないことかのように握り殺す。そして、死体となった胴体を蹴り飛ばすと、直撃したゼノン教信者が文字通り吹き飛んでいった。


それから二人の戦闘はまさしく『蹂躙』だった。


斬って、叩いて、投げて――戦況は大きく騎士団側へと傾いた。



しかし――



『ガァオォォォォ!』



氷の円柱の上空に、黒雲が立ち込める。

そこに込められた圧倒的魔力量に、さすがのガドラクも苦渋の表情を見せた。彼は周囲を見て戦況を把握すると、敵を蹴散らしながら氷の柱へと突き進む。


次の瞬間――雷撃。


氷の結界が破壊されたのであった。





【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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