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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:第10-2章:祭と友と恋と(前編)
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105話:思いもよらない名前を聞く

そんな義兄のことなど知らず、ネルカは純粋に祭を楽しんでいた。


「楽しい時間は過ぎる感覚が早いわ…。」


パレードは終わり、人々の賑わいにバラつきが戻る。

しかし、それでも帰ろうとする人は非常に少なかった。


皆は知っている――王家主催の派手イベントが残っていることを。


王宮勤務のエリート魔法使いによるライトアップショー。

それこそが祭初日である≪アセンテの微笑み≫の締めくくりだ。


「みなさん! あそこの高台に行きましょう! 特等席です!」


「マリ? えっと…勝手に入ってはダメでしょう?」


「大丈夫です! あそこはヤマモト連合の建物ですから!」


五人は少し遠くに見える高い建物――時計塔へと向かっていた。

初めこそ、坊主頭の騎士は「もう俺、持ち場に戻ってもいいっスよね…。」と文句を言っていたが、思いのほかマックスと気が合ったようで、今は何の違和感もなくこのグループに紛れ込んでいた。ちゃっかり食べ歩きもしている。


しかし、そんな時だった。


「おい、そこのお前!」


ちょうど細道の十字路を通り過ぎようとしたところだった。

二人の男が彼女たちを――ではなくマックス個人を引き留めた。


考えるよりも先に動いたのは戦士二人。坊主頭の騎士がマックスの肩に置かれた手を掴み、ネルカはもう一人の男の喉元に黒魔法の鎌を突き付ける。


「「あっ!」」


ネルカたちはこの状態になって初めて気づく。

――二人の男は王宮騎士団第四部隊の服を着ているのだ。

ネルカと坊主頭は慌てて二人を解放した。


「す、すいませんッス! つい!」


「そんなピリつかせて近づかないでよ。うっかり殺しちゃうところだったじゃないの。私は悪くないわ。」


「ったくよ…『つい』でやっていいことじゃねぇだろ…。」


騎士たちは怒鳴りたい気持ちでいっぱいだったが、相手がネルカであると分かると愚痴をこぼすだけに留める。王宮騎士団に所属する者は皆、良くも悪くも彼女を『強者』としては認めている。


権限だけでなく、威厳でもネルカは上位として扱われているのだ。


「今、第四に限らず全部隊で町の洗い流しやってんだよ。ちょっとばかし不審な失踪話が続いているからな。」


「えっと…こっち聖女護衛組は初めて聞いたッスけど?」


「まぁ、昨日今日の話だからな。しゃーねーよ。」


その会話を聞いたマリアンネが反応し、「ちょっと待ってください。聖女ってアタシのことですか? 護衛されていたんですか!?」「えっ、今更ッスか! 逆に俺のことはなんだと思っていたんスか!?」「ただの師匠の知り合いかと…。」と頓珍漢な問答をしていた。


ネルカはそんな二人を無視して、騎士に話しかける。


「で、マックス様を引き留めた理由に関係性は?」


「あぁ…こっからは死神と内緒話でいかせてもらうが……元・側妃様が出没したという話だ。」


「………あの女が?」


「しかも、白仮面の男といっしょにいるってなってな。身長、髪…それが…そこのあんちゃんと一致するもんだから、職務質問をしようとしただけだ。」


「なるほど、似てただけってことね。」


元・側妃――リーネット。

その名前を聞くと、ネルカはあの純粋無垢な笑顔を思い出す。『俺らは達成感がほしいだけなのかもしれぬな。』という黒血卿の言葉を込みで考えると、その目的は苦しみ悩むことへの快感であろう。


実を言えば、ネルカも気持ちがわからなくもない。

鍛錬で自身を追い込むときの苦しさは快感だし、強敵と遭遇した時は胸が高鳴り、無理難題であればあるほど力もみなぎっては来る。


しかし、他者を巻き込まないだけの道徳は持ち合わせている。

それがネルカとリーネットたちとの大きな違いだろう。


「何か他に情報は…?」


「魔物を王都の中に引き入れてるらしい。」


「はぁ? そんな目立つこと…どうやって…。」


「ナハスさんが言うには、地下が怪しい…と。」


「え? どうしてナハスお義兄様の名前がここで?」


「とにかく、死神の意見も聞きてぇ。移動しよう。」


こうしてネルカはマリアンネたちをその場に待機させ、二人のうちの一人の騎士に着いて行く。一つだけ曲がり角を曲がった先、通路の行き止まりには――複数人の騎士が立っていた。第四以外の部隊の人間も混じっている。


「「「「え!? 死神鴉!?」」」」


「……ずいぶんと集まって…まさか……。」


「あぁ、俺らの予想だと、その『まさか』だ。ただ、俺ら程度の下っ端騎士で…突入していいものか…分からなくてな。」


彼女の目線の先には地下へと続く床扉がある。

開けられた暗闇がどうなっているかは見えないが、彼女の長年の勘は『死の雰囲気』を感じ取っていた。そして、夜会のときの呪具【魔仙玉】が隠されていた地下を思い出たのであった。


(なるほど……地下室は…一つじゃなかったのね…。)


考えられるのは、地下室同士で繋がっている可能性。

これならば誰にも気づかれず運搬ができる。


ネルカは騎士たちをチラリと見るが、第二部隊の者以外からは強者の風格が感じられない。しかし、第二部隊のメインの仕事は護衛である、引き連れていくわけにもいかない。


調査はネルカ一人で行くのが無難だろう。


「ライトアップショ―までには帰って来るわ。」


「死神鴉様、どういうことですか…?」


「私に任せなさいって言ってんの。」


「あ!? だが…いくら…死神でも…。」


「私の軍事権限、知らないのかしら?」


彼女は自身の左腕をトントンと突く。

同じことをさせられた坊主頭の騎士は遠い目で苦笑いをしていたが、それ以外の者たちはそう言えばそうだったという表情だった。王家側としては人材の囲い込みのための腕輪であったかもしれないが、ネルカという人間は遠慮なんてすることなく行使する。


「「「「し、失礼しました!」」」」


「じゃあ、あっちにいるマリたちを守ってて。よろしく。」


彼女は近くにいた騎士から照明の魔道具を奪い取る。

そして、黒衣を展開すると、地下への階段に一歩を踏み出した。






【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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