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その令嬢、危険にて  作者: ペン銀太郎
第一部:プロローグ
1/198

1話:ナハス・コールマンの絶望的出会い

初投稿になります。

コメント等はしていただいたら、励みになります。


物騒なタグが並んでいると思いますが、そういったことが起きるのは【血の夜会編(本番)】からになりますので、だいたい26話あたりからになってきます。バトル物が読みたくて来られた方は、このことを頭の隅にでも置いておいていただけたら幸いです。

事の発端はただの偶然に過ぎない。

とある貴族が旅行中にトラブルにあった際、助けてくれた女の子がいた。その子の面影が友人に似ており、そのことをその友人――コールマン伯爵に話したところすぐに調査が始まった。


その調査の結果――家出した弟の娘――姪である可能性が浮上したのだ。


「いつも…こういう役回りは僕だよな。」


コールマン家の血縁探しを率いるは、次男であるナハス。

文官適正だらけのコールマン家の中でも珍しく闘いに優れており、騎士隊の管理を任されているのは彼である。そんなナハスはとにかく『悪運』『勘』『柔軟な発想』が強く、遠征や人探しになると特にその才を発揮する。


件の娘はなんと森の中で暮らしているようだ。

彼女が街に出るのは一ヶ月に2回あるかないかという頻度らしく、直接出向くのが確実と言えるだろう。しかし、ここら辺は【魔物】と呼ばれる特殊な生き物も多くて危険、『魔の森』なんて呼ばれているほど――本当にこんな場所に住んでいるのか怪しい所であった。


商人が通れるようにと最低限だが整備された道、そこをコールマン騎士隊は馬に乗り進んでいた。しかし、一向に変わることのない景色にうんざりしたのか、騎士団の中でもベテランのダスラがナハスにぼやく。


「しかしまぁ、どれだけ進んでも森・森・森…坊ちゃんほんとうに道は合ってるんですかい?」


「あぁ、この目印を辿ればいいとは聞いている。それに気休め程度だが道の整備もされている。仮に件の娘の家じゃなくとも、どこかの集落には繋がるのは確かだ。最悪の場合は集落づてに探そう。」


この森は木々がうっそうと茂っており、空を見て場所を確認するということが困難である。森の住民たちなら問題はないようだが、旅人が迷うことも時々あるという。そのためいくつか点在する集落に辿り着けれるようにと、石像による道標が設置されているのだ。


「だが、これは…入り口で見たやつとは違うな…いつの間にか別の道に入ったか?」


何か違和感を感じた彼は馬から下り改めて石像を見る。最初に案内役から説明を受けた際は何となく人型を模していると分かるものだったが、現在目印としているのはもっと粗雑で別物だと気付いた。


「ぼ、ぼぼぼ、坊ちゃん!」


ダスラの慌てる声に何事かと振り向いたナハスだったが、そのダスラの肩部分に何やら粘性のモノがくっついているのを見る。そして、その粘性のモノは次第に上からボタボタと落ちて来て――


上を見上げるとそこには――蛇がいた。


「なっ! 蛇竜種か?」


この国には基本的に竜と呼ばれる存在はおらず、近くても隣国の火山地帯に棲む蜥竜種ぐらいしかいない。しかし、ナハスは趣味の魔物調査でこの型の蛇竜種を知っている、はるか遠くの国から取り寄せた魔物図鑑に記載されていた『ガマーシュ』と呼ばれる生き物だ。

蛇竜種は基本的に洞窟を好むことが多い中、このガマーシュは木の上を好む。


しかし、これはあまりに大きい――熊型魔物でも丸呑みできそうなサイズだ。


「こいつは無理だ! 一度退避するぞ!」


ナハスは隊に命令を送る、だが彼自身は馬に乗ろうとしない。

ダスラはその姿にしんがりを務める意思を察し、そうなったときの代理指揮官は自分であると先頭を切って退路へと駆ける。しかし、ガマーシュはそれを見送るような優しさを持ち合わせていなかった。


『シャ~~~!』


ナハスは怪物の魔力が膨れ上がるのを感じた。


魔力――それは生きとし生ける者すべてに宿る力。 


人は古の書を解き明かし、詠唱や術陣を設計図として扱うことで、魔力により様々な事象へと変換ーー【魔法】として使うことができる。


だが、魔物は違う。

奴らは生まれながらにその仕組みを知っているかのように、当然のように魔法を操るのだ。魔物は何も入らない、準備も、隙も。


ガマーシュの頭上に、巨大な水塊が生まれた。


『シィッ!』


水の塊を中心とするように網が全方位に広がっていく。できあがるのは水の檻、そこはガマーシュの狩場。騎士隊の大半はその範囲外まで逃げきれたようだが、残ってしまった者たちがいる。


そして、ガ―マシュの狙いは強いやつら(ナハス)よりも先に弱いやつら(逃げ遅れ)


「しまった! お前ら避けろぉ!」


いまだ残る水の塊から数本の水の矢が解き放たれ、それは取り残された者たちに突き刺さった。急所を狙った確実な一撃、一瞬の絶命、魔物と言えどもこの魔力操作ともなれば確実に上位の枠である。


檻に残るはナハスただ一人――彼は左手中指の指輪に触れる。


「部下を! 許さねぇ! 【ラヴァヴィラル】!」


ナハスが指輪に触れた瞬間、炎が走る。

詠唱も陣もいらない――『魔導具』と呼ばれる物。

金持ち貴族の特権、ガマーシュの知らないインチキ。


生まれるのは、紅蓮の弓。

放たれるは、緋色の矢。


コールマン家ーーそれは火の家系。


油断を裂くそれは、一直線に魔物を貫いた。


『キシィッ!』


魔物はとっさに頭上の水塊を盾へと変えた。だが、烈熱の矢は止まらない。水を蒸発させ、なお突き進み、その先の軌道にいるガマーシュの肉を穿った。


致命には至らずとも――怪物の巨体が地へ叩き落とされるには十分だった。


「まだだ! 二本目!」


苦痛によるためかガマーシュからの反撃も精度がままならない、木々の間を駆けながらナハスは第二の矢を構える。相手が落ち着く前に決着を付けなければならない。


「はぁぁぁ!」


頭に直撃――しかし、それはガマーシュを模した水の像だった。

矢は像を貫通しそのまま水の檻すらもこじ開けるが、あまりに蒸発させた水の量のためか一帯に霧が発生したためナハスはそれを視認できない。彼は火弓では突破できないと悟ると、とっさに魔力のメイン用途を身体強化と魔力膜に変更して剣を抜刀する。


「あれほどの存在、気配すらない…どこだ!」


次の瞬間、ナハスは急激な浮遊感を味わった。地中から現れたガマーシュにかち上げられたことに気付いたのは、彼がガマーシュの尻尾により地面に叩きつけられたときだった。


「かはっ!」


魔力膜を纏っていたからこそ生き延びることができた一撃、しかしながら行動不能まで追い込まれた一撃。肺の空気が強制的に吐き出され、体のいたるところが悲鳴を上げる。


『キシュ~』


ガマーシュが捕食せんと顔を近づける中、辛うじて残る彼の意識はガマーシュに向けられていなかった。晴れる霧、揺らぐ視界――ガマーシュの背後だ。


「な…に……?」


そこに現れたのは漆黒の戦士。

黒いローブ、黒い仮面、大鎌を手にした影。

満月を背に舞い降りる姿は、まるで夜を統べる鴉。


ナハスは震えながら母の言葉を思い出す。

子供の躾に使われる、よくある脅しの物語だ。



ーー悪い子の魂を刈りに来る。



ーー地獄も天国も行かせやしない。



神の代行者ーーその名もーー



「……死神鴉……」



そう呟いたのを最後に、闇が彼を飲み込んだ。



【皆さまへ】


コチラの作品を読んで楽しんだら、高評価をしてくださると嬉しいです。


そして、何よりも嬉しいのは作品に対する直接の言葉です。

なので、コメントしてくださるともっともっと嬉しいです。


よろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです! [一言] 追ってまいりますので、執筆頑張って下さい!!! (ブックマーク登録しておきました)
2023/06/20 19:10 退会済み
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