梅雨
ラーラと結婚してからもう1ヶ月半が経つ。
季節はもう梅雨になる。ここ最近はずっと雨が降っておりしばらく太陽が顔を出さない。
梅雨のせいでジメジメするし、出かけることも出来ないし、洗濯物も干せない。
つまり人間にとっては不都合な季節なのである。
僕は今日も雨かと思いため息を吐いていると横にいるラーラが上機嫌で僕に話しかけてくる。
「なんだぁ、ハルキ。ため息を吐くと幸せが逃げていくぞ」
「はは、面白いこと言うね。でも幸せに逃げられたからため息を吐いているんだよ」
「なるほど!!おもしろいな!」
そんなやり取りをしている僕とラーラ。
ラーラはここ最近ずっと上機嫌なのだ。
ラーラいわく、この時期は太陽が出ないから日夜関係なく過ごしやすいとのこと。
ちなみにラーラは吸血鬼で太陽に弱い性質がある。
どうやら人間にとっては都合が悪くても吸血鬼にはすごく都合のいい季節らしい。
そんなことを考えているとラーラがこんなことを言い出す。
「400年以上生きてきたけど、梅雨だけが毎年1番の楽しみだな」
「ラーラ、400年も生きてきて毎年1番の楽しみが梅雨なんて…少し変わってるね。いや、吸血鬼には都合がいいのか」
「でも梅雨明けは毎年すぐ暑くなるから嫌いだ。夏はいつも日陰で寝て過ごしていたからな」
「吸血鬼はさすがに夏の太陽には勝てないのか?」
「うーん、死ぬというわけではないな。ただ軽く火傷してしまうぞ」
夏は日の前に出れなくなるという。
僕達は少し夏について語り合ったあと話すことがなくなりそれぞれ自分の時間を過ごしていた。
僕は1人で本を読み、ラーラはというと…猫じゃらしで遊んでいた。
猫じゃらし……懐かしいなぁ。
そんなラーラを見ていてひとつ疑問があった。
「なぁ、400年も生きて、昔のことを懐かしんだりしないの?ラーラは」
そんな僕の問にラーラは猫じゃらしを置き、横になっていたからだを起こし答える。
「そんだなー、昔のことはすぐ忘れちゃうし…何となくこんなんだったなーぐらいしか覚えてないな」
「そんなにすぐ忘れる?」
「すぐ?あはは、じゃあ逆に聞くけど、ハルキは子供の頃の記憶鮮明に覚えてる?」
「言われてみれば…何となくしか。本当にあった記憶かもわからないようなものしかない」
「そうだろ?そんなもんだよ人の記憶なんて。どうせすぐ忘れちまう、だからそんな小さいことを気にせず今と明日を楽しみたいな私は」
そんなもんなのかと僕は答える。
確かに記憶なんて曖昧なこと。過去に起きたことを後に掘り返しても実際、正しいことなんて誰も覚えてはいないのだ。
過去は消える、未来は作れる。人生そんなもんなのかもな。
「でもラーラはさ、昔にできた人間の恋人とか友達とか、1人も覚えてないの?」
「お?ハルキも自分の妻の過去の恋愛に興味を持ったか!でも生憎覚えてないわ」
それは寂しくないか?と聞こうとしたがやめた。
400年も生きてるんだ。
人の5倍も生きてる。つまり、人の5倍死に別れを経験してるのかもしれない。
ラーラにとってはつらい過去もきっと沢山あるかもしれない。そんな過去を思い出させるのはよくないと思う。
僕はラーラを見つめる。
ラーラはキョトンとした顔でこちらを見つめるが、少しするとこれまで見せたことのないような子供じみた笑顔で言う。
「安心せい、何があってもハルキが今までで1番だから!」
そんなことを恥びれもせずに言うラーラに僕は少し心臓が跳ね上がったような痛みを感じた。
僕は熱くなる顔がバレないようにと「…うん」と言い本で顔を隠す。
梅雨のせいできっと風邪をひいたのかもしれない。
しばらくするとそんな僕に気づいたのかラーラは笑顔で言った。
「今晩も、美味しいの…期待してる」
今までで1番とは人間としてか、それとも血の味か…僕はしばらく考えた。
うーん、なんとなくで書いてるからよく分からないところがあるかもだし、すごく短編だけど、
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