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二人ぼっちのヒミツキチより

作者: 雪瀬ゆの

ここは、現世から数万年後の世界ーーー。


地球には氷河期が訪れ、地上には、一時的に外出することは出来ても、寒すぎて定住することはできなくなってしまった。


そこで人類は、地中をひたすら掘り、そこに定住をすることにした。


人々はそこのことをいつしか、『ヒミツキチ』と呼ぶようになった。


しかしヒミツキチには、電気が通っておらず、しかも地中のため、あまり見えない。


人類は暗がりでも目が見えるように、と努力をした。

その結果、暗がりでも目が見えるようにはなったものの、代償として、目がいわゆるドット絵でしかモノやヒトを見ることが出来なくなってしまった。


これは、そんなとあるヒミツキチでのお話ーーー。



このことを忘れないように、ここに『記録』を残しておくこととしよう...。



このヒミツキチは仲間は約40人ほど...。

どちらかといえば、人数の規模としては少し多め...という感じか。


「はーい、子供たちちゃんとご飯食べるんだよー」


「あんまり部屋の中走り回らないの!」


「畑耕さないとな...」


「わっせ、わっせ、よいしょ、よいしょ。野菜獲れたぞー!」


「みんなで鍋作るぞー!」


こんな感じでヒミツキチで、農業したり、耕作したりして平和に暮らしていた...と言いたいところだが、人はそこまで潔癖ではなかった。


少なくとも数百年前からはこういった地中での暮らしをしていたので、もう掘れる場所は全て掘りきってしまっていたのだ。


...なので、あとは簡単。奪い合いだ。

武力による戦争で、食べ物を、土地を、奪い合う。


このとき、このヒミツキチはなんとか紛争地域には外れていたのだが、紛争地域というものはどんどん広がるもの。


あっという間にこのヒミツキチも紛争地域に入ってしまった。


土地を奪い合い、食べ物を奪い合い...。


この地域も、そんな紛争に突然巻き込まれていった。

しかし、うちはなんとかギリギリ紛争に巻き込まれはしなかったのだが...、それは途中までだった。


始まりは突然だった。


「土地を奪われたくなければ、持っている銃を降ろして、手を挙げろ」


いきなり、武装した敵軍らしき人が現れたて、うちの仲間であるハンクをこう脅したんだ。


手を挙げたところで土地を奪われないなんて嘘なのではないか、他の仲間が助かるかは分からない、そう思ったハンクは銃を離すことはなかった。


「俺は、銃を離さねぇよ!」


そうすると、ハンクは敵軍に銃で何発も執拗に体を打たれ、そのまま死んだ。


その後、僕たちは戦争に負け続け、仲間が減り続けていった。


「うわぁぁぁ!」


戦争に巻き込まれ、銃に打たれ死んだやつもいた...。


「もうダメ...」


戦争の道具を作ることの納期に追われ、過労死をしたやつもいた...。


「何かメシをくれ...」


戦争で食べ物を奪われてしまい、食べるものが無くなって硬い石をしがみながら死んでいったやつもいた...。


「バッコーン!!」


確か...そういえばあいつは食べ物を獲りに行こうとして地雷踏んでそのまま爆発して死んじゃったんだっけな...。


そして、どんどん仲間は減っていき、戦争に巻き込まれないように引っ越しを繰り返し、そしてその引っ越した先も戦争に巻き込まれて...


それを繰り返していって、仲間はついに僕たち二人だけとなってしまった...。


あ、そういえば僕の紹介を忘れていたね。


僕の名はナギサ。

名前のせいで性別が分からないとよく言われるけど、立派な若い男だ。


そして残ったもう一人の名前はツムギ。

ドット絵でしか目が見えていないので、性別の区別はハッキリとは分からないけど、名前的に多分男だろう。


僕もツムギに前で性別を公言したことはないけど...多分何となくは察してくれているだろう。


こんな記録を何となく書いていたらもう夜になっていた。


そうすると、ツムギがナギサにこんなことを言ってきた。


「ねえ、今、ちょっと大丈夫そうだし...外、出てみない?」


「いいよ、外出るのなんて久しぶりだしね」


そして二人は、廃材と食べ物を持って少しだけ外へ出た。


廃材を持っていったのは、外で火を起こすため。

何も見えなかったら話にならないからね。


外で火を起こし、二人だけでちょっとした話を始めた。


先に話し始めたのはツムギだった。


「もう...40人ぐらいいた仲間もあっという間に私たち二人だけになっちゃって...いったい、どうすればいいんだろ、ナギサ」


「そう...だね...」


どうすればいい、と言われても...。

ナギサは、答えを出すことが出来なかった。


するとツムギは次なるアイデアを言ってきた。


「じゃあさ、私たち二人だけだったら、もうどうせ何もできないし、二人で無理心中図っちゃうのもアリなのかもしれないね」


「あ、あぁ...」


いつもなら、僕もそんなこと言われたら絶対そんなことダメだ、生きろよ!って力強く言えるんだけど、状況が状況。


力強く、生きろとも言えない。


僕たちの目はドット絵でしか見えていない。


だから、泣くのを我慢しているか、少し泣いているぐらいじゃ泣いていることすら分からない。


都合の良い目なのかもしれない。


でも、僕には相手の気持ちがハッキリ分からない、不便な目だとしか、思いようがなかった...。


「ナギサ...、もう仕方ないね。こんなときは食べることでストレス解消するしか...」


「あ、あんまり食べちゃダメだよツムギ、食べ過ぎたら明日以降の食料が無くなっちゃう...。結構この戦争で食べ物も取られちゃったからね」


「...じゃあ、あんまり食べられないんだったら火、消して帰ろうか」


そして二人で火を消し、またヒミツキチへ帰ろうとしたそのとき。



コロンコロンコロン...。



液体の入った二百ミリリットルぐらい入ったビンが二本転がってきた。


「ナギサ、なにこれ?」


「僕もよく分かんない...」


何か説明のような文字が小さく書いてあるようには見えるのだが、僕たちの目はドット絵しか見えないので読めない。


「じゃあこれ、帰って寝る前に飲もうか!」


ツムギはこの訳の分からない液体を飲むのに結構乗り気なようだ...。

まあ、それも仕方ない。

実はヒミツキチに残された水ももう底をつきそうなんだ...。


そしてヒミツキチへ帰って来た。


戦争から命からがらなんとか逃げてきたので、部屋もそんなに広くないし、寝床であるベッドも一つしかない。


二人とももう既に疲れていたので寝ようとしていた。


「ナギサ、これ飲んでみてから寝ようか、せっかくだし二人いっせのーせで一本飲んでみようよ」


「あ、ああ...」


ツムギがあまりにも乗り気なので、ナギサも止めることが出来なかった。


まあ、もしこの液体が毒で、そのまま死んだって、もう、何もこの世界に対する未練はないんだけど。


強いて言えば、もうちょっと、ツムギのことを知りたかったかな。


この目のせいで、ツムギが男なのか女なのかも分からないし、表情も何となくでしか分からない。


もうちょっと、知りたかったかな...。


「ナギサくん、開けたからビン持って!はい、いっせーのっせっ!!」


「え、ええ...」


二人とも、一ビンずつ飲む。


ごくごく、ごくごく。


飲み終わって数秒。

何となく、目に違和感を覚える。


「う、うん?目に、なんだか、濁ってくるんだけど?」


「ナギサ、それ、私もだ...」


そしてまた数秒後。


「あ?あれ、私...。目がちゃんと見える!?」


「僕もだ、なんで急に!?」


ナギサは慌てて自分が飲んだビンを拾い隅々まで見てみる。


「え...嘘...だろ?」


そこに書いてあったのは『視力回復薬』の文字。


説明をよく見てみると、ドット絵でしか見えない目を鮮明に見える目にする薬だったようだ...。


「え?ということは...!?」


二人はお互いの顔を向き合った。


「え...」「あ...」


ナギサもツムギもこの一生の中で一番驚いただろう。


まさかまさか。


「ツムギ、君女の子だったの!?」


「あー...ナギサ男の子だったんだね...」


もう二人はそのとき寝ようとしていた。


しかし、寝床はシングルより少し広めのベッドが一つだけしかない。


こんなことを知ってしまったナギサはツムギと一緒に寝ることなんて出来ないと思い他の場所で寝ようとした。


「つ、ツムギ...えっと...僕、床で寝るね!」


「ダメだよナギサ。床なんかで寝たら風邪引いちゃうじゃん」


「いやでもベッド一つしかないよね...?」


ツムギはここで驚きの提案をしてきた。


「じゃあ...ここで寝れば良いじゃん」


「え!?」


「ほら...ナギサの分の場所開けてるから入りなよ」


「あ、ああ...」


ナギサも疲れていたので、ツムギの言われるがままに同じベッドへ入る。


「...」


ナギサは結構イケメンで、ツムギは結構可愛い。


同じベッドに入ってしまえば意識し合わないことなんて出来ない。


同じベッドに入ってしばらくたった。


『初めて』は、ツムギからだった。


「ねえ、私たち...しない?」


「いや、ダメだよツムギ!?そんなの...だって...」


「だってって何よ。どうせ私たち二人しかここにはいないんだよ?だから誰にも何も言われないんだよ?それに、私たちがしなかったとしたならば...この仲間の系譜はもうどこにも受け継がれないんだよ?それに...戦争はまだ続く。何もしないまま死んじゃうかもしれないんだよ?」


「う、うう...」


ナギサは優しいとはいえ男の子。

もちろん、自分の欲には正直だ。

何もしないまま、このまま死にたくはない。


「じゃあ、僕...。していいの?」


「もちろん。ナギサだから、私は、嬉しいんだよ」



その夜は、二人にとって、人生で一番長い夜となった...。



そしてそれから十年後...。



「ほら、スプーンの持ち方はこうじゃなくてこうだよ」


「あー、こぼしちゃったか...拭こっか」


あの後、僕たちは安全のため、紛争地域から遠く離れた縁もゆかりもない場所へと引っ越した。


十年前、仲間はナギサとツムギの二人だけだったものの、今となっては仲間は五人。


六人目は今、ツムギのお腹の中にいる。


十年前のあの日の夜、二人は深く愛し合った。

それにより仲間は三人になった訳だが、今もナギサには引っかかることがある。


ツムギは、本当に僕で良かったのか...。

何気ない瞬間に、自信が無くなってゆく。


「ツムギ、本当にさ、僕で...良かったの?」


そう聞くと、ツムギは微笑みながらこう言った。


「ナギサだから、良かったんだよ。ナギサくんは仲間が40人ぐらいいた時代からめちゃくちゃ頑張ってたじゃん。身を粉にして、体を削って昼夜問わず頑張ってる姿...。私はそれを見てナギサのことが好きになったんだよ?それで、あのとき目が見えて、ナギサが男の子だったって、これからもずっと一緒にいたかったんだよ」


そう聞いて、ナギサはなんだか安心した。

僕は、これで良かったんだな、と。



僕は、


私は、



今が本当に、幸せだ。




一時は二人まで仲間が減ってしまい、これからどうなるかと思っていた僕たちだったが、仲間は五人となり、六人目ももうそろそろ生まれてくる...。



幸せだって手にした。



これ以上望むものはもう、何もない。


今となっては紛争地域からは遠く離れた場所へと引っ越し、紛争も少しずつ落ち着きつつある。



人生という旅は、これからも続いてゆくーーー。



(※男の人と女の人が一緒のベッドに入るとたまに人が増えているぞ!)


おしまい。


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