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星渡りのカケル

作者: 織花かおり

流星が降り注ぐ夜に星渡りは行われます。

ビュービューきらり。

今年もペルセウス座流星群の季節がやってきた。

ぼくは「やるぞ!」と気合を入れる。

「カケル。今年こそ叶えばいいな」

彦星アルタイルが僕に声をかける。

彦星は毎年織姫に会うために天の川を渡っている。

いわば僕の先輩だ。

「私死んだら星になる。いつもカケルを見ているよ」

沙織を亡くして、どうしようもない悲しみにくれていたのを見かねて、彦星が僕を星空に招待してくれた。

彦星の話によると、沙織はアンドロメダ座のアルフェラッツという星にいるという。

アンドロメダ。囚われの姫。ずっと病気に囚われていた沙織の境遇に皮肉なことにぴったりだ。

僕は

「アルタイル。今年は沙織が亡くなって3年目。2年失敗しているが、今年は必ず沙織に会う。必ずだ」

と言って、流星群を見た。

ビュービュー。流星が飛びかっている。

「カケル。お前ならきっとできる!」

「おう!」

そういうと、僕は近くに来た流星へと足をかける。

ビュー。驚くほど消えるのが早い。

消える前に別の流星へと足をかけねば、地上へまっさかさま。

僕は素早く別の流星へ飛び跳ねて、左足をのせる。

そして消える前にまた別の流星へと飛び跳ねて足をかける。

これを繰り返して、アルフェラッツへと向かう。

ターン、ターン。最初は訓練のかいがあって順調。

でも、30分もつづけるとしんどくなる。

がくがく足に震えが走り、星空が自分を取って食おうとしているかのように感じる。

流星群がどんどん迫ってくる。

少しでも集中力を欠くと、踏み外しそうになる。

何度その恐怖に耐えたろうか。

星座と星の位置を頭に叩き込んだ。

今ではどの方角にその星があるのか正確に分かるようになっている。

でもペルセウス座の「悪魔星アルゴル」に注意しないと。

明るさが変わるから、自分の位置が分からなくなってしまう。

さすが星図で神話の怪物「メドゥーサ」の頭を形作るだけのことはある。

正確に正確に星図を辿って……。

僕の訓練はそこから始まって、筋トレに終わった。

この2年間の苦しみ、絶対無駄にするものか!

ビュービュー。ターン、ターン。はっはっ。

流星が飛び、星を渡る音と僕の呼吸が響く。

アンドロメダ座の半分にやっとたどり着いた。

アンドロメダ座には明るい星がいくつかあるが、あのひときわ強く光る星がアルフェラッツ。

もう少し、もう少しで沙織に会える。

アルフェラッツでは、痛みもなく元気でいるか。

走り回れているか。ともだちはできたか。

つー。涙が出た。

聞きたいことが山ほどある。

あと少し。

「うわっ」

足を出そうとしたら、瞬く間に星が消えた。

涙で目が滲んで、目測を誤ってしまった。

気を付けないと……。

ターンターン。一心不乱に進んだ。

星を踏み台に進んでいく。

疲れた。足が思うように動かない。アンドロメダ座の胸のあたりの星で休もう。

星につくと、おじいさんがチェロを弾いていた。

「お客さんとは珍しいな」

おじいさんは、僕をちらりと見ていった。

星にいる人と会うのは初めてだったので、おじいさんにぺこりと頭を下げて

「ぼくはカケルです。アルフェラッツに行く途中に休ませていただきたいのですが……」とあいさつをした。

おじいさんは「そうか」と言ったまま、その後何も話さずチェロを弾き続けた。

この曲は……カミーラ・サン・サーンスの「白鳥」か。

沙織と一緒に白鳥のいる公園へ遊びに行ったっけ。

僕の心は、しばし雨の中の公園へと飛んだ。

雨降る湖は幻想的だった。

付き合い始めのころだったから緊張していたのだけれど、白鳥が優雅に泳いできたかと思ったら、僕らの手元のエサに目線がいっていたのには二人で大笑いしたな。

エサをやったら、白鳥がどこまでもついてきて、それもおかしかったっけ。

あと少し、本当にあと少しで会えるんだ。

僕はおじいさんに声をかけた。

「休ませてくださってありがとうございます。行きます」

おじいさんはチェロを弾きながら、「達者でな」と言ってくれた。

流星を駆け上がっていく。

アルフェラッツが目前に迫る。

あと二つ流星をつかまえれば行ける!

ターン、ターン。タタン。

着いた。とうとう着いたんだ。

沙織、沙織はどこだ?

「カケル!」

サラサラの細い髪、そして大きな目、ぷっくりした唇。あぁ、2年前と何も変わらない。

「沙織!」

僕らは星の上で抱き合った。

言葉は何もいらない。

今日からこの星に僕は沙織と一緒に住む。

彦星が遠くから星を5回点滅させ「おめでとう」を伝えてくれた。

流星がいまだ降り注ぐこの時、僕は誰よりも幸せだった。

 おわり

お読みくださり、ありがとうございました。

今日書いて、ぎりぎり冬童話に間に合いました。

ご感想などございましたら、ぜひお寄せください。

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織花かおりの作品
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作成:コロン様
― 新着の感想 ―
[良い点] かおりさんの描く男性の主人公は真っすぐヒロインを見つめて大事にするので読みごたえがあります。(^^♪ハッピーエンドが好きなので、一緒に住む決意のラストが本当に良かったです。
[良い点] 「冬の童話祭」から参りました。 天の川を渡っている彦星がカケルの先輩なのですね。 踏み外しそうになりながら流れる星から星へと渡っていく様子には、はらはらしました。 おじいさんがチェロを弾い…
[一言] 手に汗握る大冒険でしたね! 彼女に会えて良かったです!
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