聖夜の流星
このホスピスでは、十二月二十四日の夜、担当の看護師、兼、シスターがキャンドルサービスで讃美歌を歌ってくれる。
♪〜 Nearer, my God, to Thee, Nearer to Thee!
E'en though it be a cross That raiseth me;
Still all my song shall be 〜♪
主よ御許に近づかん……
我、十字架より空を見上る
想いの全てを歌に託して
灯りを消した病室からは、星空が見える。
アッ! 流れ星!
あの時、雪乃は星に何を願ったのだろう? 聞いておけばよかった? いや、この流れ星は私の命が消えようとする兆だ。もうほどなく、当人から聞かせてもらえるに違いない。
「シスター、お願いがあります」
掠れる声で私は、修道服を纏う女性に語りかけた。
「はい。なんなりと」
「今、私の書いた物語をSNSに公開しました。私が帰天したら、その旨を付記してください」
「かしこまりました。それだけで、よいのですか? 遠慮なく、何なりと仰って下さい」
彼女は、もう私が長くはないことを承知している。とても優しい目でじっと私を見つめ、そう言った。
「いえ。もう私は為すべきことは全て為した、と思うのです。ですから、今更、望みなど……。そうだ! もう一つ。『世界中の猫に感謝を』と書き足していただければと」
「確かに、承りました」
「ありがとうございます。その物語には奇跡が記されております。人の心にある永遠を、私は身をもって知りました。どうか、笑顔で送って下さい」
目の前が霞んで、シスターの顔がぼやけてきた。だが、大丈夫。きっと彼女は微笑みを浮かべているはずだ。
人には、それぞれ、自身の寿命を象徴する蝋燭があるのだと聞いたことがある。シスターの持つキャンドルの灯りが揺れた。窓は開いていないはず。
なのに、何故? そうか、そうなのだな。
ああ、消える……