プロローグ〜奇跡の物語
★〜これは、貴方のために与える私の体である……
この杯は、貴方のために流す私の血で立てられる
新しい契約である〜★
<ルカ22章>
まもなく私は天に召される。不治の病に冒されているとはいえ、卒寿を過ぎる生を神に賜った私。「十匹の猫を幸せにする」という、あの日交わした約束も既に果たした。
最後に私を支えてくれた猫は、入院を機に優しい里親に貰われていった。今頃、暖かいこたつの中でのんびり過ごしているだろう。もう、今生の私に思い残すことなどない。
そういえば、今日は十二月二十四日、クリスマスイブだ。ホスピスのベッドからは、窓越しに晴れた空が見える。
ああ、そうだった。私の転機は必ず聖なる日にやってきた。だからもうすぐ、天命が尽きる、そう思う。
おそらく、末期の時が迫ったからなのだろう。昨今、若い頃の夢物語が気になってしかたがない。
不思議な猫と過ごしたわずか一日の出来事。半世紀以上の時を経てなお、忘れ得ぬ珠玉の思い出だが、今まで誰にも話したことはない。
あまりにも超常的で、「気が触れた」と思われるのが怖かったからだ。だが、その須臾の記憶が愛おしくて仕方がなくなってきた。
最後の力を振り絞り、今、脳波タイピングをしている。随分、便利になったものだ、私の体調では、かつてのスマホ入力など不可能だっただろう。
神様、どうかこの物語を書き終えるまで、心臓が止まりませんように。
「冬童話2022」企画ものです。本日より4夜連載(全6部分)で、最終回は24日クリスマスイブとなります。流れ星も出てきますが、クリスマス向け作品となっています。あらすじにも書きましたが、最後の最後はハッピーエンドです。その点は安心してお読みください。