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黒魔法修行には最適な街だから

※で補足が入ってたりします。そんなもんか、と思って流したり流さなかったりしてください。



運び人(ポーター)登録しに来ました。」


運び人(ポーター)

街から街へ荷物を運んだり、街の外で物資を調達したりする人。大抵の街に運び人組合(ポーターギルド)はあり、田舎町の才能を持て余した若者は運び人となって一旗上げようとする。


私が(舐められないよう気をつけながら)声をかけると、受付の体格の良いオジサン(灰色っぽい狼男)は面倒くさそうな顔をした。


昼前過ぎで、冒険者ギルドは閑散としている。この狼人のオジサンも暇を謳歌している所だろう。


「あいよ、嬢ちゃん。じゃあまず、年齢と名前をここに書いてくれ…………文字は書けるか?」


オジサンは受付台上に手のひらくらい羊皮紙を出した。気だるそうな雰囲気を出しているにも関わらず、意外としっかり対応してくれるようだ。


「書けます。」


育ての親に教えて貰ったので、ギリギリ名前と数字くらいは書ける。私が苦労しながら歳(17歳)と名前(シュバルツヴァイズ•アデリナ)を書いていると、オジサンが間を埋めるために話しかけてきた。 


「お嬢ちゃんも魔道修行に来たんだろ?」


「そうです」


「この街の守護神はほら、闇の豊穣神さまだからな、闇魔法の修行にももってこいだろ。」


「そうですね。バッチリ恩恵を受けるつもりです。」


※魔道は強い魔力のある地域に住むことで大きく成長する、と言われている。強い魔力によって成長することを一般的に「恩恵を受ける」という。


「黒エルフは良く来るんだよ。」


オジサンは私の褐色の顔や手、黄色がかった黒髪、そして黒くゆったりとした魔道服を見て、私を黒エルフの魔法使いだと判断したようだ。


「そうですね、闇魔法の適性が高いですから。」


私は黒エルフではないが、大きく頷いておく。


実際には、私は白黒(しろくろ)エルフの最後の生き残りだ。


国内では白黒エルフは全滅したと思われているくらいだから、けど、オジサンの観察眼と関係なく、私を黒エルフだと見破るのは難しいだろう。


※白黒エルフは、手足と顔が褐色で胴体が白いエルフの一部族。

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白黒エルフの住む故郷の森、アウシュラグヴァルツが黄狼人(おうろうじん)によって徹底的に焼かれた時、私たち家族は親子3人で王都で暮らしていた。


私たち家族は生き残ることができたが、私たち家族だけ、そのまま平和で穏やかに暮らし続ける訳には行かなかった。


親戚が、友人が焼かれて、のうのうと生きていける筈が無い。


エルフというのは里心の強い種族だけど、例に漏れず両親は故郷と故郷の皆が大好きだった。


私が話をねだるといつも、二人は喜んで故郷の話を聞かせてくれた。たまに森の生活の中で辛かったこと

――――飢えに耐えかねて悪霊の憑いた猪を食べたこととか―――について語るときですら、2人は望郷の念を隠さなかった。


私は物心ついてすぐに両親に連れられて王都に来たし、あまり故郷には帰らなかったけど、2人が懐かしそうな、嬉しそうな表情で話してくれる故郷が大好きだった。


…………私は王都で生まれ育ったけど、アウシュラグヴァルツ()は確かに私の故郷だ。


だから故郷が焼かれた時、私もとても悲しかったのを覚えている。けど、両親は私の何十倍も衝撃を受けて、人が変わってしまったようだった。


父は真面目で仕事熱心だったが、森が焼かれてからは、父は仕事を休んでどこかへ出かけることが多くなった


「パパ、どこ行くの?」


「ちょっと調査に行くんだよ。大丈夫、すぐ帰ってくるよ。」


そんな会話を幾度も繰り返した。私たちの故郷が無くなってから、お父さんはあまり帰ってこなくなった。


帰ってきても、お母さんと怖い顔で何か話していて、私が話を聞こうとすると遠ざけた。


今考えると、あの時、お父さんは復讐のために行動していたのだろう。私は、子供ながらに不穏な空気を感じていた。


「ママ、パパは大丈夫だよね?また、一緒にご飯食べれるよね?」


「パパは今、大事な仕事があるのよ。大丈夫、全部終わったらパパものんびり出来るようになるわ」


まだ幼かったし、仕事だとしても納得いかなかったけど……お母さんが私よりもっと我慢してるみたいだったから、それで何も言えなかった。


それでも、私は甘く考えていた。しばらく我慢していれば、平穏な生活が帰ってくると思っていた。けれど、幼い希望は容易く裏切られる。


私が七歳の時、お父さんは腹に大穴を空けて、血だらけで帰ってきて、死んでしまった。


玄関前に倒れ込み、お父さんは息も絶え絶えに私と母に愛と別れを告げた。そして最後に(恐らく母に向かって)こう言った。


「仇は取った!だけど……アイツらの子供を殺し損ねた。すまない…………ちくしょう……」


いつも優しかった最期の言葉が恨み言なのは、常に森と共に生きている森の聖人(ハイエルフ)が森への感謝を忘れる──ありえない──くらい、お父さんらしくなかった。


お母さんはお父さんを深く愛していたから、死ぬ時も一緒だった。エルフは婚姻の誓いで「生きる時も死ぬ時もともにいること」を誓うけど、律儀に守る人はなかなか居ない。


エルフには、夫婦が同時に死ぬと来世でまた一緒になれる、なんて言い伝えもある。両親がそうなることを願うばかりだ。


そうして幼いうちに両親を奪われた私は、お父さんやお母さん、同胞(白黒エルフ)のために復讐することを誓った。


----------------------------------------


「よし、じゃあこの木札に血を付けてくれ。魔力が流せるならそれでもいい。」


そう言いながらおじさんは受け付けに置いてあった、白い木札を渡してきた。言われた通り魔力を流す……


「その木札はまぁ、あんたの身分証明書になるもんだ。依頼を受ける時には必須。無くさない方がいい。再発行も出来るが、次からは有料だ。」


「一枚目は無料なの?」


組合は構成員の報酬から四割取る。ほぼ仕事の斡旋料だ。組合からしたら構成員が多いほど儲かるので、安易に登録できるように一枚目は無料らしい。


おっさんは丁寧に説明してくれた。受け付けをやってるだけあって、親切な性格(たち)のようだ。


「ありがとうございます。」


「ああ、魔法使いは好奇心旺盛じゃないとな。それで、あんたは仲間の当てはあるのか?」


一人じゃ運び人は出来ない。野営の見張りを交代で出来ないし、もしも怪我をした時に仲間が居なければ、人外の領域の肥やしになる他ない。つまり、仲間は必須だ。


「ないです。」


「じゃあ、そこの掲示板に仲間を募集する張り紙を貼って…………おっと、あんたツイてるな。丁度そこに、活きのいい新人を求めてる運び人コンビが居るぞ。」


そう言ってオジサンが指さした場所には、いかにも剣士と僧侶らしい格好をした2人組が立っていた。

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