トキノツムギ1~ライ1
ライは最早、その少年を見るためにこのクラブに毎日通っているようなものだった。首筋にかかる伸ばしっぱなしの黒髪は色気があるのに、それを相殺するかのような鋭い瞳で刺すように目の前の光景を眺めている。細身の体は飲み物を飲む時以外は動くことはなく、時々声をかける人間がいると、一緒に奥に消えて、その後帰ってきたり来なかったりした。最初は自称この界隈の警備員として、店にそぐわない男だなと注意していただけだった。なのに、なぜかだんだん気になりだし、いつしか彼の整った横顔だとか、長い前髪から見える顔が意外と女顔だとか、飽きずにずっと見ていた。やがて、声をかけられて奥に消えて行くのにモヤモヤ感が消えなくなり、自分の気持ちをごまかすのはやめることにした。
二十代半ばも過ぎ、いろいろな恋愛を何回も経験したのに、声をかけようと決心してから実際に声をかけるまで3日かかった。声をかけたら乗ってくるのはわかっている。だが、他の奴らと同じに思われたら困るのだ。この店を借り切ってみようかとか、花束でも用意するべきだろうかとかいろいろ考えたが、結局普通に声をかけることにした。
彼がいつも頼んでいる濃いめのモヒート。それがなくなるのを見計らい、自分のハイボールと彼のモヒートを注文し、スタンドテーブルの彼に声をかけた。
「同じのもう一杯どう?」
彼はゆらりと壁から体を起こして、横目でライを見た。
ライは、今まで飲んだ酒をほとんど吐きそうに緊張しながら、紅潮する顔が暗いライトであまり見えないのをラッキーに思った。
「やりたいの?」
無表情に言い放った少年に、他の奴らと同じに思われていることを感じたライは、上擦った声を最大限に落ち着け編み出すように答えた。
「いや、君と知り合いたい」
「はぁ」
無表情のまま言って、少年は自分とライを交互に指さしながら続けた。
「今知り合ったけど。これでいいの?」
「いや、そういう事じゃなく」
と言いかけて、思わずライは笑い出してしまった。
「ごめん、確かにわかりにくい。」
言った瞬間、ああ、もういいやと変な覚悟が決まり、笑いを収める流れで言った。
「君が気になって仕方ない。今フリーなら、付き合って」