人工居住区コロニー
朝、雪原──
起きると、吹雪きは収まっていた。
蓮さんはまだ寝ている。
というかこの人サングラスかけたまま寝るんだな……
俺は寝袋から出て、入り口を固めている雪を割り、外を見る。
五〇センチは積もったか?
かなりふわふわだ。
「んん?起きたの?」
お?
蓮さんが起きたようだ。
最初はかっこいいと思ったけど、ずいぶん適当だし、軽いしちょっと残念な男の人なんだろうなと思う。
俺がそんなことを心の中で思っていることなどつゆ知らず、蓮さんは寝ぼけながら片付けをする。
「いやー、起きるの早いねぇ」
「いや、寒くて」
「おっ、大丈夫?風邪引いてないかい?」
「まぁ、大丈夫です」
蓮さんはスノーモービルのシートを取って丸めてしまう。
そして後ろに荷物を乗っけて出発の準備が完了した。
「じゃぁ行こうか。準備いいかい?」
「はい」
そうしてまた雪原を走り出す。
この人はいつもこんな旅をしてるのだろうか?
俺はそう思いながら少しだけ降る雪を眺めていた。
舞う雪。
肌にチクチクと当たる冷気。
ああ。
本当に俺は未来に来たのか……
俺の世界がこんな世界になるなんて、いまだに信じられない。
俺が思い出すは両親の顔。
心配しているかもしれないな。
何も恩返しできないまま終わるのだろうか。
俺の目から雪が解けたものか、あるいは涙か分からないが水が流れる。
そうしてしばらく雪原を駆け抜けた。
「おっ、見えてきたよ」
何か建物が見えてきた。
ものすごくデカイ。
一つの建物かと思ったが、何個も連結しているようだ。
俺は目を丸くする。
「嘘だろ」
「ようこそ。人工居住区、コロニーへ」
すごくでっかい宇宙船だ。
しかもそれが何隻もある。
改造されて空を飛ぶためではなく、ただの施設として使われているようだ。
飛ぶことなく地に固定された宇宙船の前にはたくさんのテントがいっぱい並んでいた。
そこでは様々なものが売られている。
食べ物から家具までたくさんだ。
そしてそのコロニーの奥につるはしを持った人が何人も向かっている。
「蓮さん、あの人たちは?」
「ああ、スノーハンターていって。地下にある七十年前の遺物を掘り出す部隊だ。」
地下ということは、俺の居たところ。つまり過去の物を釣りに行く人たちということか。なら、この家具の類は掘り出された物なんだろうな。
だいぶここの仕組みが分かってきた。
宇宙船の無尽蔵のエネルギーをうまく使って様々なことに使っている。
そしていろんな職業があって、みんな頑張って生きているんだ。
そう思っていると、蓮さんが宇宙船の前に行く。
すると扉の前にいる人が挨拶していた。
「蓮さん、よくお戻りで」
「ああ、えっとさ。こいつも中に入れて良い?」
蓮さんが俺を指さして言う。
扉の前にいる人は少し俺の顔を見た後に言った。
「いいんじゃないですか?あなたなら誰も文句は言わないでしょう」
「そう?」
この人の口調的に蓮さんはかなり影響力のある人なのだろうか?
すんなりと中に入れてくれた。
中はとっても明るくて暖かい。
そしていろんな人が行き来していた。
イメージするなら都会の大きな駅のような感じだ。
「ほら、こっちこっち」
蓮さんがこっちへ呼んでいる。
俺はこんなに近未来的な建物に見惚れながらついて行く。
「ほら、これが食堂」
うわっ!
マジの食堂だ。
ラーメン、カレーめっちゃある。
というか本当によく作れたな。
そう感心する。
どうやら快適ではあるらしい。
「じゃあ、今度は本部へ行こう」
「本部」
「ああ、忘れちゃいけないけど君は外から来た変人だ。
一応、保護するべきかの会議にかけられる。」
なるほど。
確かにほとんどの人類がコロニーに居るわけで、最初からいない自分は怪しまれるだろう。
なら自分が評定にかけられるのはもっともだ。
「じゃあ、ついておいで」
俺は蓮さんについて行き、なんとも重厚な感じの場所に来た。
蓮さんは扉をノックする。
「誰だ?」
「零番隊隊長、蓮。ただいま戻った。とりあえず開けていただきたい」
「その男は誰だ?」
扉から目を出して言う男は俺に目線を送る。
「外に居た遭難者だ。一応大丈夫か上層部に確認を取るため連れてきた」
「分かった。入れ」
扉が開く。
中は蓮さんと似たような服を着た人がたくさん居た。
それぞれ刀のようなブレード型の武器を持っている。
俺はひそひそ声で蓮さんに聞いた。
「蓮さん、この方たちは?」
「ああ、行ってなかったね。俺を含めてここに居るこいつらは人類を雪人族の恐怖から守る集団。その名は」
──スノーソルジャー。
それがここを守る兵士たちだ。
蓮さんの話では雪人族を殺すプロフェッショナルだそうだ。
犠牲を出しながらもいつか太陽を見る時を夢見て突き進む。
それがスノーソルジャーだ。
「あっ、じゃあ君はここで待っててね。俺は同僚と上に話を通していくから」
そう言って蓮さんはとある部屋の中に入って行った。
入って行った瞬間に女の人にぶん殴られていたのは見なかったことにしよう。
そして部屋の中では、サングラスをかけた黒髪の男性が中央に座り、周りにはピンクの髪が側面だけ刈り上げられている男の人。
赤い髪に顎鬚を蓄えた人。
緑の髪を後ろに結んでいる小柄な男。
そして先ほど蓮を殴った紫色の髪の女が座っていた。
「やぁ、明夫さん」
蓮は黒髪の男性に向かって言う。
「蓮、今回はどういう面倒だ?」
「嫌だなぁ面倒だなんて」
「よく言うわ」
紫の髪の女が聞こえるか聞こえない程度の声でつぶやく。
でも蓮は気にしていないようだった。
そして黒髪の男は蓮に話し続ける。
「だいたい我々に頼みごとをしてくるってことは何か面倒ごとに決まっている」
「まぁ、そうなんすけど」
そう呟いて蓮は話を続けた。
なぜか重々しい雰囲気である。
「今日、実は外で男を拾ったんですけど、どうやら記憶障害みたいでして。
それで一応ここで住む権利をもらえるかどうかを確認したくてですね」
そう陽気に話していたが、蓮は急に口調を低くする。
「入れても……」
──大丈夫ですよね?