65 魔物の襲撃
船に乗って5日目、朝早くシーダンの所に向かう。
「おはよう。シーダン、調子はどう?」
「ブルルルッ!!ヒヒーーン!ヒヒーーン!!」
「あれ?シーダン、どうしたの?」
シーダンは、いつもと違って凄く興奮している……。急いで感知魔法を広げて確認する。
「ヒヒーーン!ブルルッ!」
「魔物ね!大きいのが近付いてきている!シーダン、教えてくれてありがとう!」
「ヒヒーーン!」
飼育係の若い犬の獣人ジョンが、入って来た。
「珍しく、興奮しているなぁ~。シーダン、どうした?」
「あっ!ジョン、大変よ!魔物が、近付いて来ているみたい!」
「なんだって!それで、シーダンは興奮しているのか!?うわ~!こうしちゃあいられない!船長に知らせないと!」
ジョンは、慌てて出て行った。
「シーダン、ここの柵は外しておくね。結界を掛けておくから、船が沈まない限り大丈夫だと思うけど、危なくなったら逃げてね」
「ブルルルッ」
柵を外して、結界をかける。シーダンのリボンにも魔力を込める。
「じゃあ、シーダン後でね。外の様子を見て来るね」
甲板に出て、感知魔法を確認する。後方から……、近付いて来る。魔物はクラーケンのようだけど、凄く大きい……。
「ミーチェ!魔物はどっちから来るか分かる?」
ジョンが、数人の乗組員を連れて来た。
「ジョン!後ろから近付いて来ているよ。大きな魔物……」
「大きな魔物だって!クラーケンか!?」
「嬢ちゃん、どっちだ?」
乗組員の獣人が騒ぐ中、魔物が来る方向を指さす。遠くに波打っているのが見える……。
「あれか!デカイな……。オレは、船長に報告してくる!」
「おう!頼む。まずいな、クラーケンみたいだ……」
乗組員の一人が、急いで船内に入って行った。私を、嬢ちゃんと呼ぶ熊顔の大きな獣人さんが、乗組員を仕切ってテキパキと支持を出す。
クラーケンって、<港街オース>のギルドの資料室で見たけど、ランクAの魔物だったはず。イカ?タコ?どっちだっけ……。
「嬢ちゃん、ここは戦闘になるから隠れていろ!教えてくれてありがとな!」
「ミーチェ、あっちに行こう。ここは危ない!」
乗組員の獣人が、船の甲板に備え付けてある槍の様な武器を持って待ち構えている。私が邪魔になるのか、ジョンに船首の方へ連れて行かれた。
すぐに、武器を持った獣人達がわらわらと甲板に出て来た。獣顔の獣人20程と、杖を持った人顔の獣人が数人。
人顔の獣人は、魔力を持っているってジークが言っていたから、魔法が使えるのかな?杖を持っているし……。
杖を持った乗組員達が、船縁近くで魔物を迎え撃つ為に並んでいる。槍を持った乗組員は、そのすぐ後ろに待機している。
「クラーケンだ!攻撃するぞー!!」
「「「「「「おおー!」」」」」」
「魔法撃てーー!!」
「「「「おおーー!!」」」」
クラーケンが近付き触手を伸ばした時、乗組員達が一斉に魔法を放った。
ドッカーン!バシャバシャ!ドッカーン!バシャ!
クラーケンは、魔法にひるむ事なく触手を伸ばして船に取り付こうとする。その触手を槍を持った獣人達が攻撃するけど、あまり効いていないみたい……。クラーケンの頭が見えて、更に触手を伸ばしてくる。
「船に上げるなー!!頭が見えた!魔法は、目を狙えーー!!」
「「「「おおーー!!」」」」
あぁ、クラーケンはイカなのね……。
ドッカーン!バシャバシャ!ドッカーン!バシャ!
ん~、攻撃が効いていない……。火力?魔力が少ない?攻撃力が低い?このままでは、船にダメージを受けそうよ……。
「大きいクラーケンだな……」
本当に大きいね……。体長は触手の先まで入れると、この帆船と同じぐらいあるんじゃないかな……。
「ジョン、船は大丈夫かな?」
「ああ。ミーチェ、大丈夫だ。最悪、緊急ボートを出すから逃げられるよ」
それは、大丈夫じゃないよね……。それに、ボートだとシーダンを乗せられないじゃない……。こういう時は、何でも知っている鑑定さんに聞くのが一番ね。
鑑定さん!クラーケンを倒す魔法は、何が効果的かな?
【クラーケンは、水・風の属性を持っています。火・土魔法もしくは、氷魔法が効果的です】
了解。鑑定さん、クラーケン倒すのを手伝ってね。
【分かりました】
「ジョン、船が壊れると困るから手伝って来るね」
「えっ!ミーチェ、危ないよ」
「大丈夫よ。私、魔法使いだから」
ゆっくりしていたら、船が壊れてしまう。驚くジョンに、にっこり微笑んで、船首から甲板の中央に移動する。そして、クラーケンを狙って魔力を込める。
鑑定さん!クラーケンの頭を狙って氷魔法を撃つわ!船に、傷が付かない角度の調整をお願い!力を貸して!
【ミーチェの意思を確認】
みんなに聞こえる様に大声で叫ぶ。
「魔法を撃ちます!!気をつけてください!!」
ヒューー、ドッカーン!!ヒュー、ドン、ドン、ドーン!
大きな氷の柱の様な塊と数本の氷の槍が、クラーケンの頭に突き刺さる。船の甲板に乗り上がっていた触手の動きが止まった……。
「「「おおお~!」」」
「やったか!?」
「「「すっげー!!」」」
乗組員の獣人達が、歓声を上げる。
【クラーケンの討伐、終了しました】
鑑定さん、ありがとう。助かったわ。
仕切っていた熊の乗組員さんとジョンが近寄って来た。
「うっほー!嬢ちゃん、凄げえな!クラーケンが一撃だぜ!」
「ミーチェは、凄い魔法使いだったんだ!」
そんな事より、聞きたい事があるの。
「はい…。あの~、クラーケンって食べられますか?」
「ああ、美味いぜ!」
おぉ!美味しいんだ~。
「少し分けてもらってもいいですか?触手1本ほど……」
「もちろん!いいぜ。あのままだと危なかった!嬢ちゃんが、倒してくれて助かったぜ!魔石と触手の半分持って行っていいぞ~。船も無事だったし、ホント助かったぜ!ありがとな!」
熊の乗組員さんが、気前よく魔石と触手の半分もくれると言った。良い人だ~。でも、バッグに余裕がないの。はぁ~、アイテムバックもっと大きくしておけば良かった……。
乗組員の一人が、魔石を持ってきてくれた。大きいリンゴ位の魔石です。
「ありがとうございます。じゃぁ、魔石と触手を1本だけ貰っていきますね」
「1本でいいのか?遠慮しなくていいんだぞ!」
「はい、バッグに入らないので……」
腰に付けているナイフで、クラーケンの触手を切った。付加魔法を付けたナイフなので、力を入れる事もなくキレイに切れた。切った触手をバッグに入れる。
「嬢ちゃん、そのナイフの切れ味抜群だな!それに、アイテムバックまで持っているのか!」
ふと見上げると、みんなが見ている。大きな獣人さん達の視線が……、20人以上に囲まれると怖いね。心なしか、目がキラキラしている様に見えるけど……。
「ええっと、冒険者ですから……」
早く、シーダンの所に行こう……。そこに、ルシーが現れた。
「ミーチェ、どうした?ん?クラーケンか……」
「あ!ル、部屋に戻りますね!」
助かった~!ルシーの顔を見てホッとする。ペコリと頭を下げて、その場を後にした。
あぁ、そうか……ジークが側にいるだけで、守られていたのね。
「ルシー、来てくれて助かりました。ありがとうございます」
「うん?何もしてないぞ?もう少し、早く来れば遊べたのに……、悔やまれる」
ルシー……。




