26★記憶
馬車に乗っていた乗客は、手当てを受けていた。アイアンゴーレムの戦闘も終わり、護衛達も降りてきて、馬車の片付けを始めている。
私達も、少し離れた場所に座る。
ジークに話しかけた。
「ジーク、頭を打ったのね……。混乱してる?私が誰か分からない?」
「分からない……」
びっくりした……。これは、一時的な混乱?それとも記憶喪失?どうしよう……。取り敢えず、今のジークの状況を確認をしておこう。
「う~ん、自分の名前は分かる?」
「ああ。ジーク、ランクCの冒険者」
「そう。ジーク、どこからの記憶がないのかな?最後に覚えてる事は?」
ジークは、頭が痛いのか、こめかみを押さえている。
「……パーティーを抜けて、始まりの森で狩りを始めた所まで覚えてる」
「えっ……?」
ショックで、言葉が出てこない……。
「すまない……。なぜ、ここに居るのかも分からない……」
あぁ、ジークも戸惑ってるのね、不安だよね……。
「そうね、そこからだと分からないよね……。私の事も覚えてないのね」
はぁ~、困ったなぁ。取り敢えず、最低限の必要な事だけ伝えておこうかな……。
「ねぇ、ジーク。まず、最低限の事だけ、簡単に伝えるね。一度にあれこれ言われても困るだろうしね」
「ああ……」
私のギルドカードを見せる。
「まず、私はミーチェ。ランクEの冒険者。これ私のギルドカードです。 今、ジークとパーティー組んでるの。半年ぐらい前からね」
「えっ!」
ジークだよ?パーティー組んだのは……。
「そして、迷宮都市を出て、森のブラージに向かってる途中なの。それで、馬車が谷に落ちて、ジークの記憶が無くなっているのが、今です」
ジークは、自分のギルドカードを見て、戸惑いながら言う。
「ああ、分かった。その、パーティーを組んでるのは……」
「うん。最初は違ったけど、今は恋人……、だった……。その辺、細かいことが色々あるので、記憶が戻るまで気にしないで。ただのパーティーメンバーだと思って。その方が、良いでしょ?」
記憶ないのに、困るよね。私もどう接すればいいのか、分からないよ……。
「分かった、助かるよ……」
そして、大事なことを、ニッコリ笑顔で言う!
「それと、1つ重要な事があります。旅での食事は、全て私が担当してるから、食べてね」
ジークが、ポカンとした顔をする。
「えっ?あぁ、分かったよ……」
「もし、聞きたい事があったら、後で聞いてね。あ、人前ではダメ。秘密にしてる事があるから、食事の時とか2人だけの時に聞いてね」
「秘密が……、あるんだね。分かった……」
「じゃぁ、馬車に戻ろう~。私達は、お金を払ってる乗客ですからね」
「分かった……」
馬車が壊れて修理が出来ず、馬だけ回復して連れて行く。乗客の冒険者は歩いて、他の乗客は、商人の馬車に乗る事になった。
山を下った所で、野営になり、テントを張り食事の準備をする。ウサギ肉の串焼きとオークベーコンのシチューとパン。干し肉があれば、ジークに初めて作った料理が出来たのに……。
「っ!美味しい!」
味も忘れているのね…。目は、いつもと同じでキラキラだけど。
「そう?ありがとう、ジーク」
テントは久しぶりに別々です。ジークの温もりがないのは、寂しい……。明日の朝、ジークの記憶が戻っていればいいのに……。
翌朝、一人で目が覚めた。テントから出て、朝食の準備をする。
「ジーク、おはよう」
「おはよう、ミーチェ」
ジークも起きて来て、手伝いたいと言ってきた。シチューをお皿に入れてもらった。残りのシチューと、たまごサンド。たまごサンドは、ジークの好物ですよ。
食事中、ジークが聞いてきた。
「なぜ、僕達は迷宮都市を出たのかな?」
「それはね、迷宮都市のギルド長が、ジークにランクBになれって、何度も呼び出すから、煩わしくなって街を出たの」
「なるほど、前と同じ理由か……」
ジークは、元気がない。不安なのかな……。
馬車が動き始めると、アイーダさんが声をかけてきた。
「ジーク、おはよう。なんか、元気ないね?喧嘩でもした?」
「かまわないでくれ……」
ジーク、アイーダさんの事も忘れているのね……。
「喧嘩したんなら、私と街で遊ばない?」
えー!なんと、直球の肉食女子……。これ、怒っていい?我慢できずに、アイーダさんに言う。
「ちょと……」
「話しかけないでくれるかな」
ジークが、私の言葉を遮ってきた。怖いぐらいです。
「ちぇ、ジーク!少しぐらい相手にしてくれてもいいじゃない!」
アイーダさん、まだ食いつくのね。凄い……。
「……いい加減にしてくれ」
ジークは、突き放す様に言う。
「分かったよ!ジークのバカヤロー!」
えっ、ジークが悪いの?アイーダさん?
アイーダさんは、馬車の先頭に走って行った。近くを歩いていた『赤い牙』のメンバーが、苦笑いしていた。
「ミーチェ。ごめん……」
ん?ジーク、なぜ謝るの?
「えっ?ジークは、悪くないでしょ」
「君に嫌な思いをさせているから……」
あぁ、ジークは、やっぱりいい人だ。気にしないでと言っておく。
最後の岩山の中腹で休憩です。簡単にハンバーガーと果汁水を出す。ジークは、美味しいと言って、食べてくれる。良かった。
「ねぇ、ミーチェ。僕達は、何処で知り合ったのかな?」
「あぁ、それは秘密事項になるから、詳しい話は出来ないかな。始まりの街でパーティーを組んだのよ」
もしかしたら、ジークは私の事を、思い出さないかも知れないから……、迷い人の事は忘れたままの方がいい……、迷惑になるし……。
「秘密事項……、それは、思い出さない方がいいのかな?」
「違う!ジーク、思い出して欲しい……。でも、私からは言わない方が良いと思ってる事柄なの。私とジークでは立場?が、違うから……」
思い出して欲しいよ、今すぐにでも。
ジークは、よく分からないって顔をしている。そうね、言わないと分からないよね……。
休憩が終わり、出発する。途中で襲って来る魔物を倒しながら進む。最後の野営で、食事をしながらジークが聞く。
「森のブラージに来たのは、何故かな?」
「それはね、ジークが決めたのよ。だから、私には分からないの。あぁ、もしかしたら、ダンジョンがあるからかもね」
にっこり微笑んだ。そう、ジークが決めたのよ。
「そうか……」
「ねぇ、ジーク。思い出した事があったら、教えてね。お願いね」
その日も、別々のテントで寝た。このままなのかな……、とても歯痒い……。
なかなか、寝られないから、テントとバッグを抱えて拡張した……。この旅の間で、テント30畳、バッグは馬車10台分になりました。
翌朝、ジークが少しイライラしている。どうしたのかと尋ねたら、
「君に、迷惑をかけてすまない……」
「ジーク、大丈夫よ。そのうち、思い出すかも知れないからね」
早く思い出して欲しい……。
「思い出さなかったら?」
そうね……。ジークが、かまうなと言うまで傍にいるよ。
「ふふ。私が、覚えてるから大丈夫!のんびり行こう」
昼過ぎに、<森のブラージ>に到着した。
ジャンルを異世界恋愛に変更しました。アドバイスありがとうございます。
誤字報告ありがとうございます。




