11 ジークの視点 1
ジークは、<魔の森>の中を歩いていた。
ここ数日、魔物の姿が少ない。川沿いをいつもより奥に入る。川辺にある岩山に、黒い霧が渦を巻いていた……。
「何だ!?」
息を飲む。黒い渦の中から、何かが出てきた……。
「……魔物? ……人か?」
渦から産まれる様に出てきたそれは、そのまま地面に横たわり動かない……。
近寄ってみると、意識のない女だった。見たことない服装をしている。鑑定してみるが、何も見えない……。
「どうなってるんだ……」
そのまま放置することが出来ず、川辺で寝かせて様子を見る。気が付いたようだ、黒髪の黒い瞳のほっそりした年上の女性。
「気が付いた?」
戸惑っているようだが、助けた礼を言われた。丁寧な話し方、貴族みたいに偉そうじゃない。街の女の子みたいに、キャッキャしていない。ミチヨと言うらしい。言い難いな……。
彼女の話を聞くと、どうやら迷い人のようだ。だから、鑑定出来なかったのか……。
再び鑑定する。今度は、ステータスが見えたけど、おかしいな? 0歳って、ありえないだろう? それに、愛称でつけた呼び名が名前になっているし……。
彼女の慌てようが可愛い。そりゃあ困るよね。若返って赤ちゃんになるのは、僕でも困る。
街まで連れて行く事になった。ステータスのせいか、スライムにすら悪戦苦闘してる。一生懸命なのがいいね。微笑ましいよ。
お世話になってるお礼にと、夕食を作ってくれたけど、これはびっくりした! すごく美味しい。普通じゃないよ……。
うん、決めた!独り立ちするまで僕が面倒みよう。この世界に一人きり、僕と同じだ……。僕が守ってあげないとね。悪いからと、断られそうなので育成クエストの為と言おう。しかし、料理が美味しすぎる。
<始まりの街>に着く前にステータスをチェックした。6歳になっているけど、スキルが色々と増えている。まずいね。見た目も若くなってきているし、綺麗になった……。
う~ん、どうしようかな。2人パーティーを組んでおこうか。
僕と変わらない息子がいるって? 冗談言って、そうは見えないよ。あれ? ミーチェはエルフじゃないよね?
マントを着せて、フードを被らせる。僕にしかステータスを見せないとか、かわいい事を言う。
ギルドに登録してもらって、上手くパーティーを組めた。受付のレイシアさんは、怪訝な顔していたけど。
変なのに絡まれて、迷い人だってバレたら困るだろうし。ミーチェは、男女2人パーティーの意味を知らないからね。そのうち、教えるよ。フフ。
ミーチェが、ランクEになった。彼女の見た目が、更に若くなってきた……。そろそろ、街を移動した方がいんだけど……。
「ミーチェ、早く15になって……」
高レベルの鑑定持ちにステータスを見られると困る。と、思っていたが、先にケビンに気付かれそうだ……。
「お嬢ちゃん、何か最近、若く? 可愛くなってないかあ?」
これは不味い。ミーチェのステータスを確認する。14歳だった。見た目16ぐらいだと言ったら、ミーチェも慌てていた。
そして、ミーチェは思ってもいなかった事を言う。
「ジークの昇級クエストが終わったら……。私、冒険者を辞めて目立たない路地とかで屋台でもやろうかな~。って」
な! 何を……、話を聞いてられなくて、思わず止めた。
「待って、ミーチェ!」
嫌だ……。何が?
ミーチェが、どこかに行きそう……、なんだ……。
止めなきゃ……。何故?
……、
ミーチェが、好き……、なのか……?
……、
ミーチェが、僕から離れていくのがいやなんだ……。
急いで、街を出る。ミーチェが、変な事を考えないうちに。
ミーチェが変な魔法を覚える、というか作ってる。そして、僕が言ってた隠匿魔法を覚えたと報告してくる。宿題が終わったから、他の魔法も練習するんだって。宿題って何? 可愛いなぁ……。
ミーチェのステータスを鑑定してみたけど、何も出ない。あぁ~、そうだ、鑑定はミーチェの方が、レベルが上だった。どういう風に隠したのか、凄く気になるんだけど……。
あの時から、ミーチェが気になって仕方がない。向こうの世界に家族がいると言ってたけど、僕の気持ちは僕のものだよね。
ミーチェは、甘やかすと真っ赤になって、更に可愛くなる。視線がさまよって、これは癖になるね。
<迷宮都市>に着くと、ミーチェが相談があると言う。ダンジョンに入ると、転移するかもしれないと。えっ、嫌だ……。
「ミーチェ……」
言葉を失って、思わず抱きしめてしまった。
ミーチェは、何もないかも知れないが、もし消えてしまったらごめんね、と言う。
愛しい……。
思わず、額にキスをしてしまった。
そういえばダンジョンに落ちて、こっちに来たと言っていたね。よく考えてみないと……。
部屋に戻って話の続きをした。ダンジョンに入っても、転移しないと結論が出た。頭では分かっていても少し不安だよ。
このままダンジョンに入らず、ダンジョンの無い街に行ってもいいんだけど……。
「ジーク、大丈夫よ。私、消えたりしないから」
あぁ、笑顔で癒される。
……約束だよ。……帰らないで。
「おやすみ、ミーチェ」
願いを込めて、額にキスをする。




