虐められる者と虐められていた者
大学の昼の休みを告げるチャイムが眠そうな学生にも聞こえるそんな時間
空の中央に見える太陽が、相談部の部室でも見える
その相談部に四つの人影がある。
和人が四人分の紅茶を淹れている、その横にカップを温める長奈子
長奈子の顔が少し赤らんでるのは、温まったカップに触れて体の温度が上がっているからだろうか?
和人も動きがたどたどしいのはきっとあまり紅茶を淹れたことがないからだろう
そんな初心な二人を見るのは、霧子と龍之介だ。
霧子は無表情ではあるが、しかしその視線はどこか優しさを醸し出していた。
龍之介はというと、二人を恨めしそうに見つめているようだ。
紅茶を淹れたカップが、ココナッツの良い香りを放っている
「これ、どこの紅茶だい?」
霧子が紅茶を一口飲みながら、二人に聞く
その問いに答えたのは、長奈子だった。
「これは、海外にいる私のおばあちゃんから送られたココナッツティーです。」
「へ~、ココナッツミルクを紅茶に混ぜたりするのは知ってるけど、ココナッツそのものの紅茶は初めてだな」
何やら関心した様子の霧子、そんな霧子の横で同じように紅茶を飲む龍之介
紅茶を一口飲むと、目を見開き
「おいしい…」
そう溢すように言った。
紅茶の味に感激した様子の龍之介に長奈子が笑いかける
「おいしいでしょ?」
「うん、おいしい…なんていうか落ち着く」
ほっと一息つく龍之介に、霧子が話を持ち掛ける
「それで、龍之介君」
「はい」
「昨日は、君の荷物を一緒に探したね、それで君はいじめられているとも言った。」
「…はい」
「それで、毎回ここに来る相談者には聞いているんだけど、君はどうしたいんだ?」
霧子の質問に黙り込む龍之介
「どうしたら、いじめられなくなりますか?」
龍之介がこぼした難しすぎる問いに、三人が頭を悩ませる
「昨日、アパートに帰ってノートを開くと、死ねと書かれていました。」
淡々と話す龍之介に、誰も何も言えない
話を続ける龍之介
「僕が彼らに何をしたというのですか?」
龍之介の言葉に最も頭を悩ませているのは和人だ。
そして、そんな和人を見つめる長奈子も何か思うところがあるようだ。
龍之介の声は少しづつ上ずりながら、悲痛に言葉を紡ぐ
「僕が、彼らに何をしたというのですか!」
一言大声でそういう龍之介、隣の部室からうるさいぞという指摘が入る中、話し合いは続けられる
しかし話し合いと言っても、現在は龍之介以外誰も離していない
沈黙が訪れる相談部
その沈黙を破ったのは…
「何も言わないよ」
長奈子だった。
長奈子の言葉に耳を貸す龍之介、長奈子は続きを話す
「だって、オタクに対する偏見は私にもあるもの」
長奈子のその言葉に、目を見開く龍之介と和人
長奈子の言葉を黙って聞くみんな
「でも、理解したいとは思っている。」
「えっ?」
長奈子の言葉に思わずすっとんきょうな声が出る龍之介
和人はというと、笑顔で長奈子の事を見ている。
「僕も、以前はいじめられてた。」
和人が話しだしたのを、黙って見つめる龍之介
和人の過去を知って、驚いているようだ。
「君もいじめられてたの?」
「そう、高校の時にね、筆記用具を同じようにされたよ、それに好きな本の表紙を笑われたり、さらされたり、他には水をかけられたこともあったな、別段何かをしたという訳ではないんだ、ただきっと…」
「きっと?」
和人の言葉に龍之介が先を早くと急かんばかりに聞く
「彼らは、群れる事を正義と見る、友達が多いほうが勝ち組だと思っている。実際友達が多ければいつか自分の助けになるだろう、だから彼らは友達を作ることをしない僕らのような者を下に見る、そして見下された人は、彼らが勝手に作った評価の元、どう扱うかが決まる。その結果がいじめだ。その時の僕は思った、どうせオタクは、こういう扱いに慣れなきゃいけないんだと」
和人の言葉に聞き入る三人、やがて和人が一息ついた後に、でもと続ける
「でも、それは間違いだった…慣れる必要なんてない、でも立ち向かう必要もない…怖くて仕方ないのなら、一度逃げればいい、自分が怯えずに済む場所に一回逃げるんだ。そして落ち着いたらまた日常を過ごせばいい…なぜならいじめはなくならないのだから。でももし本当にもう逃げれられない状況にまで追い込まれたら、今度は人に頼ればいい…誰だって疲れたら、誰かにもたれかかりたいもんだ、今の龍之介君のようにね」
「…」
和人の言葉を聞いて、黙る龍之介
「なんです、それ…まったく根本的な解決になってませんよ。結局は僕らが耐えるべきだということですよね」
「そうだよ、僕らは耐えなきゃいけない」
「そんなの、理不尽だ…」
「そうだね、理不尽だよ…でも世の中に出れば理不尽なことはもっとある。辛い経験もたくさんするかもしれない、でも理不尽な事や辛い経験だけじゃ人は、生きていけないから…そんな疲れた人達のために、僕らがいるんだ。」
龍之介を見つめながら和人が続ける
「少なくとも、この大学で心が疲れてしまった人達のために僕らは存在したい、君のように悩みを持つ人が少しでもその心の内をさらけ出せる場所が必要なんだ」
「僕の問題は解決してくれないのかい?」
「残念ながら、僕らにそんな力はない、君をいじめている人達に僕らがなにかを言っても絶対に変わらない、僕らは相談部…君の悩みを聞く人たちで、君の心の疲れを少しでも癒す人達だ。」
龍之介は和人のその言葉を聞いて立ち上がる、自分の荷物を手に持って部室の扉を開ける
三人がそんな龍之介を見つめる
龍之介は部室を出る前に一度、三人のほうに振り返り
「ありがとうな…相談部、少しだけ楽になったよ、また来てもいいか?」
龍之介のその言葉に和人が応える
「あぁ、いつでも来いよ、おいしい紅茶があるから」
「それは、すごく楽しみだ。」
龍之介は軽く笑うと、扉を閉めた
いじめというテーマに初めて触れる自分ですが、なかなか難しいですね
いざ、書いてみるとなかなかうまい台詞が出てこなくてかなり困りました。
でもすごく楽しくかけました。
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んじゃね~