砂浜
夜の砂浜で、ぼーっと海を見る。
「ちょっと和臣、仕事よ」
「.......海ってすごいな」
「何言ってるのよ、ほら、あっちを手伝いに行きましょう」
「それより魚探そうぜ。あ、カニもいるかも」
「早く行くわよ」
ズルズルと引きずられて、岩の前で何やらゴソゴソしているゆかりんの所まで行く。
「町田さん、どうかしたの?」
「私、呪術系は不得意なのよ.......これ、張り直せばいいの? 結界と同じ?」
「和臣、どうなの?」
「ええ.......? なんかこう.......ベタッてやって」
「「は?」」
「すいません。1度やるので見ててください」
俺は呪術が得意ではない。きちんと勉強したのは初歩までだし、あまり使わないのだ。
「ほお、やっぱり上手いじゃねぇか」
「あ、優止」
ゆかりんと葉月が固まる。
「そんで? こっちのお嬢ちゃん達は?」
「今教えてる。そうだ、優止が教えてよ。俺初歩しか知らないし、説明苦手なんだ」
「俺はいいけど、お嬢ちゃん達もいいか?」
「「はいっ!」」
2人がガクガクと首をふる。
そして、小声で聞いてくる。
「ちょっと!? いつの間に隊長と仲良くなったのよ!? 」
「あなた、そのほっぺあの人にやられたんでしょ? 大丈夫なの?」
「俺と優止はそんなヤワな関係じゃない。男.......いや、漢同士の関係.......戦友なんだよ!」
「「はあ?」」
「和臣! よく言った! 俺達は漢だ!」
優止と肩を組んで笑う。さっきメアドも交換した。
漢友達ってやつだ。
「よし、俺が呪術について教えてやる! よく聞けよ!」
俺が盛大な拍手をし、口笛を吹く。
葉月とゆかりんも小さく拍手していた。
「いいか、まず呪術って言うのは普段お前達が使ってる術とは違う。術って言うのは霊力とか気力なんてモンを流す事で使う。ここまではいいな?」
「力はそこにあるだけじゃ働かない。流すことで初めて働き出すんだ」
「その通りだ和臣」
優止が盛大な拍手をする。
「それでだな、呪術って言うのは力を流さない。停滞することで呪術は働く」
「「?」」
「そうだ、疑問に思うだろうな。呪術を働かせるのは、札に書いた術式だけじゃないんだ。前もっての準備、そこに力がある事の違和感.......まあ、わかりやすく言うと高低差で動いてるんだ。周りのモンを集めて淀ませる」
「優止! もっと優しく! わからん!」
「そこに無いはずのものがある.......その違和感そのものが呪術ってことだ。.......酷い言い方をすれば、世界遺産の前に生ゴミ捨てておいて、そこに集まる負の感情を使うって事」
「すげぇ、なんて例えだ!」
俺が感動の拍手をしていると。
「あの.......」
葉月がおずおずと手を挙げる。
「どうした? 質問か?」
「前に、呪いって言うのを見たのですが、それとは違うものですか?」
「違う。全くの別物だ。.......それから、あまり興味を持たない方がいい。呪いは禁止されてる」
「.......葉月、あの変態の事は忘れろ。あんなものできる奴他にはいないから」
「じゃあ、お嬢ちゃん達。俺が見といてやるからやってみな」
葉月とゆかりんが呪術をかけていく。
初めは緊張していたのに、だんだんきゃいきゃいと騒がしくなる。
「九条隊長、絶対芸能界に入った方がいいです!
必ず売れます。私が保証します!」
「お嬢ちゃんみたいには出来ねぇからなぁ」
「九条隊長、すごくわかりやすいです。指導がお上手なんですね」
「お嬢ちゃん達の筋がいいんだよ、それに美人だ!」
「「もう!」」
疎外感。薄々気づいていた。
優止、女子に優しい。しかも恥ずかしいことも平気で言う。これは、モテる。
「.......裏切り?」
「ちょっと和臣。あなたも仕事しなさい」
「そう言えば七条和臣。中田さんが呼んでたわよ?」
「ああ! まずいな、すごい仕事が! これは手が離せない! 行けないなぁ!」
思い切り砂浜を走る。
その日から、夜の砂浜のランニングが日課になった。