表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/304

第44話 半袖

「「和臣、座れ」」


「.......何か?」


 兄貴と先輩に言われた通り座りながら、2人の様子を伺う。一体なんの用だろうか。


「明日からは隊員達が来るからな。お前も副隊長として動かないといけなくなる」


「それで、隊長の心得というか.......先輩として、アドバイスをしてやろうと思ってな!」


 楽しそうな先輩に、腕を組みいつも通りの兄貴。思わずまじまじと2人を見つめる。


「2人って仲良かったっけ?」


「「いや、全然」」


 たぶん仲良しだと思う。


「和臣、お前自分の隊の隊員にはもう目を通したのか?」


「一応、資料は見た。特別隊は人数が少ないから、たぶん全員の名前は覚えた」


「よし。お前にしてはよくやった」


 もう少し素直に褒めてくれてもいいんだぞ兄貴。


「特別隊ってのは何人いるんだ?」


「隊員は15人ですね。そこに俺と零様が入ります」


「少ないな.......。俺の隊がだいたい100人だから、本当に他の隊のフォローが役割なのか」


「ああ。各ポイントに1人か2人配置して、頂上に残りを置く」


「和臣、お前式神まで飛ばせるのか? 俺から六条に言ってやろうか?」


「いえ、大丈夫です。医療用のだと、数はあまり出せないんですけど」


 先輩はいきなり、鳩が豆鉄砲を食ったような顔になり、そのまま首だけ回して隣の兄貴を見た。兄貴は苦い顔をして。


「.......うちの弟は少し規格外だ。気にしないでくれ」


 微妙な沈黙が降りた。


「で、兄貴。心得って何?」


「ああ。まず、お前は副隊長だが、零様はしばらくいらっしゃらない。つまりお前が1番上の立場ってことになる。部下が来ても、慌てず余裕を持って行動しろよ」


「厳しくしすぎることはねぇが、緩くしすぎて舐められたらその隊は終わりだ。きっちり線は引けよ」


「線.......」


 線を、引く。


「ん? どうした?」


「い、いや! なんでもない!」


 慌てて頭を振って、ぼんやりと思い浮かんだ男のことをかき消した。


「15人しかいないから、距離感は考えろよってことだ。あと、お前は絶対に部下の話を聞けよ! ただでさえ聞かないんだから、意識するんだぞ!」


「おう、まかせとけ」


「.......和臣、俺はお前のこと結構気に入ってるが、そこは頑張れよ。部下ってのは上に話をすることに結構体力使うんだ」


「はい、頑張ります」


 2人はよし、と同時にうなずいて。


「「じゃあ、話は終わりだ」」


「ありがとうございました」


 ペコリと頭を下げた。しかし、2人は部屋から出て行く気配がない。このあとはオセロ大会だろうか。


「「飯食いに行くぞ」」


「あれ? もうそんな時間?」


「「今日は外に食いに行く」」


「.......2人とも、本当に仲いいな」


「「そんなことは無い」」


 もはや親友だろ。


「どこ行くんだ?」


「ここら辺といったらほうとうだろ! いい店見つけたんだ、いっぱい食えよ!」


「外は結構寒いから、ちゃんと上着着てけよ。あ、お前制服以外の服で来いよ! 汚すからな」


 兄貴達が部屋を出て、俺は着替えようと持ってきた服を漁る。


 ここで問題。全ての服が半袖だった。


「寒いな.......。でも、上着着れば大丈夫か?」


 上着を探すと、薄手のものしかなかった。


「寒いよ.......。走れば大丈夫か?」


 もう面倒になったので、半袖に上着を羽織って外に出た。


「さっむ」


「和臣、お前そんな薄い上着で! 寒いって言っただろ!? 話を聞け!」


「話は聞いてたけど服がなかった」


「家出る時に冬の服持って来いって言っただろ!」


「あの時はこれで行ける気がしていた。反省はしているが後悔もしている!」


「ダメだ.......。お前、ホントにもう.......」


 兄貴が両手で顔を覆ってしまった。でもすでに反省はしている。


「和臣、寒いから走って行くか!」


「いいっすね、兄貴も走る?」


「.......はあ。ほどほどにな」


 ほうとう屋まで走ると、俺は燃え尽きていた。ぜえぜえと息が上がり、膝に手をつきその場で立ち止まる。寒くはなくなったが、心臓が破けそうだった。


「和臣、お前体力無さすぎだろ.......普段運動しないからだぞ」


「和臣! いっぱい食え! そしてよく寝ろ! そしたらデカくなって体力もつく!」


「.......ひぃ」


 ほうとう屋に入って上着を脱ぐと、間髪入れずに兄貴が俺の頭を叩いた。


「半袖着てくるバカがいるか!?」


「.......半袖しかなかったから!! しょうがないだろ!?」


「なんでお前がキレてんだよ! 俺が怒ってんの!」


 説教が長くなりそうだったので、机の上のメニューを広げる。


「まあ、とりあえずほうとう頼もうぜ。先輩、おすすめってあります?」


「.......大盛りにしとけば全部おすすめだ」


「じゃあ、俺これにします。兄貴は?」


「.......同じの」


 兄貴と先輩は2人とも同じような顔をしていた。まだ何も頼んでいないはずなのに、渋すぎるコーヒーでも飲み干したような顔だった。


「.......七条、今日は俺が奢るわ.......」


「.......気を使ってもらって悪いな。こんな弟だが、よろしく頼む」


「.......悪い奴ではねぇから.......俺は.......結構気に入ってる.......」


「.......今度飲みに行くか」


「.......そうだな」


 ほうとうは美味しかった。温かかったし、麺とかぼちゃが溶けたスープが絡んで美味しかった。強いていえば、肉が少なかったことだけが残念だった。

 ぽかぽかと温まってから宿に帰り、部屋に敷かれた布団の枕元を見れば、何かが置いてあった。


「ん?」


 拾い上げてみれば、ゆかりんの生写真。


「詩太さんか?」


 裏側を見ると、「裏の肉屋のメンチカツが美味しいよ——エンジェル」と書いてあった。隣には可愛いマレーバクの絵。


「.......」


 そっと生写真をしまって、部屋を出る。




「兄貴ーー!!! 先輩ーー!! 」




 廊下で叫ぶという非常識なことも、今は許して欲しい。


「「どうした!?」」


 その日は、隊長全員が宿の警備に当たり、当主達は会議室に集められた。

 俺はこっそり裏の肉屋に行った。

 死ぬほど怒られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ