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七条家の糸使い(旧タイトル:学年一の美少女は、夜の方が凄かった)  作者: 藍依青糸
七条家の糸使い よわよわ男子高校生のあやかし退治

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◇美術◇

書籍化記念。

高校一年生、夏休み明けの2人。一応書籍版の2人のつもりですが薄目で見ればWEBの2人です。


あとTwitterはじめました。@aiyori_kappa


 俺は絵が得意だ。

 昔から勉強スポーツ音楽その他の面では諦められていた俺だが、美術の授業ではそれなりに褒められてきた。

 だから。


「……やってやるぜ!」

「急にどうしたのよ」


 昼休みを終えた5限目。

 秋風の入る美術室で、画用紙を前に、葉月と向かい合っていた。


 今日の課題はペアでの似顔絵制作だった。出席番号的に、俺は田中のアホヅラをリアルに描いて賞賛を浴びるはずだったのに、NASAの陰謀による男女混合くじで葉月とペアになってしまった。

 よりによって学年一の美少女とペア、しかも似顔絵まで描かなくてはいけないとは。何もせずとも妬みと注目の的、絵が下手でも美化しすぎても変な噂が立つこと間違いなし。

 今まさに、俺がなにより愛する学園生活が脅かされているが、問題はない。

 俺の画力で、上手くもなく下手でもない、誰も俺が葉月に気があるなんて噂の立てようがない凡庸な似顔絵を描いてやる。


「かず……七条くんは、絵が得意なの?」

「ああ……唯一の特技と言ってもいい」

「ならどうしてそんなに追い詰められた顔をしているのよ」


 思わずふ、と笑みが溢れた。これだから素人は。


「芸術はギリギリの精神状態でこそ生まれるモノだぞ?」

「おバカなの?」

「冷や汗が止まらないぜ……!」


 葉月は、おバカね、と呟いて自分の画用紙に目を移した。鉛筆で何かを書いているはずだが、ごりごりと不穏な音がする。すみません彫刻の授業やってる音なんですが。


「……ねえ。学校なのに、私とこんなに話していいの?」

「へ?」

「あなた、前に言ったじゃない。学校であまり話しかけるなって」


 美術の先生が見回りに来て、慌てて鉛筆を滑らせる。モデルの葉月を見れば、無表情でかたく口を引き結んでいた。

 先生がじっと見てくるので、真面目に似顔絵を描く。目を描こうとして、中々難しいと苦戦していれば先生は満足気に去っていった。

 苦戦しながら、俺をじっと見て返事を待っている葉月に小声で返す。


「そりゃ俺悪目立ちしたくないもん」

「……そう」


 いやしかし、本当に似顔絵は難しいな。実物はもっと綺麗だが、あまり上手く描きすぎても良くない。とりあえずまつ毛を軽めに描いておこう。


「でもこんなペアワーク中に無言ってのも悪目立ちするだろ? だから今は逆に適度に会話する方が自然だ」

「……そういうものかしら」


 周りのクラスメイト達もわいわいきゃあきゃあ騒がしい。この中で重苦しく黙っていたらその方が変な噂を立てられてしまう。


「俺はな、穏やかな学園生活守るのに本気なんだよ」


 次は眉だ。ここは実物に忠実にいこう。綺麗になりすぎたら髪の毛で誤魔化せばいいし。


「あなたって本当に学校が好きね」

「まあな。だから葉月みたいに可愛い女子と接触してからかわれるなんて、絶対に避けないと」


 次に鼻と口のバランスで四苦八苦していれば、かたん、鉛筆が俺の足元に転がってきた。よく見れば真っ二つに折れていて、残りの半分は葉月の手の中にあった。まじか、片手で折ったのか鉛筆。


「おい大丈夫かよ。線が気に入らなったのか? なら消しゴム使えって」

「……」

「消しゴム無いのか? じゃあ俺二個あるから、一個貸すよ」


 消しゴムを差し出したのに、葉月は折れた鉛筆を持ったまま動かない。どうした、芸術が爆発したのか。


「おい和臣ー! 描けたかー?」

「ぐえ」


 いきなり背後から首に腕が回された。最悪だ、俺の学園生活を脅かしかねないバカがやって来てしまった。

 ここは慎重に、一切葉月との関係を勘ぐられないように動かなくては。


「開始15分だぞ。まだに決まってんだろ」

「俺はもう描けた!」


 コイツに美術なぞ100年早かったか。

 ペアの女子を不憫に思って見れば、ペアは山田で1人サラサラと何か描いていた。そういえばこのクラス、男が多いから男女ペアにすると男があまるんだった。不憫。


「野球部だからめっちゃ描きやすくてよー、早く終わっちまったぜ!」

「もっと描き込み入れてこい。そしてお前モデルでもあるんだから大人しく座ってろ」

「つまんねーじゃーん!」


 騒いでいた田中は見回りにきた先生に連れていかれた。ありがとうございます先生、僕の学園生活を守ってくれて。

 そろそろ授業時間も迫ってきたので、俺も自分の作業に戻るとしよう。葉月は常に表情が動かず無表情なので、いつ見ても変わらない似顔絵の授業では最高のモデルと言えるだろう。


「……ねえ」

「ん?」

「私と話すと目立つのは、私が変な子だからじゃないの?」

「はあ?」


 鉛筆を止めて葉月を見れば、俯いて短くなった鉛筆を膝の上で握りしめていた。新しい鉛筆もらったらどうだ。


「葉月みたいな勉強もスポーツもできて美人な良い奴と、俺みたいな平凡男子が話してたらからかわれるんだよ。俺が」


 まったく、これだから一軍女子ってやつは困る。その一挙一動で俺の人生が変わると自覚していただきたい。


「……そ、う」


 先程からやけに歯切れが悪いな、と葉月の方を見れば、もうこちらにつむじが見えるほど俯いて、髪が流れた拍子に見えた耳が真っ赤になっていた。何にがあったんだ、と首をかしげて。

 ふと、自分の今までの発言を思い返す。


 可愛い女子、勉強もスポーツもできて美人な良い奴。


 おい待て俺。さすがに褒めすぎだろ。


「待て! 違う、違うんだ! 他意はない、他意はないんだ!! ただ、客観的事実として! 葉月は美人だってことで!」


 自分の顔に血が集まるのを感じながらも、もうどうすることも出来ない。どうにかしようともがくのに、どんどんドツボにハマっていっている気がする。どうしてくれようこの空気。


「うおお……俺のタイプは可愛い系、ふわふわ優しい家庭的な女子ぃ……!」


 両手で頭を抱えながら、自分に言い聞かせるようにつぶやく。落ち着け俺、冷静になれ。相手は葉月、術者で弟子で、完全に恋愛対象外だ。そのはずだろう。


「七条くーん? どうしたのー?」


 騒いでいたせいか美術の先生がやって来てしまった。他のクラスメイト達が、田中の描いた単純すぎる似顔絵に夢中になってこちらを見ていなかったのが不幸中の幸いだ。

 しかし、もう誰にも俺が描いた絵は見せられない。単純にあれだけ褒めた相手の絵を見せるのが恥ずかしいとも言う。


「七条くん、描けたの? 凄くいい感じだったから、見せ」

「芸術は、爆発だああああ!!」

「七条くん!? すごく上手にかけてるから落ち着いて!! 破いちゃダメ!」


 爆発させようとした俺の絵は先生に取り上げられた。

 一方、葉月の絵は、筆圧が強すぎるせいか途中て鉛筆画折れたせいかピカソ的な雰囲気を出しており、先生も唸る作品となった。


 夏休みも終わり始まった二学期。

 芸術の、秋である。

【七条家の糸使い よわよわ男子高校生のあやかし退治】

 KADOKAWA富士見L文庫さまより本日(3月14日)発売。


 皆さまのおかげで本になりました。

 お気づきの方も多いと思いますが、書籍ではタイトルが変わっています。当然です。

 これで本屋さんにWEB版タイトルの検索を頼まずにすみますし、Amazon履歴もクリーンなままです。そして、見たら絶対に欲しくなってしまう素晴らしい表紙をつけていただきました。


 ぜひ、皆さまのお手元に届いて欲しいなと思います。



◆サイトリンク

 https://www.kadokawa.co.jp/product/322411000464/

◆ISBN

 9784040758268



 これからもよろしくお願いいたします。

 藍依青糸

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