座学
ドラゴンの首が落ちた後。
ドラゴンの残骸の上で号泣している金髪さんに、目をキラキラさせてその残骸を漁り始めた金髪美少女。ゆかりんの治療を断ってどこかへ歩き出す一条さんに、俺の指の止血をしている葉月。
カオス。理解不能な状況だ。
「和臣、指.......!」
「.......え? あー、治るかなー」
とりあえず頑張ってみるが、それよりこの現状が分からない。ただ、あまりにも金髪さんの泣き声が心に刺さるので。
「お姉さーん! 大丈夫ですかー! 悩みなら聞きますよー!」
余計泣き声が大きくなった。葉月とゆかりんは何故か怯え出した。どうした、今更ドラゴン怖くなってきたのか。謎だもんなドラゴン。
「七条和臣、あんた.......それより先にやることあるんじゃないの!?」
「あ、西の専門家に連絡? ごめん、俺ドイツ語分かんない.......」
「違うーーーー!!! あんた七条家なら指大事にしなさいよーーー!!!!」
「いえーい」
両手を広げてゆかりんとハイタッチを交わした。免停中に治療系の本ばっかり読んでた甲斐があったな。ハルのアドバイスも貰っておいて良かった。
「なんなのよあんたーーー!!!」
「.......ばかじゃないの!」
ゆかりんに揺すられていると、視界の端に紺色のコートを着た人達が30人ほどドラゴンの残骸へ向かって来るのが見えた。残骸の方へ目を向けると。
「カズオミ、あれが教会の魔導師よ。ねぇ、ちょっと足止めしておいて? ふふふ、欲しい物がたくさんあるの」
「先生〜! ドラゴン勝手に持ってかないでくださ〜い! 教会の仕事ですよ〜!」
「だっていつも教会に取られちゃうんだもの」
「うわ〜ん! そんなんだから目の敵にされて先生個人のために聖剣が送られるんですよ〜!!」
「ふふふ。私を殺す聖剣は、今では私のレッスンのノートをとってるわ。教会一の武闘派だったのにね、ふふふ」
「うえ〜ん! 3次元なんか嫌いです〜! YUKARINしか信じられませ〜ん!」
いつの間にか上着を着た一条さんが、刀を鞄に仕舞ってやってきた。そして。
「...............................返還」
「あっ.......」
金髪さんの目の前に立って口を開いた瞬間、金髪さんが気絶して倒れた。変わらないなこの人も。
「ふふふ。ねえ、ペンドラゴン? 教会のみんなが見てるわよ?」
「はっ」
意識を取り戻した金髪さんは、キリッとした表情で立ち上がり、白金の剣に両手を置いて一条さんに向かい合った。だが残念なことに、膝が笑っているのが丸見えだ。
「ど、どうせ殺されるなら一条に.......」
何を思いつめてるんだ金髪さん。
「ねえ和臣、あの人大丈夫かしら.......」
「ちょっと、今ゆかりんって言った?」
なんだか余計に混乱する事態になってきたので、とりあえず離れた所に放り出してあった荷物を回収する。そしてその中から、目当ての物を探し出す。
「お姉さーん! この間、あと今もありがとうございました! お礼になんないけど、一応新刊持ってきましたー!」
「ひうっ」
金髪さんの膝が折れた。一条さんが素早く支えたが、それにより金髪さんは静かになってしまった。悲しい。
「ふふふ。ねえ、あのお固い魔導師達に今の彼女を見せるとちょっとだけ面倒なの。あとの片付けは教会に任せて、座学へ移りましょう? 議題はもう決めてあるの」
この子もこの子で訳が分からないな。こんなことがあったのにずっと楽しそうな上、さっき何本もの試験管にドラゴンの血やら何やらを入れてうっとりしているのを見かけた。色々問題がある。
「...............................ホテル、へ」
「了解です」
もう色々どうでもよくなって、一条さんの指示に従う。葉月とゆかりんは一条さんに抱えられた金髪さんを心配して、歩きながら遠慮がちに視線を向けていた。乗り込んだ大型タクシーから降りると。
「あらあら、もう寝るの? 日本の陰陽師について、話を聞きたかったのだけど」
「俺は陰陽師じゃないから無理」
「そう、そこよ。なぜ日本の陰陽師は、術者という存在へ変わったのかしら? 陰と陽の概念は取り入れているのに.......使う術にも、とても興味があるわ」
葉月に知らない人と話すな、と言われたので黙る。腰に下げたランプでは、トカゲがずっとスリスリとガラス越しに俺の足によってきていた。足でいいのかよ。俺も温かいからいいけどさ。
「.......七条和臣、この危険金髪どこまでついてくる気よ」
俺の耳元に小声で話しかけてきたゆかりんに、それを聞こうと顔を近づける葉月。素晴らしいなドイツ。世界ってこんなにも美しいんだ。まるで晴れやかな花畑のようだ。
「「聞きなさいよ」」
「.......2人とも好きなだけご飯食べてくれ。幸せになるまで食べてくれ」
「え! いいの!」
「町田さん、食べ物に釣られないでちょうだい。和臣は全く質問に答えてないわよ」
目を輝かせて、飛び跳ねそうな勢いだったゆかりんが真面目な顔を作る。しかしすぐ口元が緩んできてしまう。ナイスアイドル。
「で? この子は、いつまで私達についてくる気なの?」
鉛色のドイツの寒空よりも冷たい声で葉月に問われ、ゆかりんとビクビクしながら答えた。
「知らない.......。でも一条さんが金髪さん抱えてるから.......部屋まで来るんじゃないか?」
「「え」」
「女子部屋には行かせないから大丈夫。金髪さん起きたら話聞いて帰ってもらうだけだと思うし」
ホテルのスタッフへ荷物を預け、全員でエレベーターに乗った。眠くなってきたぞ。
そして、部屋までの廊下で。
「.......はっ」
「あ、お姉さん起きました?」
「なっ、7巻.......」
「へ?」
「7巻を譲ってくれた恩人.......ってきゃああ!」
俺の隣りを歩くゆかりんの顔を見た金髪さんは、またがくんっと気を失った。心配だよ本当に。
一条さんが自分の部屋の前で立ち止まる。金髪さんを抱えたまま中に入り、当然のように金髪美少女も入って行った。俺たち3人も仕方なく中へ入る。
「ふふふ。彼女を助けてくれてありがとう。彼女といると楽しいから.......とても嬉しいわ」
「.........................目覚める、まで」
「あら、それまでベッドを貸してくれるの? ふふふ、紳士的ね」
「...............................身長、差」
「そうね。私では気絶した彼女を運べ無いものね」
なぜ通じてるんだこの2人。怖くなって葉月とゆかりんを見ると、2人も引き攣った顔で俺を見ていた。良かった俺は正常。
「じゃあ、始めましょうか」
「...............................UNO?」
「ふふふ。いいえ、ディスカッションよ。あなた達についてのね」
金髪美少女に向かい合うように置かれた椅子に、一条さんが腰を降ろした。