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蜥蜴

 夕立ちにあった。久しぶりの学校終わりに、数駅先の店にフライパンを買いに寄った帰りにずぶ濡れになった。


「.......そしてここはどこ」


 とりあえず走って雨宿りの場所を探していたら、全く見覚えのない駅に着いた。

 絞れるんじゃないかと言うほどシャツがびしょびしょだ。ハンカチなど気の利いたものもないので、本気でシャツを絞ってみた。ただ裾がシワになっただけだった。


「ねぇ」


「ん?」


 いつの間にか、隣りに小さな女の子がいた。ダボダボのコートの様な服を着ていて、輝く金髪を高い位置でポニーテールにしている。女の子は、にこにこ笑って聞いてきた。


「あなた、迷子?」


「え、まだそうとは言えないけど.......君は? 1人?」


 デジャブ感がある。真っ黒なゴスロリ少女を思い出した。


「人を待ってるの。私に日本語を教えてくれた人よ」


「へぇ。君外国の子? 日本語上手だね」


 すっと金髪の女の子の目が開いた。真っ青な目が俺を見ていた。


「あなた、ブラックね」


「え。ぶ、ブラック? 一応、休みはきちんと貰ってるけど.......」


「ふふふ。私は、日本のホワイトに興味があるの。でも、外の私には会えないから」


「え? ホワイト? 求人?」


 女の子は、コートの中から何かを取り出した。すっと差し出される。


「プレゼントよ。かわいがってね」


「え」


 手渡されたのは、金の細工がしてあるランプ。持ち手も金で、中心のガラス容器には赤々と炎が灯っていた。


「え? 本物の火?」


「ふふふ。本物よ。ちゃんとね」


 訳が分からない。こんなものを持っていては電車に乗れないのでは無いだろうか。申し訳ないが返そうとした所で。


「お待たせしましたー! むふふ、買えましたよ地方限定版! これから秋葉原で都内限定版を手に入れに行きます! ンンン、ジャパニーズ萌え.......! 薄い本も買いたいのですよ.......!」


 満面の笑みを浮かべた金髪美女が走ってきた。走る度に揺れるのは、アニメキャラがデカデカとプリントされたTシャツの胸元。大量のストラップが着いたカバンと本屋やアニメショップの袋をぶら下げている。


「ふふふ。あなたは日本が好きね」


「好きを超えたリスペクトです。日本のアニメ漫画アイドル全部素晴らしい!!」


 ちょっと現状が理解出来ない。雨止んだな、と言うどうでもいいことしか分からない。

 興奮気味に金髪少女に話しかけていた金髪美女が、ふと俺を見た。


「おや? あなた、能力者ですか?」


「へ?」


「ふふふ。彼はブラックよ。一条と同じね」


「ひっ!!」


 オタク美女は腰を抜かした。ガタガタ震えている。


「大丈夫。彼は一条では無いもの。ね?」


「は、はぁ.......1では、ないですけど.......」


 7です。七条くんですから。

 唐突に、金髪少女が胸に手を当ててうやうやしい礼をした。うっすら笑った青い瞳が、一瞬紅く見えたのは、気のせいだと思う。


「極東の白黒(モノクローム)。きちんとした挨拶は、また今度」


「先生っ!! 日本の総能に手を出したんですか!? つ、潰される.......!」


「まだ挨拶もしていないわ。行きましょう? 電車はどれに乗ればいいのかしら?」


「先生〜〜!!」


 2人が去って。

 全く理解が追いつかないまま、10分ほど立ち尽くしていた。

 ポケットの中で震えだした携帯を取って、よく分からないまま返事をして。


「和臣! あなたこんな所で! 早く帰りましょう? 」


 走ってきたのは、制服姿の葉月。そう言えば今日フライパンを買いに来たのは葉月に鉄のフライパンを薦められたからだ。重いし高かったが、これで俺の料理はワンランク上になるだろう。知らんけど。


「.......金髪美女オタクと不思議金髪少女に会った」


「はぁ?」


 葉月にタオルでガシガシと頭を拭かれる。めちゃくちゃ痛い。禿げそう。


「.......俺ってブラック?」


「はあ?」


「.......?」


「なんであなたが不思議そうな顔してるのよ」


 葉月が1ページ目が抜けた漫画を見る目で俺を見た。そのまま改札に引きずられる寸前。


「あっ! 待って葉月! 俺火持ってる!」


「はぁあ?」


 先程金髪少女に渡されたランプを見る。じっと、それを見て。


「.......げ」


「ちょっと、何よそれ? 本物?」


「や、やばい.......! 俺間抜けすぎる.......!」


「どうしたのよ」


「本物だ! 本物だった! どうしよう、俺こんなのよく分からないぞ.......!」


 ランプをつまんで遠ざける。まずい。こんなのどうすればいいのか分からない。それどころか、さっきの金髪さん達は観光目的では無いのか。おそらく西の能力者だろうとは思ったが、こんなものをプレゼントしてくるとはただの能力者ではないかもしれない。


「落ち着きなさいよ」


 葉月が俺の鼻をつまむ。ぐっと一瞬思考から呼吸まで全てが止まる。手が離れた時には、少し思考がまとまってきていた。


「あなたがすべきことは何?」


「.......花田さんと、杉原さんに連絡」


「それで、そのランプは? 普通のランプに見えるけど」


「.......上手く、隠してある。たぶんこの金の細工が、檻なんだ」


「?」


「中にトカゲがいる。俺は全然知らないけど.......たぶん、西の火蜥蜴.......サラマンダーだ」


 ランプの、ゆらゆらと揺れる炎の中で。小さなトカゲが、くいっと首を傾げた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 数々の山を乗り越えての再開ありがとうございます! データが消失とは…大変でしたね。 読者としては読めるだけで幸せなのでいくらでも待ちます。無理せずご執筆なさって下さい。(感謝) 万が一…
[良い点] Hyahoo!New chpter!! やりました! 新章スタート!ドキドキワクワクです! のっけから、クスッとするギャグ連発、お見事です。迷子から意味のとりちがいまでこれぞ七条さんち…
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