千葉
「はぁーい。おはようございまーす.......。点呼とり.......まあ全員いるか.......」
俺の家の離れに隊の全員が集まる。久しぶりに開けたので少々埃っぽいのは許して欲しい。
「えー。まず、皆さんに質問をしたいと思います。.......ごほん。一番恐ろしいものってなーんだ!! はい、葉月さんからどうぞ!」
花田さんがニコニコ拍手してくれるが、女子達の視線が冷たい。空調壊れてるのかな。
「.......小さじ一」
「それは怖いね! 葉月いつも砂糖も塩も1袋入れちゃうからね!」
全員引いていた。でも葉月と料理すると隣りでレシピ全部言ってくれるから楽だよ。俺がちゃんと小さじ測るから引かないで。
「はい次ゆかりん!!」
「.......体重」
「それも怖いね! でもゆかりんは食べてる時が可愛いよ!! サインくれ!!」
ため息をつかれた。でもそろそろサインが欲しいんだ。妹ばかりサイン入りグッズを持っていて羨ましい。俺のゆかりんへの投資額を舐めないでほしい。
「はい次中田さん!!」
「エンストとバッテリーが上がった時でしょうか」
ノーコメントで。
「.......花田さんお願いします」
「.......思春期.......ですかね」
あっれれー? おっかしいぞー? ここで花田さんが答え言ってくれる流れじゃなかった? このままじゃ迷宮ばかりの迷探偵になっちまうぜバーロー。見た目も頭脳も大人にしてくれ。
「.......答えを発表しまーす!! 正解はー?」
先ほどノートに見開きで書いた文字を見せる。
「SNSじゃあああああ!! 妖怪だろうが怨霊だろうが関係ない!! 怖いのは拡散と炎上じゃあああああ!!」
本来ここで盛大な拍手と歓声で迎えられるはずが、立ち上がったのはゆかりんだけだった。
「七条和臣!! あんたよく分かってるじゃない!! ネットほど怖いものは無いわ!! 昨日のネットニュースで私激太り疑惑を書いた記者には消えてもらいたいもの!!」
「そいつの目節穴だな!! ゆかりん全然太ってないよ!! トンカツ奢ろうか!?」
「一番高いやつがいい!!」
「任せろ昨日給料日だった!!」
熱い抱擁寸前で、葉月の足が俺の脛を蹴った。
「.......仕事よね?」
「いえすお仕事です.......」
花田さんが部屋の入り口を確認する。俺も気を引き締めて、大きく息を吸った。
「.......今から言うこと、やること。全て他言するな。誰にもだ。いいな?」
全員真剣な顔になる。大丈夫、この人達は絶対に秘密は漏らさない。.......まあ、漏れたら漏れただ。さらば給料日。
「俺達は今回、一切表に出ることは許されない。総能の名前も、能力者の事も隠し通す。.......そして、今回の仕事は」
花田さんが1枚の写真を見せた。
「去年の日本新人女優賞受賞、桃川くるみの護衛.......及び処罰だ」
ゆかりんが息を飲み、葉月が眉を寄せる。中田さんはいつも通り。
「かなりのオカルトファンらしくてな。罰則規定に引っかかった。本来なら総能から罰則が行くはずだが.......」
「SNSの女王.......」
ゆかりんがぽつりと呟いた。やはり詳しい、さすが現役アイドル。
「そうだ。彼女のあまりの拡散力の強さ、インターネットの持続性.......それらを考慮した結果、総能は迂闊に手を出せなくなった」
「でも、それじゃあ罰則の意味がないじゃない。立場によって罪が変わるなんて、バカげてるわ」
葉月が厳しい顔で言う。
「その通りだ。だから、今回の件は絶対に他言無用。本部では適切に処理された事にされる。桃川くるみへの罰則は本来本部の人間からの厳重注意と指定物の没収だが、これは俺が表に出ないように行う。もちろん本来の罰則より軽くも重くもしない。それで、皆の仕事は桃川くるみの護衛だ」
「何から守るの? 誰もこの事を知らないのよね?」
「.......今回の件が浮上したのは、桃川くるみがあるモノを手に入れたからだ。それ自体の処理は俺がやるが.......おそらく色々寄ってきてる。今回は彼女だけの責任とも言いきれないし.......女優変死なんて、シャレにならない。頼んだぞ」
「「「了解」」」
全員険しい顔。特にゆかりんが唇を噛んで下を向いていた。
「いやぁ! 都内で仕事ですか、お土産に迷いますねぇ!」
やっぱり、花田さんがいなければウチの隊はダメだ。
「俺ひよ子饅頭買いたいです」
「和臣隊長、ひよ子は福岡ですよ」
「ええ!?」
普通に衝撃だった。嘘でしょ。だって東京ひよ子って書いてあるよね。俺は何を信じていけばいいんだ。
「お車もうすぐ着きますのでね。移動中じっくり考えましょう」
「.......鳩サブレ?」
「「「それは鎌倉」」」
東京全然トリいないじゃないか。
車の中での協議の結果、お土産はピーナッツになった。