胴体
和臣視点、怨霊退治の話です。
時間は「討伐」の直後からです。
現場に着いたのはちょうどお昼時。まだハルは来ていなかったので、俺は宿の前に立って待っていた。
今回の宿は旅館ではなく、びっくりするほど背の高いホテルだった。
「.......葉月めちゃくちゃ怒ってるな」
大量のメールと着信を見なかったことにして、「ただ今イーストブルー」とだけ送った。それ以降ピタリとメールも着信もなくなった。
「やっほぉー! 和臣お待たせぇ!」
「あ、ハル。やっほー、じゃあホテルに.......」
声の方を向いた瞬間、息が止まった。
「.............久しいな」
「い、一条さん!? なぜ、なぜここに!?」
「ふふん。私が呼んだのぉ! いっちーがいた方が早く終わるかなって!」
「やめてハル.......一条のご当主気軽に呼ばないで.......」
「...................今回」
なぜかハルのスーツケースまで持っている一条さんは、鋭い目をしていた。
「...................私は、討伐隊の.......隊員だ」
どこを見ているのか全く分からないが、鋭い目をしている。
「.............よろしく、頼む。.............上司殿」
「やめてください.......本当にやめてください.......一条さん.......俺死んじゃう.......」
「和臣なんで泣いてるのぉ?」
ハルがケラケラ笑いながらホテルへ向かう。俺が涙を拭いていると、一条さんがすっと俺の荷物を持った。
「やめてください.......本当にごめんなさい.......俺が持ちます.......ごめんなさい」
「.............重くて、泣いてるのでは、ないのか?」
「違います.......一条さん、本当にいいんですか? お忙しいんじゃ.......」
「...................構わない」
そのまま一条さんもスタスタ歩いていってしまった。
早くも胃に穴が開きそうな仕事になってしまった。ホテルの部屋は綺麗だったが、そんなことはもはやどうでもいい。いくらいいベッドでも寝られないものは寝られない。
その後、夜までの間まさかのハルと一条さんが部屋にやって来て、札でトランプという謎競技が始まった。もちろんハルの圧勝だが、問題はその後。俺と残った時の一条さんの目が怖すぎる。涙で札が滲んだ。
そして、夜。
「.............副隊長」
「やめてください.......七条弟でお願いします.......」
「和臣ったらおかしいぃー! ずっと泣いてるんだもん!」
この面子ダメだと思います。総能本部へ。今後二度とこのようなことがないようにお願いします、切に。
「.............ここは」
「.......」
「あっ! 勝博からメールだぁ! もう、勝博ったら寂しがり屋さんねぇ!」
「.........................どこだ?」
俺はそっと電柱に手をついて、目をつぶった。謎にこみ上げてきた笑いを鼻から逃がす。そして。
「助けてくださーーいっ!! このメンバーダメですー!! コミュニケーション能力に問題がある人しかいませーんっ!! そして仕事場はどこですかー??!!」
ハルはケラケラ笑っていて、一条さんは鋭い目をしていた。
「.............泣くな。.......地図がある」
一条さんが取り出したのは世界地図。グローバル視点過ぎる。
「ふふん。大丈夫だよぉ! 私が連れてってあげるぅ!」
「.......本当に?」
「うん!」
ハルは迷いなく歩き出した。一条さんが音もなく後をついて歩き、俺は泣きながら続く。
「次はぁー.......右!」
本当に現場に着いた。都会の中の一角。未だに血気盛んな首を祀る場所。
「すごいなハル! 地図もないのに場所が分かるなんて!」
「でしょぉ?」
振り向いたハルの手には、通話中の携帯電話。大きく、勝博とあった。さらに「治様、治様たどり着きましたか? 治様?」と聞こえる。
「治って呼ぶなぁ!!」
ハルが携帯をべちんっと叩くと、携帯は真っ暗になった。俺は考えるのをやめた。それから数時間、俺は宇宙の広さについて考えていた。
「.............居ないな」
もう朝日が昇る頃、一条さんが呟いた。
「居ないねぇ」
「既に一般人にも被害が出ています。さらに今回の相手は危険度Aを超えるレベル、一刻も早く退治したいですね」
花田さんってこんな感じだよな。早く花田さんに会いたい。というか今来て欲しい。
「.............退治か」
「封印してもしてもダメだもんねぇ。今回もあと50年くらいの気休めだよぉ。いくら私と和臣を呼んでも無理なのにねぇ」
「そろそろ帰りませんか? お腹空いたんですけど」
牛丼屋に寄ってホテルへ戻った。
昼寝をして、今日は早めに現場へ向かう。昼間近場で交通事故があったのだ。怪我人は出なかったが、早く処理しないとまずい。
今日現れなかった場合、ハルが無理やり探し出す事になった。
しかし、その必要はなくなった。
ちょうど日が落ちた頃。都会はまだまだ明るい中。
『やあやあ我こそは!!』
ハルが札をばらまく。一条さんは刀に手をかけた。
「.......おい、これ.......」
「かずちゃん! 下だと狭いからぁ、壁の上行くよぉ! 【八壁・守護】!!」
一条さんが俺を脇に抱えて、ハルを片腕に座らせる。そして、一気に跳んだ。ハルが空に張った壁へ、空中で3回新たな足場を踏みしめて。
壁に上がって、一条さんに放り出される。ハルは靴音を鳴らして堂々と降り立つ。そして、そこには。
『平将門!! さあ、もう一戦交えようぞ!』
「.......胴体、ついてるぞ?」
首と胴が繋がった、最強クラスの怨霊が居た。