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不運

 どこか暗い場所で。

 俺はまた白い着物を着て立っていた。


「.......」


 ここに居てはいけない。そう思うのに、体は動かなかった。

 真っ赤な花が一面に咲いていて、1本の川が見える。


「これ絶対まずいやつじゃん」


「そうだな。まずいぞ、気を付けろ」


「!?」


 川の向こう側に、不機嫌そうに腕を組んだ男がいた。

 鋭い目をした男で、会ったことはないが、見知った男だった。


「あ、芦屋道満」


「呼び捨てーー!! 年上だし初対面ー!!」


「ああ、すいません。どうしてここに?」


「お、お前からは晴明と同じ匂いがする.......! 人の話を聞かない変態だ!」


「俺は変態じゃないです」


「だいたいこの状況でケロッとしているのは変態だけだ! もっと焦れよ!」


「だってこれ、夢ですよね? なら目が覚めるまではどうしようもないじゃないですか」


「なぜ私が悪い感じに持っていくんだ!私は親切心でここに来てるんだぞ!?」


 なんだ親切心って。詐欺師の文句じゃないか。


「.......お前、私の子達が見ないようにと気を使ったのを無駄にしただろ」


「.......あっ! あなたって零様のご先祖さま!?」


「そうだ。お前の星の巡りが最悪に悪かった上、あの変態が周りをうろついているからな。お前これからとんでもないもの見るぞ」


「なんで急に夢なんて.......」


 変態が俺の周りをうろつくなんて最近に始まったことではない。巡りが悪いのはどうしようもないが、捕えられるなど聞いたことがない。


「最近夢を見る仕事をしただろ。タガが外れたんだ。それにお前、元々ズレてる。それをあの変態が線を引かせたり生きたまま黄泉に行ったり悪魔なんかの時は自分で見たり.......もっとズレたんだ。お前もう天才とかいう問題じゃないぞ」


「失礼な、じゃあどういう問題なんですか!」


「なんで偉そうなんだーー!! 私の親切心ーー!!」


「すいません、ご親切にどうも」


「.......お前、嫌い。すごい疲れる」


 道満さんはぐしゃぐしゃと頭をかき混ぜて。ぎっと鋭い目で俺を見た。


「.......まあ、お前はちゃんと基準を決めてる。戻れなくなることはないだろうがな」


「?」


「お前が大事にしてる普通の事だ。それを大事に持っていれば、ズレても戻れる」


「はぁ.......手放すつもりはないですけど.......」


「大事にしておけ。.......ああ、来たぞ」


 ざわざわと赤い花がなびく。この花は、なんと言ったか。


「.......この夢はな、人が見るべきじゃないんだ」


「え?」


「.......予知夢。先のことなんて、狂いの原因にしかならない」


 目の前の景色が変わる。どこかの庭で。まだ桜の蕾も硬い季節。ちょうど、今ぐらいの季節に。


「ーーー」


「ーーーー」


 変態と、白い人が向かい合っている。鋭い目の白い人と、余裕の変態。何か話している。でも、聞こえない。


「聞かなくていい。早く終われとだけ願え」


「あっ」


 いつの間にか景色が変わって。どこか暗い場所で、真っ赤な花を一輪持った変態が、泣きそうな顔で笑った。川に背を向けて。


「あっ、ちょっと!」


「.......先のことなど、知らない方がいい」


 ぶつりと切れて、また赤い花畑に立っていた。


「なあ!? これ未来のことなのか!? だったら変態まずいんじゃないのか!?」


「.......」


「なあ! だって変な方向いてたぞ!? あんたとの勝負、まずいんじゃないのか!?」


「.......先のことは、分からない。あと、まあ、なんだ」


「どうすんだ!?」


「友人として、礼を言う。お前のおかげで、あいつは楽しそうだ」


「.......そんなの! あんたといた方が楽しいに決まってるだろ!」


 ニヤリと笑った鋭い目の男は。ぱんっと手を鳴らした。


「お前は今日運が悪いからな! 私が多少持ってやろう! あの変態のことは私の子が大体何とかするが、残りは頼む!」


「待て待て!? なんの事だ!?」


 足を踏み出せば。

 はっと目が覚めた。


「和臣!! 大丈夫!? ごめんなさい!」


「ごめんねぇ!! 和臣ごめんねぇ!!」


 涙目のハルと葉月がすごい勢いで謝ってくる。


「ああ.......敷地内での野球には気をつけて.......」


 襖をあけた瞬間俺が見たものは、本気の投球フォームの葉月と何故かバットを2本持ったハルだった。そして、そのまま俺の頭にボールが吸い込まれた。運が悪すぎる。


「...................七条弟」


「ひっ」


 音も立てずに部屋に入ってきた一条さんは、何故か両手にどんぶりを持っていた。


「.............腹が、減った。カツ丼だ」


「ど、どうもありがとうございます!」


 気まずい空気の中、俺と一条さんだけがカツ丼を食べる。


「.......和臣、見ちゃった?」


 バットを2本抱えたハルが聞いてくる。グローブで顔を隠した葉月は、見たことない顔をしていた。


「.......あー。たぶんね、大丈夫、覚えてないよ」


「.......むう」


 確実にバレているが、逃げ出した俺が悪いので黙っておく。でもあの状況なら逃げ出したくなるのもわかって欲しい、なぜ一条さんを説明役にした。いや、ハルでも困るな。詰んでる、このメンツ。


「あれ? じゃあ俺もう帰っていいんですか?」


「...................零様に、許可を」


「ああ、わかりました。じゃあちょっと行ってきます」


 部屋を出ようと襖を開ければ。

 ひゅっと風が吹いた。


「.......運悪っ」


 俺の頭に吸い込まれてきた瓦は、一条さんによって真っ二つにされた。刀を抜いたのかすら分からない。


「和臣、大丈夫ぅ!?」


「だ、大丈夫.......多少持ってくれるって言ってたし.......」


「?」


「とりあえず! 零様のとこ行ってくる!」


 葉月が呼び止める声が聞こえたが、走って廊下を進んだ。これは早くウチの裏山に行った方がいいな。変態の言う通りだった。このままだと俺死ぬんじゃないのか。




 それから。長い廊下を走っていたはずが。


「.......ここは、どこだ?」


 知らない山の中で、俺は迷子になっていた。



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