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八.心機一転!こっから読んでも何の問題もない回。

魔王城での一日。

作者はゆったりを目指します。

 

 この世界には三つの『国』が存在する。

 世界最大の領土と人口、軍事力を有する国、帝国『フリギア』。

 旧文明と科学崇拝の国、『グノーシア』。

 魔術と伝統を誇る国、『マジスティア』。

 

 そして、彼の『城』はどの国も属さない。絶対中立の城が何処かにある。


 その城は霧の魔法によって隠され、多重の結界によって外との関係を絶ち、幾重の転移用魔法陣によって護られていた。

 難攻不落の絶対城塞。決して辿り着けぬと謳われた、暗黒の宮殿。

 

 その名は『魔王城』。

 

 城の主はもちろん『魔王』。破壊の化身。災いの権化。

 彼は身体に《闇》を宿している。その道の者は、彼を《闇の皇帝》と呼ぶ。

 概念的な、例えば絶望とか嫉妬とか、物理的な、例えば影とか、それらを統べ、使役する者。それが《闇の皇帝》。

 『魔王』と呼ぶに相応しい力。

 それを一身に背負う『魔王』が目を覚ます、

 

「…………」


 筈も無かった。

 さっきから耳元で叫んだり息を吹きかけてみたり目覚まし鳴らしたりと起こそうとはしているのだが、全く起きる気配が無い。

 しかし、少女は諦めない。


「ふふふ、こんな事もあろうかととっておきの物があるんですよね〜」


 少女は未だに眠りこけている魔王の耳元に何かを近づけると、ポチッとボタンを押す。

 瞬間、


『起きろ息子ォォォォォォオオオオオオオ!!!!』

 

「おうぐわぁぁぁああああああ!!!!」

 

 魔王の一日は、こうして始まる。


    ◇◆◇


「チクショウ、起こし方非道過ぎるだろ……」

 彼女の声を聞くだけで俺の生存本能は緊急サイレンを鳴らし、脳が強制的に覚醒してしまう。

 しかし、それも一時の事。また段々と眠気が……。

 

 あくびをしながら、俺は私服に着替える。


 ここで、改めて自己紹介をしておこう。

 俺は秀兎。外の世界で『魔王』と呼ばれてる。

 黒い髪に黒い瞳、まぁ典型的な日本人の顔だ。

 特に特徴も無い(事を目指している)が、俺の身体には《闇》が宿っていてその所為で色々迷惑していたりする。

 変に詳しい奴は俺の事を《闇の皇帝》と呼んでいて、今は脱力系魔王を目指そうと思っていたりする。

 ちなみに、俺の母親はそれはもう「父さんはロリコン」と思わせるほどの外見で、一子の母のくせに『女子高生』とよく言われている。

 そのくせ自分の息子を宙吊りにしたり落とし穴に落としたり竜の巣に入れたりと執拗に俺を苛めてくる人格破綻者でもある。

 はい自己紹介終わり。


 俺は朝食を食う為に食堂に向かった。


 途中、後ろから声をかけられたので、俺は振り返りソイツが横に来るのを待つ。


「おはようございま〜すっ!」


「おはよ」


 金髪碧眼爽やか童顔スマイル。ロングの髪をツインに縛っている。

 彼女はヒナ。本名ヒナ・ラヴデルト・フリギア。

 帝国『フリギア』の第三皇女様だ。

 そしてあの『起きろ息子』で俺を起こした少女である。


「相変わらず眠そうですね〜」


「そんないつも眠そうにしているかな?」


 なんて。どうでもいい会話をしながら二人で食堂へ向かう。


 ヒナ・ラヴデルト・フリギア。

 彼女は俺と同じように、《光》を宿していて、俺が《闇の皇帝》と呼ばれるように彼女も《光の姫君》と呼ばれいる。


 《光》と《闇》。それぞれ真逆の立場に居る俺たちだが、何故か『夫婦』となった。


 勿論俺は健全な十六歳。

 結婚は法律で認められていない筈だけど、母さんやヒナ、城の皆は気にしない方向で話が進み、俺とヒナは結婚した。


 元々、ヒナはこの城に『勇者』としてやってきた。

 特に困難も無く俺と出会い、闘い、俺が負けてヒナが俺にプロポーズするというなんだか訳の分からん展開になり、どうしようかと悩んだ末に俺の母さんに相談する事に。

 しかし、母さんは「まぁいんじゃね?」「面白いから結婚しろ!」と快諾。

 俺は縄で縛られ強制的に式が挙げられ、めでたく(俺的にはめでたくない)結婚。

 その後色々あったものの、ここ2、3日は何事も無く平和な日々が続いている。


 別に夫婦の関係を認めた訳ではない。

 しかし、ヒナは何かと楽しい奴なので一緒に居たいという気持ちもある。

 なんだろう、この気持ちは……。


    ◇◆◇

 

「ふぅ。やっと終わった……」

 

 目の前に散らばる書類をクリップでまとめる。


 〜《二足行動戦闘用兵騎アーマード》に対する改造費決算〜

 

 と書かれている。数枚にわたりお金のあれこれが表記されていて、秀兎はそれに目を通して一番上の書類にサインする。


 二足行動戦闘用兵騎とは、先日魔王城に乗り込んで来たフリギア帝国特殊なんちゃらとかいう甲冑部隊が使った実験兵器だ。

 

 《グノーシアカガクスウハイのシンジャタチ》が、フリギア皇帝オヤバカなヒナのチチに友好の証として送った物で、フリギア皇帝クソジジィは何の躊躇ためらいも無く実戦投入してきたのをこっちが奪ってやった。

 

 しかし、秀兎は忘れていた。魔王城にも《科学崇拝者キカイオタク》が居る事を。

 

「はいこれ」

 

「どうも秀ちゃん。これであれもボト○ズからナイト○アに生まれ変われるよ!」

 

 ピンク色の髪が特徴的な、小学生が笑う。

 彼女は紅葉と言う、《魔王城技術開発部》のトップだ。IQが三〇〇もあるらしい。

 

 彼女こそ、魔王城きっての科学崇拝者。

 

「この機関を完成させるだけであとは流れ作業なんだけどなぁ……」

 

 書類の図面を見て呻く小学生。かなりおかしな組合せだ。

 と、

 

「ねぇ秀ちゃん」

「ん?」

「ちょっと頼みたいんだけどさ、《黒輝岩ヤミヨ》と《白煌岩アサギリ》を採ってきて欲しいんだけど……」


 紅葉は上目遣いに聞いてくる。

 可愛い、と思う。書類持ってモジモジしてるとことか。でも俺ロリコンじゃないよ。ほんとだよ?


 ――それはさて置き。


「《黒輝岩ヤミヨ》と《白煌岩アサギリ》を?」


 《黒輝岩ヤミヨ》と《白煌岩アサギリ》。

 ちょっと希少価値が高い鉱石だ。


 《黒輝岩ヤミヨ》は「闇夜」を濃縮したように黒い為に。


 《白煌岩アサギリ》は「朝霧」を濃縮したように白い為に。


 まるで俺とヒナの様な、二種一対の鉱石だ。


「でもまたなんでそんなもんを?」

「良くぞ聞いてくれた!」


 この時、秀兎はミスを犯した。

 余計な好奇心で聞いてしまった。これがミス。

 


 この後数式やら専門用語やらが圧縮されたような話を延々と聞かされ、開放された時には一種の洗脳を受けたような気持ちになる事を、秀兎はまだ知らなかった。



   ◇◆◇


 昼食を食う為に食堂に来た。


「騎士団長に会いたい〜?」


 分厚いステーキだ。魔王は真っ昼間から分厚いステーキを食っていた。

 レミオンと呼ばれる、雑食動物(外見はサイ)のサーロインが格安で手に入った、と、魔王城料理長、柊萌黄(紅葉姉)が自慢げに話していた。

 魔王も男の子。肉料理は大好きだしレミオンは少し臆病な性格でその肉は結構珍しい方なので食べてみたい。という訳で食べてみた。

 

 普通に美味かった。


 萌黄たちの腕がかなり上級なのか、素材がかなりいのか。どちらにしてもこれは美味い。 

 と言う事で魔王5枚目突入。


「ええ。私、ここに来て一週間経ったんですけど、未だに騎士団長さんには会っていないんですよ」

「あー、まぁそれはしょうがねぇよ。アイツは突然旅に出て突然帰ってくるよく解らない奴だから」


 ちなみにウチの父さん(先代魔王)も放浪癖がある。ふら〜っと出てってゆらりと帰ってくる。気付いたら居なくて気付いたら居るのだ。もうほんと、幽霊もびっくり。


「まぁそれは今度な、帰ってきたら一週間はここに居る筈だから」

「そうなんですか……少し残念です」

「そういえば、フリギアの騎士団長の、……なんだっけ?アルバ何とか?」

「アルバルスさんですね」

「そうそうその人。あの人確か全戦無敗って言われてるじゃん?」

「あーはい。って、まさかっ!?」

「そうなんだよ。一回だけウチの団長に負けてんだよ」

「ホントですか!?あの《一騎当千無敵の軍神》さんが!?一体どうやって……」

「それがさ……」


 ゆっくりと、時間が過ぎて行く。


   ◇◆◇


 魔王城には銭湯(の様な物)がある。

 ここは憩いの場であり、皆が汗を流し寛ぐ場である。

 しかし、そんな憩いの場(女湯)は只今二人が独占中だった。

 

 シャリーとヒナである。


「夫婦って、一体何をするんでしょうね〜?」


 唐突に、何の脈絡も無くヒナはシャリーに聞いた。


 若き《光》と《闇》の夫婦は、まだ高校生だ。

 当然夫婦という物が何なのか、何をするのか、そんな事はよく解らないヒナだった。

 

 シャリーは湯船に浸かり、艶のある黒髪の毛先を弄りながら答える。


「さぁ、私にもよく解んないよ〜」

「やっぱりエロですかねぇ〜。エロエロでエロエロなんですかねぇ〜」

「それは夫婦と言うよりカップル場合じゃない?ていうかヒナの夫婦像偏り過ぎでしょ」

「ではシャリーさんの言う夫婦とは?」

「私が思うに、夫婦ってのはさ、こうなんていうのかな、のんびりとテレビでも見ながら色々して……、って、あーやっぱ無理。私もエロだ。最後はエロエロだ」

「やっぱりエロエロですか〜」

「大体、ヒナと秀兎は若いんだから、したい事すればいいのよ」


「じゃぁ私とシャリーさんと秀兎さんで3Pでもしますか?」

 

 予想外の言葉が飛び出した。

「ぶぅッ!!3P!?ヤダヤダそんなの絶対イヤっ!」

 第一、彼に裸を見せるなんて行為自体出来っこない。大体は私たちはそんなんじゃなくて……!


「冗談ですよ冗談。私だって純潔を捧げる時は一対一が良いですよ〜」

「えらく平然としてるのね〜……。お姫様って箱入りだからそういうの知らないと思ってたよ」

「甘いですねシャリーさん。現代のお姫様をなめてはいけませんよ……」

 ふっふっふ〜。とか不気味に笑う第三皇女。

「お姫様と言っても、生活なんかは普通の人とあんまり変わりませんよ」

「例えば?」

「昔はどうか知りませんけど、今はゲームやったり漫画読んだり、たまに礼儀作法や剣術武術の稽古があるくらいです」

「うわフツー」

「私は《光の姫君》ってだけで他の人が距離置いちゃうんで結構自由な時間が多かったんですよ。だからよくネトゲしたりギャルゲやったりしてましたよ」

「うわぁ、私のお姫様像が朽ちて行く……。ていうかギャルゲとかって普通、男がやるもんじゃない?」

「えー、いいじゃないですか別に。それに、シャリーさんの身近にも居るじゃにですか。私と似たような事しかしてない人」

「えーいないよそんなヤ……」


 凄い肩書きのくせに?ネトゲ?ギャルゲ?エロゲに漫画?ラノベに18禁小説……。


「いたー。完全に忘れてたけどそういえばアイツもそうだったー」

 シャリーはこめかみを押さえて唸る。

 そういえばそうだったね。魔王とか呼ばれてるくせにね。

「最初見たときなんか私の部屋かと思った程ですよ」

 漫画とラノベで埋め尽くされた本棚。引き出しはゲームばっかり。

「そうそう、私が昔やっていたネトゲで実は秀兎さんと会ってたんですよー」

「へぇー。何て奴?」

「《ブラックアサルトオンライン》」

「出た……!あの名作!」

「もしかしてシャリーさんも?」

「私は秀兎ほどじゃなかったけど、研究の合間にやってたよ」

「ちなみに最終階級は?」

「大佐。結構有名だったのよ、私。しらない?《白影の花嫁》エーデルワイスって」

「えー!あれシャリーさんだったんですかー!?私一度戦場であってボコボコにされましたよ……」

「まだまだ、秀兎はもっと凄いよね。《四皇(元帥クラスの異名)》の軍隊をぶっ潰したんだから」

「あの時は燃えましたねー。確かこっちが四十人の相手が五百人でしたっけ?」

「え、ヒナあの時居たの?」


 とか、若き女の子の会話とは思えないネトゲの話は続き、


「え゛ッ!!ヒナあの『アリア』なのッ!?あの《千人殺し》のアリアー!?」

「はい恥ずかしながら……」


 まだ続き、


「あの時の陛下は凄かったわ〜」

「あのセンターホール作戦ですよねッ!あの大胆さは凄かった!ブラアサの自由度を最大限に生かしたあの戦略はもう泣きましたッ!感動しましたッ!貴方に一生着いて行きますッ!ってかんじでしたねぇ〜」

「それコメントしてたよ」


 まだ続き、


「で、美味しいところは陛下が持っていくんだよねぇ〜」

「そうなんですよッ!なんですかあの跳びながらのヘッドショットはッ!?格好良過ぎですよ!一瞬バグかと思いましたもん!」

「そうそう!こう斜めに飛びながらバンバンバンバーンッ!!、てね!もうあれは神業だよ」


 まだ続き……、


「その後の秀兎とときたら……」

「まったく秀兎さんは…………」


 ブク、ブクブク、ブクブクブクブクブクブク…………………。


 ……。

 この後、二人は風呂場の掃除に来たメイドさんによって救出された。

 医務室にて医師にこってりしぼられ、二人はヨロヨロとした足取りで自分の部屋に戻る。


「あ、そうだ。ねぇヒナ」


「はい?」


「明日さ……」



 夜の空には、星が煌いていた。


    ◇◆◇


「というわけで、デートに行きましょう!」


 …………。

「……は?」


 どういうわけですか?

どうやらデートするみたい。

でも、そう簡単に行かせる作者ではないのです。

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