六.夫が嫁を信じる理由。
ガフッ!
すみませんイケメンは死にませんでした……!
丁度良い所で区切ったら戦闘シーンに入れなくて。
ほんとにすみません……!
何故そこまで信頼できる?あんなに短い時間で。
――何故だろう。俺にも良くわかんねぇ。
何故そこまで言える?まだ少しも経っていない時間で。
――嫁だから、ってのはちょっと違うような……、まぁ信頼しても損にはなんないだろう?
はは、お前らしいな。
――とりあえず、お前は無事か?
ふ、お前、私を誰だと思っている。無事どころか喰ってやったよ。
――…………後で必ず吐き出しておけよ。
分かっている。しかしどうする。私が出ようか?
――いやお前の手を借りるまでも無い。
ほほぅ、中々の自信だな。しかし……、
――しかし?
危なくなったら呼べ。私もお前が消えるのは喜ばしく無い。
――…………。
か、勘違いするな!これはその、あれだ!新しい『依り代』を見つけるのが面倒なだけであって決してそういう意味では……!
――ツンデレかー。ツンデレもいいなー。
……ッ!
――あはは、冗談だよ冗談。んーまぁ危なくなったらな。そんときゃ覚悟しておけ。
エロガキが。
――今の発言の何処にエロが!?妄想狂言も良い所だぞ!
む、そろそろ処刑が始まるようだぞ?
――く、人のツッコミをスルーですか……!ってホントに来たよ。
では秀兎、死ぬなよ。
――ハッ。誰に言ってんだか。
◇◆◇
「陛下、あれって……」
シャリーが少し抑えめに聞いてきた。
「ああ、《悪魔殺し》だ」
全長1m。白の刃に黒い蛇の刻印。
かつて世界を滅ぼそうとした『邪龍』の首を叩き切ったとされる、血塗られた聖剣。
「でもあれは……」
「《模造品》だ。本物の比じゃないくらいに『弱い』よ」
それに、あの剣はフリギアの中でも特に禁忌とされている。そんな凶悪な爆弾を、帝国のクソジジィが俺ごときに使うはずも無い。
「どういうことですか?公開処刑のはずでは?」
「多分、映像を送る魔術でもあるんだろうな。それで帝国の主要都市に流すんだろ」
その方が、より速く、より多くの民衆に俺の死亡が伝わる。
「このまま黙って殺されるんですか!それでは城の皆が……!」
「シッ!黙って。大丈夫、策はある。心配すんな」
魔王は不敵に微笑んだ。
「魔王を前へ!」
イケメンが指示したとおり、俺は全身甲冑の人に引っ張られた。
玉座の前で床に押さえつけられる。
「魔王よ、言い残す事はあるか?」
イケメンはなんだか腹黒い顔でこっちを見ている。やべぇマジムカつく。
「んー。あ、ラヴデルト皇女殿下は?彼女は立ち会わないの?」
「立ち会うに決まっているだろう。直に……、いや、来られた」
ガチャリ、と扉の開く音がする。
「お、来た来た。やっほー」
声をかけてみたものの、返答は無い。
「貴様、何様のつもりか!」
「いや魔王様だけど?」
「ぐ……」
けっ、ばーか。俺に口で勝とうなんざ百、いや十、いややっぱ一年くらいはえぇっての。
「魔王、もう良いかな?」
「いや、あと少しだけ質問したい」
「……かまわん」
よし。
「じゃぁまず一つ」
「あんたらはどうやってここに来た?」
「…………」
イケメンは少し悩んでいる。俺の意図を探りたいのだろう。でもさぐらせないよ〜ん。
「何故そんな事を?」
「何故ってそりゃここの周りは霧の魔法で覆っている筈だし転移魔法陣もバラバラに刻んであるし結界だって何重にも張ってある。驕りじゃないけど結構自信があったからさ、どうやって破ったのか知りたいわけよ」
「ほほう」
イケメンの顔つきが変わった。強いて言うなら、自分の特技を見せびらかすガキの顔。
「なぁに簡単よ。姫様が付けているペンダント、実は発信機のようになっているのだ。時期が来れば姫様の《光》の力を使い外への道を作ってくれるという訳だ」
そういって、ヒナのペンダントを指差す。
「ふーん」
やっぱりね。どうせヒナの母親が仕込んだんだろう。
「んじゃもう一つ。俺討伐の暁にあんたは何を獲る?」
「彼女、第三皇女ラヴデルト様と結婚の儀を果たす」
「!?」
これはさすがに予想外らしい。シャリーたちが驚いている。
「ふーん」
さっすがヒナの父親。少しの関心で娘までやるなんて、つくづく腐っているな。
――陛下!いいんですか?ヒナちゃんは陛下と結婚しているのに……!
シャリーが念話魔法で話しかけてくる。が、
――しっ!黙ってろって!他の奴にもそう伝えて!
――しかし、
――信用しろ。
――……。
それっきり、シャリーは念話魔法を使わなくなった。
「もう良いかな?」
「あー、せめて死ぬ前にやりたい事はあったんでけどなー。ま、いいけど」
「では、始めよう。姫様」
「はい」
ヒナは、虚空に魔法陣を描く。
見た事も無い術式。遠距離に視覚情報を伝える為の魔術。
魔術の効かない《光の姫君》でも、魔術は使えてしまう。彼女の《光》は自分に害をもたらす物だけを自動的に破壊する。
(……便利だよな)
ちょっとだけ思う。
と、
魔法陣の中心に何かが映る。
荘厳な椅子に座った、男が映る。
「久しいな、魔王よ。見違えたぞ」
「そういうあんたは相も変わらず下衆な顔だね」
「貴様!国王に向かってなんて無礼なっ!」
イケメンが激怒するが、王がそれを制する。
「よい。昔と変わらず威勢が良いな」
「へ、そこは母さん譲りかも」
「ふむ、こうして貴公と喋るのも悪くないな」
「どうせ殺すんだろ?自分の為に」
「まぁそうなる」
「しかもそこのルル何とかとかいう奴にヒナを娶らせるんだって?」
「そうだが?」
「腐りきってんな。昔からだけど」
「自覚はしている。さて、そろそろ処刑といこうかな」
魔法陣の周りに、光が灯る。一つ、二つ、三つ、四つ、……全部で七つ。
「これより、魔王の公開処刑を行う!」
ルル何とかが声を張り上げた。
恐らく、あの光が灯ると外部との接続が完了したと言う事になるのだろう。
これで、俺の処刑はリアルタイムで帝国の全民衆が見ている事になる。
さて、準備は万端。
うーん、なんかいつもより頭が冴えているなぁー。さっきまで気持ち悪くて死にそうだったんだけどなぁー。は、これがまさかのコーラパワー!?
なんてね。頭ん中で一人漫才する位には冷静だ。
「魔王よ、今までの悪逆非道は決して許せるものではない。しかし、我が君はそんな貴様に慈悲を与えてくださった。貴様の最後の言葉を聞こう。それが我が君の慈悲だ」
さっきからイケメンがごちゃごちゃうるさいな。まぁここは我慢だ。
「では質問を。フリギア皇帝よ、貴公は娘の意思を尊重した事があるか?」
「無論だ。子の意思を聞かぬ親が何処にいる」
俺の目の前に居るんですけどね。
「ではあえて言おう。処刑執行の命はその娘に言わせてはどうかな?」
まぁコイツの事だから多分、
「もとよりそのつもりだ」
やっぱり。
「魔王よ、他に言い残す事は?」
「無い」
「では姫よ、ご命令を」
「はい」
ヒナは、白い手袋をした腕をそっと振り上げる。
「フリギア帝国第三皇女、ヒナ・ラヴデルト・フリギアが命じます……」
その目には、迷いも無く、偽りも無く、ただ真っ直ぐに、魔王を見詰めていた。
出遭って間もない少女。自分と正反対の位置に居る筈の少女。決して理解しあってはいけない少女。
それでも、俺と結婚したいと言った少女。
――だからこそ、
ヒナは確固たる意思を瞳に宿す。今度こそ壊れないように、硬く固めた決意を秘めて。
命を下す。
「魔王を、我が『夫』を開放しなさい!」
――だからこそ、信じる。信じる事が出来る。
ゴアァァァッ!
貴族語が、貴族語がわからねぇ……!
ホントに貴族の言葉って書きにくいっす。
あと、秀兎さん。伊達に魔王と呼ばれてないですね。はてさて何処まで予想しているのやら。
あと、作者はコー○ギアスが大好きです。