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伍.嫁よ、どうやらイケメンがお前を好きらしい

 

 幸い、城の皆は誰も殺されていないようだった。(つまり人質)


 しかも、昨日の宴会の後始末で帰ってきていない奴らが居たのでその人数も少ない。


 あと母さんがいる異空間への転移魔法陣は誰かが消して置いてくれたようだ。

 

 ――と言う事を、シャリーがこっそり念話魔法(テレパシー的な物)で教えてくれた。

 

 どうやら、ウチに勝手に上がりこんで好き勝手やってる連中は魔術に疎いらしい。

 堂々と魔法を使っても全くばれない。

 これで魔術師でもいたら即刻「何をしている!」で切り刻まれていたかもしれないな。

 と、安堵していると謁見の間に着いた。

 ちなみに俺は縄で縛られて連行されている。

「魔王様!」

「魔王様!」

 ああ、良かった。全員無傷だ。

 見ると、捕まっているのはシャリー直属の魔術師部隊の人たちや料理人の人たち、あとメイドさんたちが何人か縄で縛られて中央に集められている。


「みんな、無事か?」

 

 外見だけでは判断出来ない。近寄って一応聞く。

「今のところは……」

 答えたのはシャリーだった。寝間着のまま縄で縛られている所が彼女らしい。

 あと黒い髪がボサボサしていてちょっと恐い。


「へぇ〜。魔王って随分若いんだねぇ〜」

 

 若い、男の声がした。

 声から判断しても二十代か。声は玉座の方からした。

 

「ん?」

 

「初めまして魔王。フリギア帝国魔王殲滅特殊強襲部隊隊長の、ルルフ・ダールトンだ」

 

「……」

 なんか偉そうに俺の玉座でふんぞり帰っている栗毛の奴が居る。

「……」

 そんなに視力が良い方ではないので目を細めてその隊長さんを見ていると、


「おいおい、そんなに睨まないでくれよ」


 キラッと歯が光る。

 魔王は思わず呟いた。

「うぉ〜、イケメン……」

 イケメン、美形、明らかに女子にモテていそうな顔。

 白い鎧と金の装飾が彼の美を際立たせる。

 少なくとも、秀兎よりは数段上を行く顔を持っている。


「なぁ〜だから睨まないでくれって……」


「なぁシャリー、アイツスゲェな」

「何がです?」

「いやめっちゃイケメンじゃん」

「まぁ確かにカッコいいっちゃカッコいいですよね」

「だよね。絶対ファンクラブとかありそうだよ」

「でもああいうのに限って結構腹黒いんですよ」

「ああ、よくいるよねそういうキャラ」

「しかも下心満載で頭の中はエロエロな事に……」

「それは男なら誰でもそうなんじゃ……」

「じゃあやっぱり陛下の頭もエロエロな事に!?」

「いやいや今の議題はそこじゃないでしょ!」

「否定しない!?やはり陛下の頭はエロエロなのかっ!」

「何故そこで嬉し涙!?意味がわからないよ!?」

「いやてっきり二次元にしか興味が無いのかと」

「いやいやいや、俺まだ現実に絶望してないから!」

「えぇー。ではあの本棚に隠してあるあの官能小説はなんなのですか!?」

「グフッ!何故それを!?だが今はそれについて説明している暇は無いのだ!今重要なのはイケメンという名の狼藉者についてだな!」


「あのー、すいません。なんかその隊長(イケメン)さんがすごい寂しそうな顔してるんですけど……?」


 メイドさんが指差す隊長は、確かに膝を抱えてモジモジしてる。

 おまけになんかぶつぶつ唱えているのが恐い。

 あぁ、まさかのナイーブキャラかっ!イケメンにありがちのっ!


「すみませーん。あの、良ければ事情というか事態を説明してくれませんかー?」

 うーん。こういうタイプは立ち直りが早い筈なんだけど。

「そんな事敵は言いませんよ普通」

 いいから任せとけ。


「…………」 

 まだぶつぶつ言ってる。


「すみませーん」

 と、甲冑の人が玉座に近づいていく。

「隊長殿、隊長殿」

「はっ!すまない。で、なんだっけ?」

 ナイス甲冑の人A。

「魔王が質問したいと……」

「む、わかった。何かな魔王!」


「えっとですねー。事情というか事態というかそんな感じの事を説明してくれませんかー?」


「ふむ、わかった。何から答えれば良い?」


 お、オッケーだって。

「……いいのかよ」

「んじゃ早速。あんたら何しに来たの?」


「うむ、我々は魔王、貴様を捕らえに来たのだ」


「今更?何の為に?」


「国王は魔王を公開処刑にしたいそうだ」


 なるほど、理由は多分国民の支持が得られなくなったからだろう。

 確かに悪の権化たる魔王を殺せば国民の支持も上がるだろう。起死回生の一手か。


「どうやってここに?」


「皇女殿下のおかげだ」


 ヒナの?どういう事だろう?

 ……………………。

 ああ、オッケー成程ね。


「これから我らは帝国に連絡を取り国王の指示を仰ぐ。それまで首を洗って待っているのだな。もういいか?」


「うん、もういいや」


 あらかたの事情は把握した。もうイケメンに用はない。イケメン退散!

 

「では我々は連絡を取りに行く。さらばだ若き魔王よ」 

 そう言い残して、隊長さんはどっかへ行った。


     ◇◆◇


 監視の人間は居ない。

 はい、作戦会議開始。

「それにしても隊長親切だな〜」

 呆れるほどに。

「ほんとですね〜」

 シャリーも感心している。

「で、どう思います?魔王様」

「なにが?」

「なにがって、あいつらの事ですよ。この城は、人間が易々と入れるような場所じゃない筈です。中庭の迎撃魔法陣はシャリー様が昨日点検したばかりなんです」

「そうそう、不具合はありませんでした」

「てことは霧の魔法はまだ展開しているという事だな」

「いえ、そういう事ではなく、ヒナ、様の件でして」

 ヒナに様を付けるかどうかを迷ったのは、きっとアイツが裏切ったと思っているからだろう。


 元々あいつは敵国の姫君なのだ。まだまだ信用が足りない。


 いけない、そういう『誤解』は速く解かないと。


「あいつは何もしてないよ」


 確信を込めてそう言った。

「本当に、……そうなんでしょうか?」

 シャリーが渋い顔をする。

「疑ってるのか?」

「いえ、でも……、その……」


「疑うの良い事だ。お前はアイツの心裏が知りたいんだろう?」


 安心させるように言ってやる。

「だから答えはアイツに聞け。それがどんなに残酷な答えであっても、お前の心は絶対に折れない」

「陛下は、信じているのですか? 彼女を……」

 魔王は、屈託の無い笑顔で言う。


「アイツは一応、俺の嫁だから」


 まだ出遭って数日しか経っていないのに。

 何故そんなに信頼している?

 まだ結婚して一日しか経っていない筈なのに。

 何故迷いも無く答えられる?


「それに、あんな奴らに俺が負けるはず無いだろう?」


 その時の魔王は、多分自信に満ち溢れていた。そういう顔だった。


     ◇◆◇


 謁見の間からそれほど遠くない客間に、彼らは居た。

 その中に一人、甲冑ではなく白いワンピースを着た少女が居る。

 ――ヒナ・ラヴデルト・フリギア。帝国の第三皇女。

 彼女が指先に光を灯し、空中に魔法陣を描く。

 やがて、その魔法陣は何かを映し出す。


 そこに映っていたのは、年齢五〇歳くらいの男。荘厳な椅子に腰掛け、悠然と構えるその姿は見る者をすくませる。肌には年相応の老いが見られるが、肩幅が広く、体格がずっしりとしている。


 ――間違いなかった。否、見間違えるはずも無い。


『久しいな、娘よ』

 威厳に満ちた声だった。

『元気にしていたか?』

「私の記憶では、まだ一週間ほどしか外に出ておりませんが?」

『娘を心配する父が居て何が悪い。たった一週間。されど一週間だ』

「ありがとうございますお父様。しかし今は急ぎの用、戯れはまたという事で」

『ふむ、そうだな。では本題に映ろう。ルルフ、首尾はどうだ?』


 ルルフは深く頭を下げ、事の顛末を説明する。


『ほぉ、然様か。ならばこれで民も活気付くだろう。我を支持する民もおのずと増える』

「はい。予定通り、この映像通信の魔術を使い魔王の公開処刑を帝国の主要都市に放送します」

『よかろう、全ては順調。貴公にもなにか褒美をやらねばな』

「はっ!」

『貴公は何を望む?』


「恐れながら、ラヴデルト皇女殿下と婚姻の儀を果たしたいのですが」


「……」

『ほぉ、我が娘を娶りたいと申すか』

「恐れながら」

『…………。よかろう』

「真にございますか!」

『貴様の様な野心家、我は嫌いではない。ヒナ、そちはどうか?」


「……私は、いえ、異存はありません」

 

『そうか。では魔王の首を持ち帰った暁には国で結婚式を挙げようではないか』

「はっ!ありがたき幸せ」

『ではそろそろ公開処刑としよう。ルルフ、準備を』

「はっ!」




 誰も居なくなった、薄暗い客間で、ヒナはワンピースの裾を強く、きつく握る。


 ――強くなると、決めたはずなのに。


 自分はこんなにも、臆病で、脆弱で、固めた決意も呆気無く壊されて。


 心が苦しい。締め付けられるように、それに応じて涙が出そうになる。


 心が弱音を吐く。諦めろ、諦めろ、と。

 

『諦めるなよ。壊れたらまた固めれば良いだろう?』

 

 声が響いた。耳から伝わる、ではない。頭に直接響く声。

 しかも、ただの声じゃない。自分が救うと決めた、彼の声だ。


 慌てて周りを見るが、彼は居ない。


 幻聴だったのだろうか?自分はどれだけ弱いのか。

 裏切った相手に、救いを求めるなんて。


『別に良いんだ。裏切る事も、救いを求める事も、何がいけない?』

 

 今度ははっきりと聞いた。

 自分が救うと、愛を捧げると誓った、彼の声。

 

『その年で愛を捧げる決意までしちゃうのか〜。ヒナスゲェ』

 

 自分が誓った事だが、改めて人に言われると赤面してしまう。

「……一体何処に?」

 必死で探すが、彼はこの部屋に居ない。

『ここだよここ』

 頭に響く声、何故か、声の主の場所がわかった。

 ヒナは慌ててそちらを向く。

 そこには……。

『やっほ〜ヒナ』

 

 

 なんか物凄く可愛くデフォルメされた手のひらサイズの魔王、もとい秀兎が立っていた。



『……やっほ〜』

「…………」

『……お〜い?』


「……………………………めっさかぁいぃ……」

 ヒナは、呆然と呟いた。

イケメン、グフッ!うまく書けない……!

どうやら彼はヒナとエロエロしたいみたい。

でも次回やられます。

イケメン、残念ッ。

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