序終。そして彼は裏切られた。
5789文字だって。なげぇー!
遅くなってすみませんー!
あと、後書きも読んでください。
「へ〜。めちゃめちゃ綺麗じゃん」
と、秀兎は素直に驚いた。
《聖女》だった。
白と金で構成される、気品溢れるドレスを身に纏ったヒナはそれはもう綺麗だった。
そのくせお化粧までしているのだ。
《女神》にも見えた。
「はっはっは、私が本気を出せばこんなもんですよ」
とこれ見よがしに高笑い。
「うわっ自意識過剰だね〜」
ファウルは白のチャイナドレスのような物を着ていた。青い刺繍が目立つ。どこかの武闘家のような格好だ。
「うむ、さすが我が義妹だな。だがやはり私が一番だ」
そういう美烏も、白と金と赤で出来た法衣のような物を着ている。
「そういう唯我独尊な性格は一族伝来なんだな」
ミランの服は白と金と蒼で構成されていた。王族が着るような豪華で荘厳な服だ。
「ヒナさんもすっかり彼女たちに毒されてますね」
クスギは執事服。赤い刺繍がよくマッチしていて、モノクルをかけていた。
「…………あ、そうだ。今日莉鵡も来てるんだっけ?」
「ああ」
「んじゃヒナ。莉鵡に会って来てよ」
「え〜」
「顔を合わせてないのはまずいだろ?」
「……まぁ、それもそうですけどね……。私としては、もうちょっとこの姿を見せ付けたかったですけど……」
そう言ってヒナは客間を出て行った。
「……良いのかい?」
少し暗い声音で、クスギは言う。
「彼女は聞くべきなんじゃないかな?」
「いいさ。むしろ聞いたらややこしくなるだろう?」
「あの小娘はお前にぞっこんだからな」
「止めに入るだろうな」
「美しきかな夫婦愛、だね」
暗い表情だった。皆、暗い表情だった。
「……やっぱり、消しておこう」
悲しげな声。
「誰も傷つけないために?」
友の言葉が胸に刺さる。
「…………」
「それはただの自己満足だ」
「……別に、いいんじゃねぇかな。自己満足でも」
「…………」
「引きずっても辛いだけだし、どうせなら無かった事にしちまったほうが、幸せだと思うけどなぁ」
「しかし完全には無理だ」
姉は首を振る。
「どして?」
「本当の事柄は、魂に刻まれるものだからだ」
「…………。……そか。ま、表面上だけでもね」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
………………。
…………。
「……そんな目で見るなよ。俺が悲しい奴みたいじゃないか」
「実際、お前ほど悲しい奴は居ないだろう?」
「いっぱいいるさ、俺より悲しい奴なんて。この世界は悲しみで一杯なんだ」
「だからって、抗いもしないのか?」
「わかってる。だけど一番手っ取り早く、それでいて被害の少ない方法はそれ以外に無いんだろ?」
「まぁ、今のところは……」
「だったら今、すぐにでも決行するべきなんだ」
「…………」
友は言い返せない。
「それに、俺はあいつらを使うために城に集めたんじゃない」
客間の空気は、この上なく重苦しかった。
「それじゃあ始めようかね」
それでも魔王は精一杯楽しそうに言うのだ。
それでも不幸な魔王は、楽しそうに言うのだ。
自分が不幸になるにも関わらず……。
それでも、それだからこそ、魔王は……。
◇◆◇
「莉鵡さまですか?」
客間をでると萌黄に出くわした。丁度良い、一緒に探そう。
萌黄さんは耳に付いているインカムで莉鵡の所在を割り出そうとした。
「うん、うん、うん……オッケー、ありがと」
「どうでした?」
「中庭に居るようです」
「なるほど、それじゃあ行きましょう!」
二人は歩き出す。
◆◆◆
そして、彼女は会った。
夫の妹に。
紅蓮の髪に、鮮血の双眸。
艶やかな、紅色の振袖。
しかし彼女は大きかった。実の姉より大きかった。
普通に、中学生女子の体格だった。
中学一年生が、中学一年生の体格をしているのだ。
彼女は、黒宮莉鵡は、黒宮美烏の妹なのにも関わらず、普通の、年相応の風貌をしていた。
◆◆◆
「……莉鵡様」
口火を切ったのは萌黄だった。
「ん?あ、萌黄さん」
柔らかい表情だった。義姉や義母のような、厳しい表情とはまったく逆の顔だった。
「それと、ああ、貴方がヒナさん」
「はい。よろしくね莉鵡ちゃん」
よっかたー暴力的じゃなくて。というのは口にしない。
「へー。貴方が兄さんのお嫁さんですかー。すっごい綺麗ですねー」
「ありがとう莉鵡ちゃん」
柔和な笑顔だ。とてもあの家族の女の子とは思えない。
「莉鵡ちゃんも可愛いよ」
「ホントですかッ!?」
「うんホント」
「いやぁ〜今日は慣れない振袖を着て来たのでいまいち自信が無かったんですよ〜」
「え〜でも良く似合ってるよ〜」
「そういうヒナさんだって、かなりの美人じゃないですか」
「いやいやいや〜」
「私にはかないませんけどねッ!」
「色濃い血の関係を感じる――ッ!」
なにわともあれ、二人の関係は良好のようだった。
◇◆◇
「あ、兄さん!」
兄登場。
「お、莉鵡、なんだなんだ?今日はやけに気合は言ってるなー」
「どう?どう?可愛い?」
「ああ可愛いな〜」
「ふはははははー」
「ああホント姉ちゃんと違って莉鵡は良い子だなー」
美烏さんが聞いたらブチ切れる発言だった。
「もう話し合いは終わり?」
「ん、終わったぜ?」
「……えと、じゃあ、本当に?」
「うん」
「……私、部屋に戻ってるね」
「ああ、そうしろ」
何を話していたのかは聞き取れなかった。
けど莉鵡の表情は悲しげだった。
「さて……」
彼は、優しげな表情で、こちらを見る。
「中々の関係ですな」
「良い子じゃないですか莉鵡ちゃん」
「俺の教育の賜物だ」
とそこで、彼が周りを見る。
私も、かなり広い、この中庭庭園を見回してみる。
誰も居ないのだ。
この中庭に、私たち以外誰も居ないのだ。
こうも広い中庭に二人しか居ないと、まるで世界で二人だけになってしまった様な錯覚に陥ってしまう。
とそこで抱き締められる。
「……ッ!」
驚いた。
驚いて、周りをきょろきょろ見回して、で、誰も居ない事を確認してしまった。
「い、いいい一体ど、どどっどどどどうしたんですか?」
「落ち着けー。ていうかキョドり過ぎ」
「い、いやでも……!」
彼が抱き締めるのをやめる。
温もりが消える。
「いや、なんかこうやって密着する機会もなかったなーっと思って」
「い、イヤらしいですよッ!」
「なんだよもー、いつもやってってせがむのヒナじゃんかー」
「そ、そりゃそうですけど……」
また抱き締められる。
今度はぎゅっと、強く抱き締められる。
「だったらいいじゃんか」
「ま、まぁいいですけどね」
抱き締め返した。
「…………」
温かい。
気持ちの良い温かさが伝わってくる。
気持ちの良い鼓動が伝わってくる。
「……なぁヒナ」
「はい?」
見上げると、彼は優しげな表情で。
「もし、俺がさ」
「…………」
「もしも俺とお前が、もう二度と会えなくなったら、お前、どうする?」
「…………」
不意打ちだった。
「な、何を言って……」
「もしだ。もしも二度と会えなくなったらお前は、俺の事を忘れて生きていけるのか?」
「そ、そんなの出来ませんよ!ていうか、二度と会えなくなるなんて無いですから!私、何処へでもついていきますから!」
「…………」
でもその答えに、彼は優しげに、いや悲しげに、微笑むだけだった。
そんな顔をしていた。
でもそれではまるで、これから本当に会えなくなるみたいじゃないか。
それが本当に起こってしまうみたいではないか。
「だ、大丈夫ですよね?もう会えなくなるなんて、無いですよね……?」
「……ああ、大丈夫。大丈夫だ…………」
でもその大丈夫に、まったく安心は感じられなかった。
抱きつく。
彼に、ぎゅっと、何処にも行ってしまわないように、抱きつく。
「…………」
「何処にも行かないでくださいよ……!私を、置いていかないでくださいよ……!」
「…………」
答えは、返ってこない。
「嘘ですよねッ!そんなの、あるわけないですよね!」
答えは返ってこない。
「…………」
「勝手過ぎます!なんですか!どういう事ですか!」
しかしそこで突然、彼は話し出した。
「……俺の身体には、《闇》が宿ってる」
「一体何を……」
「ただの《闇》じゃない。《全ての『闇』を統べる権利と力と資格》が、俺の中に宿ってる
つまり、全ての『闇』が俺の支配下。逆を言えば俺が《闇》を宿していない限り、『闇』は好き勝手に暴れだすんだ」
「…………」
黙って聞くしかなかった。
「闇っていうのは厄介でさ、居るべき場所に居ないだけで、有るべき場所に無いだけで周りに害が出ちまうんだ。
俺にはその《闇》を封印する術式がかかってた。
強すぎる《闇》は世界を滅ぼしちゃうから、母さんが封印してくれてたんだ。
でも、その封印が解けかけてるんだ。
おかげで世界中で《不幸》が起こり出した。
少なからず、飢餓や不作、貧困や、ついには戦争までもが《闇》によって誘発されてる。
だから……」
もう、解ってしまった。
だけど、だからこそ、言ってほしくなかった。聞きたくなかった。
「《闇》が宿る俺は、《封印》される事になったわ」
当たっていた。完全に、当たっていた。
そしてそれはまるで、「赤点採っちゃったから追試受けるわ」みたいな、「負けて罰ゲーム受ける事になったわ」みたいな、そんな軽い言動で。
「そんな、そんなの…………」
「でも、あれだぜ?二度とってのは大袈裟だけなんだぜ?ある程度したら封印が解かれるみたいだぜ?」
「! それはいつなんですか!?」
「えと……、ごめん」
「そんな…………」
彼女の顔が蒼ざめる。
「だから、《約束》しようぜ?」
「《約束》……?」
『約束』という言葉に、ズキッと胸が痛む。
「いつかまた、会えたなら…………」
とそこで肩を強く押される。引き離される。慌てて体勢を立て直す。
「まっ…………!」
そこで見てしまった。
血を。
彼の血を。
深く、暗く、禍々しいその……。
真っ黒な血を。
「あ〜あ、もっとゆっくりできないのかな〜」
いな、それよりも。
彼女は見た。
魔王に。
魔王の心臓の辺りから細長い剣が飛び出している光景を。
そして。
彼の後ろにいた人間を見て。
もう何も言えなかった。
「…………」
「ゆっくりなんてしてられないでは?魔王様」
薄紫の髪の少女は、
『エレア・フォーミュレンス・アルブレア』は、そう言った。
「カルカローネ・リパダルカ」
小声で、何故かはっきりと聞こえる小声で。
言葉の終わりと共に、彼の足元に、巨大な渦が現れる。エレアは素早くその場を離れた。
真っ黒な渦が、彼の下に現れる。
そこから鎖が伸び、彼に巻き付く。
ゆっくりと、彼に巻きついていく。
「うぇもうお別れかよー」
けれども彼は優しく楽しげに。
「残念だなーもうちょっと一緒にいたかったけどなー」
そして彼の身体が沈み始める。
「あ、そうそう《約束》。なぁヒナ、またいつか会えたならさ……」
「…………」
それは、果たされる事の無い約束。
「そんときゃ、…………。……うんまぁ色々するんで覚悟しとけ!」
ヒナは。
「……ぷっ、約束というより悪役の捨て台詞みたいです…………」
ヒナは笑う。泣きながら笑う。
「《約束》ですよ」
涙を流しながら、透明な涙を流しながら、笑いながら、言う。
「ああ、《約束》だ」
でも、それは……。
「あ、そうだ。ヒナ」
「はい?」
そして彼は最後に、最後の最後にこう言った。
「もう泣くなよ」
その言葉には、沢山の意味を詰めこんだ。
それを彼女が理解するかどうかは解らないけど、でも彼女には泣いて欲しくないのだ。
だからその言葉には沢山の意味を込めた。
どうかこの言葉が、彼女の魂に刻まれるのを祈るばかりだ……。
そして魔王は封印されてしまった。
《闇》と一緒に、封印されてしまった。
牢獄へ。
あの《牢獄》へ。
これが平和への第一歩。
可哀想な魔王。
悲しい魔王。
不幸な魔王。
世界の悪を押し付けられて、友に裏切られ、家族に裏切られ、大切な人達を置いて、平和の為に彼は闇の中へと沈んでいった。
そして誰も彼の事を知らなくなる。
彼がいなかった事になる。
存在が消える。
でも良いのだ。
だって彼は、自分より自分の好きな人を優先するから。
自己犠牲の固まりでも、それでも頑張って自分の大切な人を護りたいから。
だから良いのだ。
自分の所為で大切な人が傷付くなら、喜んでこの身を捧げようじゃないか。
だから、たとえ裏切られても、別に良いのだ。
幸せだった。
幸せすぎた。
大切な人が、たくさん周りにいて、幸せすぎた。
でも少しだけ、後悔、というか未練があった。
もう少し、あの場所にいたかった。
皆にちゃんと説明して、「ありがとう」と伝えたかった。
彼女に、言いたい事があった。
「好きだ」と、ちゃんと伝えたかった。
でも、もう一度会っても、彼女は自分の事は覚えていないだろう。
そういう呪いがかかるから。
自分の記憶を世界から失くす呪いが、かかるから。
そして自分は牢獄へ。
誰も来ない牢獄へ。
魔王は、堕ちていった。
はーい終了ー。第一部終了でーす。
長かったですねー第一部。序章も長かったけど!
正直言ってかなり滅茶苦茶になってしまった…(汗)
ストーリーとか、伏線張りまくって内容がヤバイし、コメディとか全然入ってないし、きっと何処かに矛盾点がいくつも…(大汗)
まぁその修正は後ほど。
さて、改めまして。
不幸魔王と勇者嫁は一部完結です。
新しく【真】不幸魔王と勇者嫁(仮)になりまーす。
今まで読んでくれた皆様、ありがとー!
そして【真】の方も読んでくださーい!
ちゃんと書くよー!プロットとかやっちゃうよー!
ってまだプロットも何にも書いてませんけどね(笑)!