序終。会合と聖女と呪いのドレス。
誤字、脱字、おかしな文章はみつけし(略)
今日は珍しく、魔王城に来客があるらしい。
魔王の妻として、来客に顔を出すのは当然の事。
ヒナは萌黄と共に化粧室にいた。
「今日はどうな物にしましょうか?」
「そうですね〜……」
萌黄は黒と白のメイド服だ。『見世物用』のような露出度の高い物ではなく、正真正銘のメイド服。
妹である紅葉がデザイン。様式美と機能性を追及した一流の仕立て屋もビックリな名品である。
「これなんかどうでしょう?」
萌黄がクローゼットから取り出したのは白を基調としたドレス。
汚れ一つ無い真っ白なドレス。金色の刺繍や装飾が施され、腰には真っ白な薔薇の造花が付けられていた。
なんていうか、高価なティーカップのようなドレスだ。
「これならヒナちゃんが着ても差し支えなさそうですね」
「これ、ある程度の魔術が施されてますね」
「これは先代魔王妃様、レイア様がオーダーメイドした物なんです」
「……?なんで白……?」
あの人は黒を好んで着る筈だが……。
「まぁひとまず置いておいて。ではこの魔術はお義母様が?」
「そうみたいです」
どんな術なのだろうか?
「魔力の感じからして、かなり複雑な術式みたいですね」
見えはしないが、かなり複雑に描かれた魔力の線は、ある程度修行した人間なら感じ取る事が出来る。
「術式はともかく、このドレス、なんでも生地は神霊獣である『白凰』の鶏冠毛を使って編まれた物らしいですよ」
「『白凰』!?」
といえば、生息地不明、臆病、しかし一度怒り出すと光線――光学系の広域魔法(?)――でそこらじゅうを攻撃する凶暴性を持つ、そうそう簡単には捕まえる事の出来ない伝説級の神霊獣だ。
「他にも、その腰にある造花は『白凰』の羽毛で一番柔らかいとされる胸毛を使っており、金の刺繍や装飾は超高純度の金で造られてます」
「なんていうか、贅沢の極みですね……!」
「レイア様の性格を考えれば当然の事ですよ」
確かに、あんな性格なのだから体面も気にするだろう。しかし……、
「いくらなんでも、これはやり過ぎじゃないでしょうか……」
まぁ、ここはありがたく使わせてもらう事にした。
いざ着ると少しきつい様な気もしたが、すぐに気にならなくなった。
ていうか、服のサイズが変化した。
「なるほど、こんな魔術が仕込んであったんですか」
「ほぇ〜、さすがお義母様」
普通、ドレスのスカートにはブワッと広げる為のワイヤーを入れるのだが、そこも魔術で自由自在らしい。
真っ白な――当然白凰の鶏冠毛製――手袋と腿まであるロングブーツを履く。
そして、立ち鏡を見る。
「すごい……」
思わず萌黄が呟いた。
実際、自分の姿を見て私も、生唾を飲んだ。
そこに居る少女を、自分と疑ってしまうほどだった。
光を反射する、まるで本当に金で出来ている様な、艶やかで濃い金髪。
細い、しなやかな肢体に、美しい、キメ細かい肌。
慈悲に満ちた、丸く優しげな目付き。蒼海を湛えた瞳、長い、金の睫毛。
可愛らしい様で、それでいて大人びた、不思議な美貌。
金髪金眉、蒼海の瞳の少女。いや、それはまるで伝説の《聖女》だ。
まるで服が自分の美を底上げしてくれている様な、そんな感じだった。
「普段から可愛いとは思ってたけど、まさかここまで綺麗になるとは……」
萌黄は地の口調になっていた。
「ええ、自分でもビックリです……」
「化粧、する?」
「…………ええ、折角だから、しておきましょうか……」
化粧をしなくても綺麗なのに、化粧をしたらどうなるのか……。
「あれ、ヒナちゃんいつ口紅を……ていうか、一通りのお化粧は済んでるみたい……」
「え?」
慌てて確認すると、本当だった。自分はお化粧していた。
淡いピンクの口紅に、頬にはおしろいをはたいていた。キメ細かい肌がより一層綺麗になっている。
「これも魔術ですかね……」
「なんか魔術って、なんでもありだね……」
最終的に、二人は至れりつくせりなドレスに戦慄した…………。
「あれ!?これ脱げなくなった!」
しかも呪い付きだった………。
◇◆◇
「……帰って良いですか?」
客間に入って一言目がそれだった。
魔王城の中でも特に豪華な客間に入って、そこにいた人物たちを見て、魔王はそう言った。
「なんだ、もう逃げるのか?この逃げ腰王子め!」
「一応言っておくけどこの会合にはお前の参加が必要不可欠だぞ?」
「分かってるのかねぇーそこんところ」
「まぁまぁ、秀兎はギガチキンだからさ。多少の戯言は無視して上げなよ」
「……なんか、色々ツッコミたかったけど…………。うん、なんかめんどくさいからいいや」
黒宮美烏。
ミラン・アルノアード。
クスギ・アルトレッド・ノア。
ファウル・クリークス。
……何かが、始まろうとしていた。