憐れで寂しく愚かな女神の物語。
誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。
それはもう、遠い遠い記憶。
私がまだ何も知らない、いや別に今が何でも知っていると言う訳じゃないけれど、それでもまだ、世界の醜い部分も、綺麗な部分も、何もかも知らなかった頃の記憶だ。
その頃の私は、まるでお人形のように、宝石のように、大切に扱われていた。
礼儀作法を身につけ、知識を吸収し、毎日のように開かれるパーティーで格好良く着飾った同い年の男の子とダンスを踊り、楽しくも無いお話をし…………そんな毎日。
そんな私はお伽噺が好きだった。
世界を救う《勇者》や《光の騎士》、《光の女神》の伝説。
世界を壊す《魔王》や《闇の騎士》、《闇の女神》の伝説。
私は、毎日自由な時間になると王立図書館に赴き、そんな伝説の話を自分で読んでいた。
帝国フリギアは世界最大の軍事国家。
その国の王立図書館には、もちろん世界中のお伽噺や伝説が集められる。
要するに私は、世界中の伝説が溢れ帰る泉の、その住人。ただの空想好きの少女だった。
妄想好きとも言っていい。
他人に好意を抱けず、感情を抱けなかった、心の壊れたお人形。
図書館だけが、私の安息の場所だった。
そんな、壊れたお人形のような頃の記憶だ。
私は見た。
私は読んだ。
それは《魔神》の、《孤独な魔女》の、《寂しがりの少女》の、
《孤独で憐れで寂しく愚かで不憫で不幸な女神》の物語。
◇◇◇
昔、昔、人間がまだ弓や槍や剣で争っていた世界がありました。
その世界の、一番大きな国の王は、偉大で、尊大で、とても優しい王でした。
王は《 》を行使し、世界を平和に導きました。
世界は平和になりました。
やがて、王の子供が生まれました。
王の子は誰もが《 》でした。
そして世界は、《幸福》に包まれました。
しかし、そんな《幸福》を享受できない、《不幸》な少女がいました。
彼女はいつも一人。
誰にも声をかける事が出来ない、孤独の城で、たった一人。
彼女は元々、女神様でした。
それはそれは美しい、女神様でした。
しかし、彼女は堕ちてしまいました。
神の、世界の《 》に触れ、犯され、穢され、そして幽閉されました。
《 》が昇る、孤独の城に、閉じ込められてしまいました。
誰も居ない、孤独の城で。
誰も来ない、孤独の城で。
女神は、少女は泣き叫びました。
――殺して欲しい。
――死にそうだ。
――寂しくて死にそうだ。
――愛も、友情も、何もかもが無いこの城が嫌だ。
――自分を閉じ込めた神が憎い。
ずっと、ずっと叫びました。
手足がボロボロになるまで暴れました。
しかし。
いくら叫んでも喉は潰れません。
いくら暴れても死にません。
彼女には《 》がかかっていたのです。
――《不死の 》。
彼女は死にません。
愛してくれる人が来るまで死にません。
愛してくれる人が来るまで死ねません。
彼女は、悲しすぎるくらいに《 》な少女でした。
しかし転機が訪れます。
孤独の城に、一人の《 》が迷い込みました。
《 》はここが何処だかわかりません。
少女はしめたと思いました。
少女は《 》を誘惑し、篭絡し、魅了しました。
少女の虜になった《 》は、彼女を愛します。
少女は自分を愛してくれる《 》に全てを与えます。
《 》を、《 》を、力を、《思い》を託します。
そして、《 》は《王》になります。
少女は死にました。やっとの思いで死にました。
少女を愛した《王》は悲しみ、そして憎みます。
空を。
神を。
少女を殺した神々を。
殺してやる。殺してやる。殺してやる。
そして、《王》は《 》を殺します。
そして、《神の力》は無くなります。
《 》は混乱します。
《王》は世界を闇で覆います。
《 》のありとあらゆる物が激怒し、憤怒し、枯渇し、死に絶えます。
そして、《 》が終わります。
全てが《 》に包まれます。
地は喰われ空は覆われます。
そして、
そして《世界》はシにました。
◇◇◇
「っ!」
と、そこで目が覚める。
隣りでは緩やかな寝息をたてている少年の姿。
「…………」
……どんな夢を見ていたのかを、忘れてしまった。
大切な、記憶だったはずなのに。
どんな記憶だったのか、まったく思い出せなくなってしまった。
「…………」
前にも、似たような事があった。
あの時は冗談半分で言ったつもりだが。
これは、本格的に自分には何かあるようだ。
でも、なんだ?
「…………」
ちょっとだけ、あせる。
自分の中の、《何か》にあせる。
「…………」
でもそこでふと隣を見てみる。
気持ち良さそーに、ぐでーっと、よだれだららで眠っている、少年を見る。
自分が、好きになった、少年。
鈍く、艶やかとはいえない程暗い、真っ黒な髪。
自分は、この少年が好きだ。
この、気怠げな、自分の興味の無い事には徹底的に無関心な彼が、好きだ。
この寝顔を見るだけで、胸が、温かくなる。
ちょっとあせっていた心が、落ち着く。
「…………」
考えるのは止めて、寝る事にする。
彼の隣りで、寝る事にする。
ヒナはそっと、彼に寄り添うように横になった。
57話だとぅ!?
ち、近いぜ!
何かはいえないぜ!