最終治療/彼女は光。
誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。
治療プログラム、Ver.ヒナ
「…………………………………………………」
◇治療法その壱、『まずは防寒対策の為の汗拭き』
魔王は、秀兎は戦慄していた。
これまでの治療は酷かった。荒療治なんて物じゃない。治療の看板を掲げながら、どう考えても病状の悪化を狙っていた。
しかしこれはどういう事だろう?
自分はもう意識も掠れ、ぶっ倒れる寸前の所でヒナが用意していたベッドに連れてきてくれて、
そして俺は今、上半身裸で汗を拭いてもらっている。
罠か?なにかの罠か、それとも下ごしらえか?
なんにせよ、油断は出来ない状況だった。
「な、なぁ?」
しかし……、
油断できず常に緊張している所為もあるが、なによりさっきまで汗だくの状態だったのだ。ちょっと臭うかもしれないと思うと、かなり恥かしい。
魔王も異性に「臭い」と言われるとかなり傷付くお年頃。
寝癖は気にならずとも体臭は気になってしまうのだ。
「はい?」
「俺、今すげぇくせぇから、そんな事しなくてもいいんだぜ?」
すると、ヒナはきょとんとした顔で
「何いってるんですか、汗は放って置くと体温を奪うんですよ。身体を冷やすのはあまり良くありません」
「いや、でも……」
「それに、私別に臭いとは思いませんよ。なにより大好きな秀兎さんの匂いです。けっこーそそります」
なんて事を、真面目に言ってきたりして。
そんなヒナに、秀兎は少し呆れ気味に
「お前、たまに変態発言するよな」
「だって、好きな人の私物って嗅ぎたくなりません?」
秀兎は男だから、その気持ちは、少し解る。何でだろうか?まぁ今それを考えて答えが出るほど自分は頭が良くないから、どうでもいいのだが。
「へぇ、女の子も、そういう風に思ったりするんだ?」
「さぁ?私、普通じゃないですし」
そう言って、ヒナは汗を拭いたタオルに顔をうずめる。
なんか、そういうのを目の前でやられると、すげぇ恥かしい。
「ぷはぁ、ん〜臭いけど良い匂い」
「意味不明だ」
「秀兎さんの汗だから、臭いけど好きな匂い」
頬を赤く染めて、はにかむ。
その笑顔はすごく可愛くて、もうホントに、モテモテになるのもわかるなぁってくらい可愛くて、思わず触りたくなる。
でも、やっぱりやめた。
◇治療法その弐『胃腸に優しいお粥な食事』
目の前には漆塗りの盆。盆の上には漆塗りの椀と漆塗りの箸、少量のお新香類が乗った小さな皿に塩が入った瓶。椀の中にはお粥が入っていた。
「…………」
たしか、彼女は家事が苦手で、食事すらまともに出来ないはずで……。
「萌黄さんからよく料理を教わってるんです。魔王の妻が料理するのも変ですけど、でも私としては手料理を食べて笑ってくれた方が嬉しいので」
「…………」
「はい、あーん」
おそるおそる、お粥を食べる。
そして、
「…………」
「あ、あのどうですふぇ!?」
そして秀兎は、泣いた。
もう、涙が止まらなかった。
「ど、どどどどうしたんですかー!?」
「ヒナ、お前、マジでいい奴だな」
「な、何が?」
「いやさぁ〜、ホント、ゴメン。なんかゴメン」
疑っていた自分が後ろめたい。
「うん、おいしい」
「本当ですか!よかったぁ〜」
◇治療法その参『絶対安眠』
「…………」
もう、なんか、ホント……。
「あー一度はこうして膝枕してみたかったんですよねー」
「いや、別に膝枕する必要もない気がするけどねー」
「いーじゃないですかー。こうして好きな人と話すのは結構憧れていたんですから」
「まー、うん。ヒナが良いならいいけどね」
でも、ちょっと恥かしい。
別に誰がいる訳でもないけれど。
それでもこういう体勢は、一般の青少年には、照れるようなシチュエーションだった。
「…………」
「…………」
お互いの距離が近い。
手を伸ばせば、届く距離だ。
秀兎は顔を上げ、ヒナの顔を見る。
すると、ヒナと目が合う。
ヒナは、こちらを愛おしそうな目で見つめてきちゃったりして。
ちょっと、ドキドキする。
真っ白な肌に手を伸ばす。
「………にょ?」
なんて事を、ヒナが言う。
秀兎は、ゆっくりとした動作で、彼女の頬に触れてみようと手を伸ばす。
でも、やっぱり、触れようか触れまいか、迷う。
しかしヒナは、秀兎の手に自分の頬を押し付けて、笑う。
「こうして密着する機会って、あんまりありませんでしたね」
「……そうだなー」
「いつも、秀兎さんの周りにはシャリーさんや、エルデリカさんや、紅葉ちゃんが居て、でもたまにデートにも行きましたっけ」
「いったなぁー。まぁ全然デートって雰囲気じゃなかったけど」
「あの時は純粋に楽しい気持ちが先行しちゃって」
「観覧車の時は俺、超ビビッてた。いつ落っこちるかわかんなくてさー」
「そうですねー。あの時は物凄い不幸の連続でしたもんね」
思い出すと身震いする。
「でも、なんか、今すげぇー落ち着いてる感があるわー」
「私もです。なんか、私の周りの時間がゆっくりになっている、みたいな?」
「そうそうそれそれ。不思議な安心感っつーか、なんていうんだろね?こういうの」
「さぁ?でも私、ふわふわして、幸せな気分ですよ」
「幸せ、か……」
秀兎は今自分がどんな顔をしているかわからないけど、それでも、ヒナの顔を、鮮やかな蒼の瞳を見詰める。
こんな、可愛くて綺麗な少女と一緒に夫婦になれて、きっと普通の少年なら喜びまくるだろう。
―キスも済んでるし?
―次に進んでもいいんじゃね?
―次っていったら、あれだよね?
―あれしかないっしょ?
―自分が望めば、彼女は喜んで答えてくれるんじゃないか?
なんて考えまで浮かんで、でも、それは、なんとなく、あー、めんどくせぇというか、なんていうか、あーもううまく言えねぇけど……。
やってはいけないような気がする。
大切だから?もう、失いたくないから?
誰だってそうじゃないか?一線を越えるのは、怖いんじゃないのか?
一線を越えようとして、失敗して。
もう、同じ状況に、環境に、関係に、戻れないんじゃないか?それは嫌じゃないか?
しかし秀兎が思っているのはそういう問題ではなく。
なんていうか、こう…………………。
自分に歯止めが利かなくなりそうなのだ。
自分に、性欲やら、独占欲やら、支配欲やら、そんな欲望なんて無いと思っていたけれど。
でも多分、この身体のどこかに潜んでいるんじゃないか。
実は身体の奥で息を潜めて、溜まりに溜まっているんじゃないか。
彼女に求めて、自分の、身体の奥に渦巻く欲望が、暴走しそうで、理性というダムが決壊しそうで、
本当の、化物になってしまいそうで、
結局の所、それが、とてつもなく怖かった。
「秀兎さん、好きです」
愛らしい彼女の笑顔。
世界最大の軍事国家の、第三皇女の、もう、美の女神ですか?ってくらいな美姫の、笑み。
眩しい。眩し過ぎる。
マジスティアの第二皇太子、――たしか、名前はクジュエゼル――が好きになるのも。
マジスティアの貴族留学生にして、類稀なる才能に恵まれてるであろう、ミランが好きになるのも。
学園の皆が夢中になるのも。
すごく解る。
彼女は、《光の姫君》だ。
呪いとか、そんな事は関係なく、性格や、心が、存在が、《光》の様に眩しいのだ。
しかし、秀兎はとある疑問に直面する。
――何故?
何故彼女はこんな、こんな世界の憎まれ役に、世界の汚点の所に来たのだろうか?
もちろん、俺が絶世の美男子であるわけではない。
はっきり言って、ふつーの、普通に高校生活を送ればなーんにも目立たない、ただのガキ。
何故来たのだろうか?
それに対する答えは、彼女の心の中にある。
「私は秀兎さんが好きです」
彼女は優しく彼の髪を撫でる。
「やる気が無くて、だらんとしてて、ふらふらーっとしてて、もうまるで、世界の事情なんか知らないよーんみたな雰囲気が好きです」
「……ってそんなに俺だらだらしてた?」
「ええ、いつもですよ。いつも眠そうで、授業は必ず寝るし、相手が本気なのに貴方は全然やる気が無さそうで、でも貴方は強かった」
「…………」
「相手がどんなに強くても、貴方は知略で、技術で、実力で、相手をねじ伏せて」
「…………」
「なおかつ優しい」
「…………」
「絶対に相手を殺さない」
「…………」
「貴方は底なしに優しい」
「…………」
「私は、そんな貴方が、好きです」
「……なんか、そうやって真正面から言われると、すげぇええええ恥いな〜」
そう言うと、ヒナは顔を赤くして、
「私だって恥かしいですよ!そういう秀兎さんはどうなんですかー!」
「へ?俺?」
思わぬカウンター。
「そうですよー!私ばっかり好き好き言って、不公平です!」
「えぇっと、そのね、うぅ、やべぇ……」
「どうなんですかー?」
そ、そりゃあね?もちろん……。
「う、うんもちろん。もちろん俺はヒナが好きだよ?」
「なーんですかそのはっきりしない言い方はー?」
「だって恥かしいし!好きって言うの恥かしいし!」
「はっきり言えー!」
こうして、無事全ての治療プログラムは終了し、秀兎は元気になりました。
「って全然無事じゃなかったけどね!」
なんか、すげぇぇ速度だ……(驚)
実際この話書くのに一時間かかってません(驚)