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禁断の井戸と魔物。

誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。

 

 ――魔王だ魔王だ。新しい魔王だ。


 ――来るぞ、新しい魔王だ。

 

 ――新しい魔王が、愚直で愚鈍な魔術師と騎士を連れてくるぞ。


 ――姫様の気配。ああ姫様。


 ――我らの姫を奪った魔王。奪った奪った。


 ――殺さないと。殺さないと殺さないと。


 ――殺して姫様を救い出すんだ。

 

 ――そうだそうだ……。


 そこは、この世で最も愚かな者たちが巣食うという…………




 ◇◆◇




 井戸。

 魔王城の一角に、固く何重にも封印術式が施された扉の、その奥にある、古ぼけた井戸。

 それは、入ってはならない禁断の井戸。

 入っても出ては来られないと言う、恐ろしい井戸。

 

 そんな井戸を覗いて。


「……そんな恐ろしいもんかね?」


 魔王はそう言った。

 井戸は底が見えない。

 《闇》のおかげで夜目が人一倍鋭い魔王にも、その井戸の奥は見えない。

 

 魔王がするべき事はただ一つ。


 ここに飛び込み、黒輝岩ヤミヨを回収する事。

 なんでもこの井戸は、黒輝岩の豊富な坑道に繋がっているらしい。

 

 しかし何故、魔王である彼が採りに行かなければならないのかと言うと……。


 紅葉が黒輝岩の研究を本格的に始めたのだ。

 それで黒輝岩を欲しいとねだるのだが、黒輝岩は産出量が極端に少ないのだ。そんなに簡単に手に入るものではない。


 しかしそこで魔女の助言だ。


 曰く、魔王城の禁室にある井戸は、黒輝岩の含有量が豊富な洞窟になっている。

 

 で、ぶっちゃけた話、洞窟には《魔物》と言う種族が巣食っているから彼くらい強くないと全然進めな〜い。という事らしい。

 

「ていうか魔物って何よ?」


 そんな疑問に答えるのは、魔王城魔術師団団長にして魔王の側近、シャリーだ。


「古文書なんかを漁ってみると、どれも同じです。曰く『世界中の罪人の成れの果て』だそうです」


 それに相槌を打つのは魔王城騎士団団長にして魔王の側近2、エルデリカ。

 

「つまり元人間、って事か?」

「そうですね。まぁどちらにせよ襲い掛かってきたら殺すだけですが」

「あのなー、十中八九襲ってくるに決まってるだろ?魔物なんて、聞いただけで理性が無さそうじゃねぇか」

「ふむ、そうだな。魔王の道に魔物の屍、か。中々絵になる光景だ」

「タイトルは『弱肉強食』、ですかね?」

「『魔王降臨』の方が格好良くね?」

「ベタ過ぎませんか?」

「『死屍の花道』がいいと私は思うが?」

「ってあーもう何でもいいから行くぞ。めんどくせぇけど紅葉が泣いたらもっとめんどくせぇから、速く採って速く帰って来よう」


 そんな感じで、彼らは井戸に飛び込んだ……。



 

 ◇◆◇




 第一感想。


「くっさ!まじクサ!げぇぇなんだこの匂い!?」

「うぅ、スゴイ臭い……」

「こ、これは確かに……」


 鼻をつまむ。

 そうしなければならないほどの異臭。というよりも、腐臭。



 第二感想。


「…………」

「…………」

「…………」


 もう涙が出そうだった。

 ちょっとした夢に、現実を突きつけられた。



「「「「「「ヴァ〜、ヴァ〜、ヴァ〜」」」」」」



 あたり一面ゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビゾンビッ!!


 ゾンビが道を塞いでいる。ゾンビの群れが、こちらにやってくる。

 そりゃね!ゾンビだからね!死体だから臭いでしょうよ!

 でもさ、あれ?ゲームの人達ってゾンビと戦っても臭いとかいわねぇな、じゃあゾンビ臭くないの?とか思うわけよ!


 しかし現実は甘くなかった。


「くせぇ……」


 激臭、腐臭、死臭。表現は何だっていい。とにかく鼻が痛くて目も痛いのだ。それ位に強烈。

 

 シャリーは、ボサボサ頭の黒髪の間から見える大きな瞳を潤ませながらエルデリカに向けて、

 

「あの、すいません。こいつらもうホント無償にムカつくんで、私が殺してもいいですか?」


「ん、任せる。さすがにこういう奴らは剣の錆びにしたくないからな」


「じゃ、すいませ〜ん」


 といって魔法陣を描き出す。


「お?なんで魔法陣描いてんの?」


 シャリーなら描かずとも瞬時に構成出来るはずだが……。


「いや何となく。なんかもう臭いとか醜いとかそこらへんの感情をぶつけようかと思いまして」


 そんな感じで魔法陣が完成した。複雑な文字と模様で構成された魔法陣の色は紅色。


「紅蓮に染まった煉獄地獄れんごくじごく蛇炎へびほのお。炎は壁、炎は波……」


 ――魔法展開や発動に必要な物は魔力と魔法陣と想像イメージだ。

 そして、その魔法をより強力にする物が『呪文』。

 もちろん魔法陣を複雑に描き、より鮮明な想像をし、濃密な魔力を注ぎ込めばより多くの成分を収束させる。

 しかし『呪文』、すなわち『言葉』を使うとそれらが飛躍的に上昇する。


 叫ぶ事で身体に力が入る、という事を聞いた事は無いだろうか?


 魔法の呪文詠唱はそれと同じで、唱える事でより鮮明に想像し、自然と魔力が魔法陣に注ぎ込まれるのだ。

 まぁ呪文には他にも『言霊』なんて言うややこしい仕組みがあるのだが、今説明する必要も無いだろう。

 

「焼き尽くせ、《炎幕津ひなみ》」


 シャリーの魔法陣から、大量の炎が飛び出し、踊り狂う。


 炎の壁がゾンビたちを焼き尽くす。


 摂氏八〇〇℃の業火の津波がゾンビたちを呑み込み、灰にしていく。



 ちなみに、魔法攻撃用の魔法陣には敵にしか効かないという《術式》を組み込む事が基本的に義務化されている。


 ――魔法攻撃は『対象物』以外に干渉する事ができない。


 つまり、例えば炎系魔法の炎がどれだけ熱かろうが、密閉された室内で温度が上る事はないし、味方に当たっても怪我はない。

 

 

 業火が、消える。



 死臭すらも消してしまった業火が消える。


「はぁ〜すっきり!」

「ん〜でもやっぱりまだ臭い」

「むぅ、速く黒輝岩を採って帰りましょう陛下。なんだか鼻の奥が痛い」

「うし、んじゃさっさと行くぜ〜」





 目付きが悪い巨人が現れた。多分オークとか言う奴だ。斧持ってるし。


「めんどい」

「無理です」

「邪魔だ。不可視の十剣ピュッツェルビース


 ズバンッ!とエルデリカが手を包むように出現した銅色の光の剣を横振るう。

 剣はオークを斬らない。真空の刃がオークを斬る。

 しかしそれは一振りにして十の斬撃。

 哀れオーク。一瞬にして輪切りステーキに。

 

「うぇ〜すげぇ〜」

「さすがとしか言いようがないですね」

「さぁ行きましょう」

 

 



 ぷるぷるスライムが現れた。かなりデカイ。キングスライムと言う奴か。


「これ斬ると分裂するらしいですよ」

「では私は無理だ」

「じゃあ、俺やるから……」


 スライムの前に闇色の壁が現れて、ゆっくりとスライムに覆い被さる。

 すると、最初はスライムのいた部分が膨らんでいたのに、それがみるみる小さくなっていき、やがてペシャンコになる。

 哀れスライム。魔王の糧になってしまった。


「ごちそうさまでした」

「えげぇつねぇ〜」

「まさに魔王の所業ですね陛下」


 





 なんとまぁのんびりでお気楽で最強なパーティーなのだろうか……。

 とにかくそんな最強パーティーはどんどん魔物をぶっ潰して行った。







 さて、かなり進んでみたのだが。

 とりあえず行き止まった。


「う〜ん、行き止まり〜」


 しかし幸運なのか。そこには……、


「……ていうか、これが黒輝岩ですか?少し大きい気がしますけど……」


 そういってシャリーが指差すのは、バスケットボール級に大きい黒輝岩ヤミヨ

 見た限り、艶々としていて純度も高そうで。

 普通の黒輝岩、いな鉱石類でもここまで大きいのは珍しい。

 

「とりあえず」


 シャリーは複雑な魔法陣を描き出す。転移用の魔法陣だ。


「これで帰りは楽ですね」

「おけ」


 秀兎は採掘用のピッケルを振りかぶり


「んじゃいくぜ〜。せーのっ!」


 

 ガツンッという、心地良い音。

 


「うし、……」


 ぐいっと、てこの原理を利用して黒い塊を……。







 しかし、そこで緊急事態が発生した。







 ブシャァッ!と勢い良く水が溢れ出したではないか。


「えぇぇぇ!?」


 まずいくらいに勢いが強い、このまま行けば流されてしまうかもしれない。

 急いで振り返りシャリーの魔法陣の中に飛び込もうとすると……




「ってもういねぇぇぇぇぇ!!」


 


 しかしすでに水の勢いはやばい感じになっており…………。


「ぎゃぁぁぁああああああああああああがぼがぼぁッ!!!!!」


 哀れな魔王。やっぱり最後はどばぁーでざざーでぎゃーな展開だった。

ゾンビが臭かった。そんなお話。

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