魔王と(略)
誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。
遊園地、最後のお楽しみ。
ありきたりな展開。
皆大好き。
「か、観覧車……」
そう観覧車。
「そうですよ観覧車!」
目の前には、最高180mの巨大観覧車がそびえ立っていた。
「…………」
誰だって、こういうシチュエーションは憧れる。
なんせ好きな人と狭く密閉され尚且つ空中と言う脱出不可能な空間で二人きりになれる。
人の多い遊園地で、二人だけの世界。
もう、これほど素敵な乗り物は無いとさえ思える。
「うぇ〜、人がホントにゴミみたいだなぁ〜」
「やっぱり叫んでみたいですよね〜。見ろぉ!人がゴミのようだ!」
しかしこの二人にそんなシチュなど何処吹く風。
何せ二人きりの部屋で何もせず、一緒のベッドに入って一分で寝るという何?君たちホントに恋人?って思う位にそんな展開が二人には無い。
たかだか観覧車ごときで心臓が高鳴るほど彼らの思考回路は複雑ではないのだ。
「あ、見て見て秀兎さん!」
「どした?」
見ると、ヒナは窓の外に偶然止まった鳥を指差していた。
「可愛いですね〜」
秀兎は笑う。
「お前今日一日ですげぇ笑ってるな」
「笑わなきゃ損するばっかりするんですよ♪」
「俺、そんなに笑ってないのかなぁ〜?」
そんな感じで時間は過ぎて行く。
◇◆◇
頂上部に近付いてきた頃、二人を乗せたゴンドラにはしんみりとした空気が充満していた。
「……思い返してみると、物凄い一日でしたねぇ」
「主に俺が凄かった。俺の不幸さが凄かった」
「確実に今日厄日ですよ」
「そうだなぁ」
呪いが、強まったのかもしれない。
でなければ、あの遭遇率は異常だ。なんらかの原因があるにせよ、呪いが強まっていると考えていいかもしれない。
「やっぱり、《闇》の所為でしょうか……」
この話題は、最近余り触れていなかった。
大戦記祭前夜、彼は悪魔のような怪物に襲われたらしい。
それから、彼は余りおおやけに闇の力を使っていない。
なんというか、抑えていると言うか、過剰に頼らないようにしているのだ。
「う〜んそうだろうなぁ〜。でも今日はちょっと異常だった気がするけどな」
そう言って彼は笑う。
楽しそうに笑う。
「よく笑ってられますね。辛くないんですか?」
「はぁ?」
「理不尽だー、とか、思わないんですか?」
「あー……思ったこと、あんまねぇな〜」
「どうして?」
「だって、超便利だし」
「…………それだけ?」
「ん〜それだけかなぁ……?」
……まぁ確かに。この呪いは便利だ。
私の呪いは全ての魔術魔法、魔力の《存在》を消す。
つまりどれだけ濃密な魔力をもちいて強力で複雑な術式と魔法陣を組んだ魔法でも、私がそれを《害》だと認識すればそれは消える。
触れた瞬間に魔法の攻撃は砕かれ、魔術は解除されてしまう。
――そしてもう一つ。この呪いには残酷な能力が備わっていた。
人の邪気を祓い、負の感情を鎮め、希望を与える。
これは、私にとって《毒》だ。
前者はいい。人の心が清らかな事は良い事だ。
しかし後者は、希望を与えるというのは、私にとって罪悪感を生むのだ。
例えば、父が死に、母が死に、途方に暮れる子供がいたとする。
彼の心は《絶望》に支配されている。
そんな彼に、私が微笑みかける。
それだけで、彼の絶望は消え去り、彼は生きる為の何かを得る。
希望を得る。
仮初めの希望を、与える……。
つまり嘘。
私は、人の弱った心に嘘をすり込むのだ。
相手の心を捻じ曲げるのだ。
酷く、酷く後味が悪い。
はっきり言って、邪悪だ。
希望と言う嘘を与え、自分が何に絶望したのかも忘れてしまう。
自分の意思に関係なく、忘れてしまう。
私の心に残るのは、虚しさと、嫌悪感と、罪悪感。
それが心の重荷になるのだ。
考えていると、胸が痛くなってきた。
「……ヒナは、嫌だと思ってる?」
唐突に、そんな事を聞いてくる。
「…………ええ、この呪いは、私には辛すぎる……」
「俺もさ、最初の頃は辛かった」
秀兎が心中を吐露する。
ちょっと驚いた自分に驚く。
「いっつも不幸で、災難が全部俺のところに来て、当然みんな俺のこと嫌っていくんだ。
なおかつこんなチカラだろ?怖がられるわ軽蔑されるわで大変だったんだな〜」
へらへら笑いながら言う。
「でもさ、ある時ふと思ったんだ。
この力が自分の為だけに使うには余りにも凄すぎるんで、困ってる人に使ったらどうなるのかなぁって。
で、どうせ気持ち悪がられる力だから、まず適当に同年代の女の子を助けてあげたんだ。
そしたらその子、ていうかシャリーなんだけど、シャリーは何故か俺を気持ち悪がらなかった。
むしろその逆で、あいつは俺と仲良くしてくれて俺らは友達になった。
そっからだな、この力が重荷にならなくなったのは。
こんな力でもさ、使い様によっては自分の大切な人を護れる力、救える力になるって知った。
そう思うとあって良かった〜って思うんだよね〜」
……そういえば。
私は自分以外の人のためにこの能力を使った事があるだろうか?
私が記憶を辿る限り、あまり無かった気がする。
人に希望を与えると言う行為が嫌で、実際に希望を与えたのは数えるほどしかない。
しかし、本当に、本当に絶望しか心に無い人に希望を与えるのは、悪い事なのだろうか?
……そうだ、使い方。
私がこの呪いを制御できれば、絶望の理由を忘れずに、人を立ち直らせる事が出来るかもしれない。
制御、加減、呪いの能力スペック。効果等々。
私は、この呪いについてかなり知ったつもりでいたが、まだまだだった。
……毎度の事ながら、彼には本当に救われる。
「はぁ、やっぱり秀兎さんはスゲェ人ですね〜」
「え〜今更?俺一応魔王なんですけど?」
「あ〜そういえば、秀兎さん魔王だったんですね〜スゴイスゴイ」
「お前ぜってースゴイと思ってねぇだろ?」
「すごいすごい」
「ムカつくはーそれ」
「ではそんなスゴイ魔王様に姫君がキスを……」
「てお前がしたいだけじゃね?」
「もー空気が読めないですねぇー秀兎さん。こういうときは
『ああ、愛しのヒナ姫。その唇を奪ってもいいのかい?』
って言うんですよー!」
「なんだそれ……。俺はどこぞの貴族のお坊ちゃんか?」
「世界三大美少女の一番目に入る私とキスできるんですよ〜ほらほらユー言っちゃいなよ〜」
「美女じゃなくて美少女?えらく専門的だな〜、ロリコン大喜び」
「時代は美『少』女です!」
「大人の魅力が解ってないな〜」
「ありゃ、秀兎さん美女派ですか?」
「俺オールラウンド。守備範囲広いぜ」
「さすが変態王の中の変態魔王様。ちなみに男も守備範囲なんですよね?」
「えー何その前々からそうだったよ設定の告知。いや違うよ?俺、ノーマルだよ?」
「そんな変態魔王様に姫君のキスを……」
「ってまたそこに戻るんかい!」
初夏の夕刻の空。
まだまだ平和な時間が過ぎてゆく。
なんか、会話だけの文って、いいなぁ〜。って思ってしまったこの話……(泣)