勇者と(略)。
誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。
「るんたったーるんたったー♪」
なんて、リズムも音程も無い無邪気な歌声を歌っている勇者嫁。
日の光をキラキラと反射させる艶やかな金髪はツインテール。
普通より色の濃い、蒼の瞳は嬉しさで爛々と輝いている。
「…………」
白を基調としたワンピース、青い刺繍やアクセサリー類がマッチしている。
裾の短い、太ももがほとんど出るような位短くて青いパンツに、これまた白と青のコントラストが絶妙なロングブーツ。どうやらこれらはセットのようだ。
「…………」
その姿は、子供だった。
到底高校生には見えない、幼さというかなんというか、そんな感じの物が彼女にはあった。
いやでも可愛いとかそんなんではなく、……そうあれだ、遠足ではしゃぐ幼稚園児のようだ。
そんな、自分の嫁を見て……。
「……なんか俺、すげぇ眠くなってきた」
俺たちは今、遊園地なんかによくある、あの『カップ』がぐるぐる回るヤツを絶賛体験中だった。
ちょっと大きい遊園地。――《グリモアランド》
なんともありきたりな名前だが、そこは今人気大爆発の遊園地だ。
そしてここ《グリモアランド》は、皇都郊外に位置する街、《グリモア》の西側に位置する。
《グリモア》とは、簡単に言うならカップルの為の街だ。
恋人同士で買い物をしたりする為の大型ショッピングモール。
恋人同士で休日を楽しく過ごす為の大型テーマパークとウォータパーク。
恋人同士で羽を伸ばす為の様々な娯楽施設。
恋人同士で静かに過ごす巨大自然公園。
もちろん宿泊施設も充実。恋人同士で愛を囁き合い熱い夜を過ごす為に全室防音。
そのまま結婚式を挙げる事も出来ちゃうという、なんともまぁカップルに馬鹿受けな街だった。
何故そんな街にいるのか、それはそれで少し話がめんどくさいので割愛する。
「るんたったーるんたったーるるるぅー♪」
ヒナは上機嫌でカップを回す。
これの一体何処が面白いのだろうか?
「…………」
「るるぅーるるぅーるるるぅー♪」
しかしそんな質問は……、出来るわけなかった。
無邪気にはしゃぐ子供の夢を壊しちゃ、ねぇ?
「遊園地ーはたのしぃなー!」
無邪気にはしゃいで、本当に子供のようだった。
……ていうかいい歳こいて叫ばれると超恥かしい。
「……ふわぁ」
しかし、そんな事がどうでも良くなっていくような眠気が……。
「うぅ、もうだめだ、しぬぅ……」
秀兎の頭が夢の世界へ飛び立つ……とその瞬間!
「あ!秀兎さん危ない!」
「へ?…………へぇぇぇぇぇぇ!?」
唐突に気付く。
自分が、カップから放り出されている事に。
なんで、と思ったら。
なんと自分の座っていた部分がカップから分離したのだ!
整備不良?そんなもんじゃない気がするが……。
とにかくそのまま秀兎は後ろに倒れていき、空中に放り出される。
「えええええ!?」
秀兎は回転する床に…………。
とそこで目の前に高速接近する見ず知らずの巨大カップ。
「あ……」
これもう駄目だ……。
そして、秀兎の意識は飛び立った。
◇◆◇
午後二時三十分。――《救護室》
「すみませんすみません!」
カップに轢かれました……。
従業員の人が必死で謝ってくれる。
「別にいいですよ、いつもの事なんです」
かなり心外な言葉だが鼻が痛くて何も言えない。
ヒナは適当に言いくるめて従業員を下がらせた。
「うもぅ秀兎さん!あれくらい対処できなくてどうするんですか!」
何故心配してくれないのか。秀兎は一抹の寂しさを覚える。
「あのねー、俺、今は普通の人間なのよ?あれ対処したらもう普通の人間じゃないんですけど?」
しかしヒナはきょとんとした顔で、
「いや、あれ直撃して生きている時点でもう人間じゃないですけど?」
……………………………………。
「……あー、まじで?」
「まじです」
何故死なないのか、自分でも不思議だ。
やっぱり魔王だから?邪神の加護でもついているのだろうか?
……やだなぁそれ。
「まぁそんな事は忘却して、まだまだ楽しみましょう!」
「……………………とてつもなーく嫌な予感がするなぁ……」
「大丈夫ですって!」
ヒナは秀兎の手を引っ張る。
その姿は、仲の良いカップルそのものだ。
このカップルが普通に、幸せそうに過ごせる時間はまだまだあるのだ。
……しかし、
しかし、秀兎の予感は面白いほどに的中する。
午後二時。――360度回転3D体感ジェットコースター《グリモアデッドアンダーフォール》
「きゃぁああああああ☆」
「ぎゃぁああああああ!!」
安全装置が誤作動解除。カーブの際の遠心力で放り出されそのまま巨大ゴミ集積場へロケットダイブ。
午後二時二十三分。――ハイスピード回転ブランコ《グリモアハイパースピナー》
「ひゃぁああああああ♪」
「ひぃいいいいいいい!!」
固定ボルトが外れ座席がふっ飛び、そのまま三百メートル離れた無人バスに突っ込む。
午後二時四十分。――超高度ハイタワーフリーフォール《グリモアレイジングゴーヘブン》
「にゃぁああああああ☆」
「うひぃいいいいいい!?」
座席シート分離。百二十m空中に放り出されました。
午後三時〇〇分。――戦慄の野戦廃病院ホラー《グリモアデッドライブホスピタル》
「いやぁああああああ☆」
「う、ご、ば、ぎゃぁ、ぐ、ぐぅ……!」
まさかの迷子。スタッフルームに迷い込み不審者としてリンチ……。
午後三時十二分。――《大自然公園》
「…………………なんなんですか、なんなんですかこの不幸はッ!?」
魔王の不幸は確実に加速していた。
ちなみに魔王は二度と遊園地来ない事を固く心に誓いました。
指摘を受けましたので……。
雷系の魔法陣の色を『水色』から『黄色』に変更です。
分かりにくい表現ですみませんでしたー。