好き嫌いの再認識。
誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。
大戦記祭が終わった。
校舎が完璧に修繕されるまで約二週間。(全部俺の所為になってる)
その二週間、生徒たちには特別休日としてそれぞれ羽を伸ばす事になった。(俺は謹慎処分だけどね!)
ところで話は変わるけど。
俺だって好きで怠け者をしているわけじゃない。
でも色々やっていくうちに、自然と疲れが溜まって眠気が溜まって色々溜まって、こんな風になってしまった。
それでも前はもう少し緊張していたと思う。
それが、アイツが来て、緊張の糸が切れた。気がする。
まぁ何はともあれ…………。
勇者って生き物は嫌いだ。
◇◆◇
勇者(♂)、戦士(♂)、魔術師(♀)、僧侶(♀)。
なんてバランスの取れたパーティーなんだろうか。
どっかの最強の勇者パーティーとは大違いだ。
勇者の勇ましい声が謁見の間に響き渡る。
「魔王よ!貴様が捕えし我らのラヴデルト皇女殿下を帰してもらう!」
「……お前らの物じゃないだろう?何を勘違いしてるのか、反吐が出るな勇者殿」
「黙れバケモノ!貴様のような害虫はこの世からいなくなるべきだ!」
害虫、化け物、悪の根源、破壊神、災厄の使者。
どれも言われ慣れた名称だ。今更傷付くこともない。
ていうか久し振りに魔王っぽい口調になったから息苦しい。
「俺がいなくなったら世界が平和になるのか?」
「なる!」
……バカだ。完全にこの勇者はバカだ。
俺がいなくなることで世界が平和になるんて夢物語も良い所だ。
大抵の奴はそう思ってるんだろうけど。
「…………」
なんかもう、色々疲れた。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
相手はものすごい顔で俺に向かってくるけど別に相手をするつもりも無い。
何故なら……、
「グアッ!」
突如勇者がふっ飛んだ。
勇者の握っていた剣が半ばから折れ、勇者のつけていた豪華な装飾の篭手が粉々に砕け散った。
「…………」
「な、何者だ!」
勇者の剣を折った彼女は、無言で俺と勇者の間に立ち塞がった。
黄緑色の、美しい髪。異常なまでに整った、絶世の美女と呼ぶに相応しい美貌。
エルデリカ・ヴァーリエ。
彼女が護ってくれるから、だから俺は荘厳な装飾の施された玉座に座るだけ。あ〜楽。
彼女は、勇者たちを睨みつけながら言う。
「我が名はエルデリカ・ヴァーリエ。この魔王騎士団団長にして魔王の剣なり。我が君に刃を向けるなど何たる愚行!その愚かしさを私がその身に刻んでやろう!」
その声は凛々しかった。本当にそう思っているのか、ただ単に「私のサンドバッグに傷をつけるなんて許せないわ!」と思っているのか、本心は不明だけどね。
「く、こんな小娘が騎士だと?笑わせる!魔王軍はそうとうの人員不足なのだな!」
二十代前半の若造がよく言うわ。あ、でもビジュアル的にはそれくらいがちょうど良いのかな?
まぁ確かにエルはまだまだ思春期の真っ只中。華奢な身体にあの美貌、なめられてもしょうがないけど。
小娘呼ばわりが不服なのか、エルが不機嫌そうに眉をひそめてこっちを見てきた。
「…………陛下、この豚の目は相当濁ってますね」
「………………………あ〜、うん、そうだね、濁りまくってるよ。だけど殺すのは止めてね。この絨毯汚れ落ちにくくて掃除当番だったシャリーが泣いてたから」
「承知」
ちなみに今週の掃除当番は紅葉だ。小学生が泣きながら絨毯を拭くなんてあんまり見たくない。
「という事だ豚、私は本気を出さない。だが貴様は本気を出すがいい。身の程を教えてやる」
彼女の気迫に蹴落とされたのか、勇者以外のメンバーの足が少しだけ竦んでいる。
怒ってる。マジで、声の迫力が違うよ!
「ふざけるなぁぁぁぁぁー!」
さすが勇者と言うべきか、哀れ勇者と言うべきか、まぁその勇気だけは認めておく事にします。
勇者は腰に刺さっていたもう一本の剣を取り出してエルデリカに切りかかる。
見たところそれなりの業物のようだ。刀身が白金のように白い。何らかの魔術が施されているのかもしれない。
エルデリカは、持っていた安物の剣を捨てる。
どうせそこらの希少銀で作られた何の付加も無い剣。単価約10万。
こんな安剣ではエルデリカの実力を出し切れない……。まぁエルデリカは剣がなくても強いけど。
エルデリカは右手を槍先ような形に変えた。
「魂を惑わす剣」
それは、古代の言葉。もう、誰もが忘れてしまった言葉。
彼女の手を覆うように、半透明な、水色のぼやけた光の剣が出てくる。
まるでレーザーのような剣。しかし魔法でもない、魔術でもない、ましてや科学でもない。
《超常の力》
この点では、俺も、ヒナも、紅葉も、エルデリカも、そしてシャリーも、似た物同士だったりする。
エルデリカの剣が、勇者の首をたたっ切る!
しかし、首が飛ぶわけではない。
そもそも、あれは身体を切る剣ではない。
勇者はそのまま床に倒れた。立ち上がろうとするが、それが出来ないようだ。
「光の束縛を施す剣」
左手から淡い黄色の剣が出てきた。その剣を振るうと、光の線が飛び出て他のメンバーを拘束する。
全滅。
……弱い。雑魚だ。話にならない。まぁ話をするつもりもないけど。
あまりの弱さに欠伸が出る。
「ふわぁ、あ〜もうやんなっちゃうなぁ〜こんな朝早くから。大体、《霧の迷宮》はどうなっちゃったの?」
そんな疑問に、魔王の側近の彼女が答える。
「さぁ?中庭魔法陣の調子はいたって普通、魔術的欠陥は見当たりませんでしたよ陛下」
黒髪を伸ばし放題にして適当に流した、リアルさだこ。
顔は可愛いのに長い髪がそれを隠している。勿体無い。
シャリー・クシャー。魔王魔術師団団長、魔王の側近。
「あのさぁ〜、お前に陛下って呼ばれるとすごい自己嫌悪になりそうなんだけど……」
「ちなみに私は今、魔王に絶対忠誠の忠犬キャラです」
「…………まぁいいや、なんでも……」
エルデリカが勇者一行を縛り上げ、魔王の前に這い蹲らせる。
「くっ!この外道が……ッ!」
「…………え〜、俺何もしてないじゃん。外道とか言われる筋合いねぇし」
「ほら、顔が外道なんですよ」
「いかにも。陛下は常日頃からどうやったら変態的な策で私たちを辱めようと画策しているからな、自然と顔に出てしまうんだろう」
「なるほど」
「………………なんだろうねこの上下関係。俺トップなのに、なんかヒエラルキーの矛盾を感じちゃうよ……」
勇者は屈辱にまみれた顔で、憎々しげに言う。
「……殺すなら殺せ、もとよりそのつも……」
「うるさい死にたがり。我が君は殺生を好まない。死にたければ勝手に死ぬがいい。しかし、我が君の前で自害を図ろうものならば死ぬより恐ろしい苦痛を味あわせてやる」
エルデリカだ。凛とした声が、勇者に釘を刺すように降りかかる。
こういう時の彼女たちは、本当に魔王を敬愛する、従順な家来になる。
何故そこまで尽くす事ができるのか、と思うほど、いつもとは180度違った態度になる。
どちらが本音で、どちらが仮面なのか、それがよく分からないほどに。
「く、……哀れみのつもりか!」
勇者にとってこれ以上の屈辱はないだろう。そういう風に教育されているから。
まるで一昔前の軍人だ。
生き恥、というのだろうか。またくもって馬鹿馬鹿しい。
「はぁ?哀れみ?いや全然。だってあんた俺を殺しに来たんだろ?なんで哀れまなくちゃいけないんだよ?意味不明〜」
「では我々をどうするつもりだ!!」
「……どうするよシャリー」
「ん〜、まず手頃なところであの女二人を調教して従順な奴隷にしてそれから……」
僧侶と魔術師の顔が青ざめる。
「……お前に聞いた俺がバカだった。エルは?なんか所望ある?」
「まず手頃なところからあの男二人をミキサーにかけて竜の餌に……」
勇者と戦士が戦慄する。
話にならなかった。
「………………強制送還して……」
「仰せのままに」
シャリーが転移魔法陣を刻む。魔法陣が輝きだす。
「はぁ、なんかもう、ほんと眠いんだよなぁ〜。これでも俺成長期なんだよな〜」
とそこで、
「おはよ〜ございま〜す」
欠伸をしながら、ヒナがきた。
紅いドレスと真っ白な手袋を着用し、艶やかな金髪はポニーにまとまっている。
うん、普通に綺麗だ。あいも変わらず反則的。
「姫様!」
勇者が言う。希望を見つけたかのような、彼女に愛おしそうな目を向けている。
しかし、そんな声に薄く笑い手を振るだけのヒナ。ツカツカとヒールを鳴らして玉座に居座る秀兎の元へやってくる。
「やぁお姫様。今日も変わらず綺麗だね」
褒めてみた。
すると、ヒナは驚いたように目を見開き……、一歩引いてくださった。
「しゅ、秀兎さんの様子がおかしいッ!?これは一体どういう事!?」
「お前失礼なやつだな〜、俺が褒めるなんて、一ヶ月にあるかないかなんだぜ?もちょっと嬉しがったりとかしろよ」
「ああ、なるほど。不意打ちを狙ったわけですね」
ヒナは、恥かしそうに顔を赤らめて、
「もう、魔王さまったら、こんな人前で、恥かしいじゃないですか……」
両方の人差し指を合わせてモジモジしながら上目遣いでこっちを見て、恥かしそうに微笑む……。
ノリノリだった。
なんかまた溜め息が出そう……。
そんなやり取りを見て、勇者が口をパクパクしていたが……、
やがて転移魔法陣によって国に強制送還されいった。
多分、あの顔は目の前の光景に絶望していたんだろうなぁ……。
◇◆◇
弱すぎた。なので勝利の余韻などというものは残らない。
まるで部屋の掃除が終わった後のように、なんでもない、普通の一日が始まる。
女性陣は、昇り始めている太陽の日光の下で、話に花を咲かせ始める。
「今の顔見ました?金魚の顔みたいでしたよ」
「きっと陛下とヒナのラブラブさに絶望したんでしょうね」
「助け出せればお姫様と結婚できると思ってるんだから、まったく最近の勇者と言うものは……」
「…………」
しかし、
そんな彼女たちの会話は、まったく秀兎の耳に入らなかった。
会話にすら、参加しようとしなかった。
そんな事よりも、この『違和感』について考えなければならなかった。
あの男の違和感について……。
………………………………俺とヒナは事実上、夫婦になっている。
これは映像送信の魔術によってフリギア全土に伝わったはず。
なのにこの状況。
立ち向かってくる勇者が後を絶たない。
フリギアの皇帝が、自分の娘を助け出したいが為の行動。
憎まれ役の魔王に嫁ぐという事は、帝国を、世界を裏切るに等しい。
裏切りの姫。世界を裏切ったという汚名を着せられた、帝国の姫。
しかし、この慕われようはどうだ?
通常、《世界を裏切った姫》など誰も嫁にとるものなどいない。
自分の名に、泥を塗ってしまう行為に等しい。だからこそ俺はヒナを妻にしたわけだが。
さすがに勇者もそんな姫を助け出そうとはしないはずだ。
「魔王はあろう事か、我が娘を誑かし娘を我が物にしようとしている!我は激怒している!国民よ!力を貸して欲しい!娘を救って欲しい!」
フリギアの皇帝は、そう言ったらしい。
それなら、勇者が来るのも頷ける。
しかし、あの皇帝が私欲だけで娘を取り返そうとするのだろうか?
あの、勝利の為ならばどんな嘘でもつき、どんな残忍な策でも平然とした顔で使い、自分の子供にまで自分の真の顔を見せないあの男が。
……絶対に無い。それは無い。
自分の子供にですら嘘を吐く、仮面の王が、そんな私情を晒すはずが無い。
彼はヒナを取り戻したがっている。
ヒナには、彼にそこまでさせる《価値》があるのだ。
……………………《光》か。
そう《光》。彼女が《光の姫君》だから。
全ての魔術を無効化し、人の心を浄化し、人の心を前向きにする力。
いや重要なのは後者、人の心を浄化し前向きにする力か。
これは、極端に、かなり強引に言えば希望を与えるという事。
つまり絶対的な人心掌握の力。
マスコットに、これほどぴったりな力は無い。
何せそこに居るだけで人々の心は浄化され、希望を与え、絶大な人気と人徳を生む。
それなら、まぁあのジジィがあそこまで執着する理由もわからなくは無いが……。
しかしあの男らしくない。
あの男なら、もうとっくに日本を侵略して魔王城を攻め落とそうとするはずだ。
フリギアは世界最強の軍事国家。その気になれば日本を侵略するなど造作も無い。
俺が対応しきれないほど量で、強引な物量作戦で、侵略すればいいのだ。
なのに、このチマチマとした小競り合い。というよりチマチマとした攻撃。
そんな事をして娘に嫌われないようにする為か?
……いや絶対違う。
あいつは、そんな出来た人間じゃないんだ。平気で人体実験をするし、逆らう貴族をまとめて幽閉するし。まぁ皆殺しにしないだけまだマシだけど……。
いや、……もしかしたら、嫁いだ事を言ってないのかもしれない。
それどころか、あの魔術自体が無かったんじゃないだろうか?
娘が魔王に嫁いだ、という事を隠し、勇者機関に彼女の奪還をさせる=娘に汚名を着せない?
娘の為を思って?
しかしもしアイツにそんな人格があるとしたら……?
それともこれも策略なのか……?
ただ単に娘として?それとも利用価値を求めて?
……………………………わからない。
だが、『あの事』と関係性が無いわけじゃないだろうか。
確証は無い。ただ何となく、そんな気がするのだ。
ルシアが言っていたのだ。《光の姫君》と言う呪い名。
急ぐ必要は、……無い、といっていた。
まだ平穏は続くと。
しかし、俺は知りたいと思う。
俺の所為で、姉が泣く。そんな顔は見たくないのに、泣いてしまう。
きっと、ルシアも泣くかもしれない。そんな顔は見たくない。
俺の所為で誰かが傷付く。そんなことはあって欲しくない。あってはならない。
自分の好きな物、人が傷付く事、そんな事は絶対に起こってはいけないんだ。
……知らなくちゃいけない。
大丈夫、休みは始まったばかりだ。
《光》と《闇》を中心に、調べていこう。魔王城の図書館に行けば何かあるかもしれない。
《光》、《闇》、《勇者》、《魔王》……。
《光と闇》…………………。
「……あ〜」
なんだか頭が痛くなってきた。
頭を使いすぎた所為かな。
やっぱりこういうの、俺は嫌いだな……。
でも、
やっぱ、
……うん、
あ〜、
やっぱキライだな、こういうのは。
一話完結。
ちゃんと出来ていたでしょうか?
読者の皆さんが満足してくれたら幸いです。