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参.母よ、ツンデレの意味を解っていますか。

 どうやら時間に遅れた事を特に咎めるつもりは無いらしかった。

 しかし、


「母上、ご機嫌麗しゅ……」

「うわ〜堅苦しい。テメェそれでもあたしの息子か?公私の切り分けも出来ないなんて、一体誰に似たんだか…………」

「ほぉ、いつだったかなぁ「テメェそれが母親に対する態度かっ!」てキレて俺に鞭を振るったのは……?」

「テメェそれが母親に対する態度かっ!」

「リピートしてんじゃて痛い痛いっ!鞭!ちょッ!やめっ!イタッ!タタタッ!!」

「ビシッバシッビシッバシッ!」



「「「………………………」」」

 ヒナも、シャリーも、紅葉も、誰もが口を開けなかった。

 ヒナは強烈な存在感を見せつけられた所為で。

 他二人は今まで見たことも無い主の顔の所為で。

「ちょっ!そこの三人!この、状況を……」

「顔面ばちーん」

「痛あああぁぁぁぁぁあアアアア!!」

 ゴロゴロと床を転がる魔王。マントにくるまっている為黒い芋虫に見える。

「…………」

 自分の息子をひとしきり鞭打った母は、鞭を放ってそのまま玉座のような椅子に座った。

 そして一言。

 

「………あきた」

 

(((実の息子に鞭振るって最後の一言がそれぇぇぇぇぇぇ!?)))

 三人のシンクロ率はほぼマックス。

 しかし、それを口に出す者は居ない。理由は簡単、彼女の仕返しが恐いから。

 ここは哀れな息子に犠牲になって貰うしかなかった。

「息子、あたしを楽しませる為になんかやれ」

「ふざっけんな!俺はあんたの息子なんですけど!?少しは息子に対してマシな対応をしてくれよ!」

「母さんはツンデレだ!」

「そんな言葉で俺が騙されると思うなよ!」

「別にお前の為に鞭を振るっている訳じゃないんだからねッ!」

 光の鞭、ビシィッ!

「いっつぅぅー!」

「それそれそぉれ!なんかまた楽しくなってきたぁぁぁ!」

「いて!いてて!ちくしょうテメッ!」

「一端の小僧が生意気に反抗期か!しかし母さんは嬉しいぞ!それでこそあたしの息子!」

「イアタタタタタァァァァアアアア!!!」




 そんなやり取りを遠くから見て、ヒナがちょっとだけ苦笑する。

「……どうしたの?」

 紅葉が不思議そうな顔で見上げている。

「秀兎さんとレイアさんって、何だかんだで親子なんですよね」

「…………私もそう思うよ」 

「だね。すごく楽しそうだよ」

 ヒナも、シャリーも、紅葉も、微笑みながらその光景を見守っていた。

 

 ヒナも、一瞬だけ自分の母親の事を思い出す。


 微笑み、両手を広げ、抱擁してくれる母。

 それは、……。


    ◇◆◇

 

「ふー、楽しかった」

 息子で遊びまくった母は玉座で紅茶を啜っている。

 すごく、すごく綺麗な人だとヒナは思った。

 一子の母でありながら、その容姿はまるで女子高校生のように幼く、しかしながらどこか大人びている。紅い、真っ赤な髪に、鮮血の双眸。

 白い生地に赤い模様が施されているドレスは、なんだか神々しく見える。

 そんな彼女の息子は黒芋虫状態ですでに屍のようだ。

「でー、なんであんたらここに来たの?」

「う……」

「……」

「……」

 三人は中々言い出せない。

 『息子の結婚』が彼女の琴線(きんせん)に触れないか心配なのだ。

 彼女たちだって一人の女の子なのである。身体に傷は付けたくないし、なにより痛いのはヤダ。

「ん……、あんた」

 レイアが、ヒナを指差す。

「は、はぃ!」

 緊張度マックス。思わず声も上擦る。

「どんだけ緊張してねん。って、あー、鞭か……。大丈夫、あたしは女の子に手は出さないから」

 どうだか。

「は、はぁ……」

「それよりあんたさ、なんで黒衣着てんの?しかもそれあたしのだし」

「うっ!」

 いきなり(つつ)いてきた。

「あんた《光》を宿してるくせになんで、……ていうかなんであんた《魔王(ウチのムスコ)》と一緒に居んの?」

 彼女がいくら《光》を抑えたって、それは必ず漏れるものである。彼女は初めて見たときから彼女の《光》を感じていたに違いない。

「あ、あの、それはですね!その……」

 中々言い出せないのは恐怖からか、それとも羞恥心からか。

「ひょっとして、『堕ちた』とか?」

「いえそれは無いんです!ただ黒衣を着ているのは秀兎さんとの戦闘で……」

「秀兎さん……?」

 しまった、墓穴を掘った!

「オィ息子ォ!」

 光の鞭、バチンッ!

「イタッ!」

「テメェさては攫ってきやがったな、コンチクショウ!見事な魔王っぷりだが母さんは悲しいぞ!女の気持ちも聞かずに問答無用とは貴様それでもウチの子かぁぁぁ!」

 胸倉掴んで顔急接近。

 違う、違うんだ母さん。誤解だから脅迫紛い(きょうはくまがい)な事はヤメテ。

「いいから答えろ!攫ってきたのか!?攫ってきちゃったのか!?それは駄目だぞ我が息子ォォォォ!」

 ぶんぶん首を振る。

「ちがうから!そうじゃないから!だからやめて!」

「何が違うのか言ってみろォ!」

 盛大に投げ飛ばされる。

「ゲホッ。あーうー」

「ホレ、言ってみろ」

「あー、えーと、その、怒らないでね?」

「ああ」

 もう、覚悟を決めるしかない。

「……彼女が」

 ヒナを指差す。

「ふむ」

 

「俺と結婚したいんだブシッ!」

 

 言い終わる前に光の鞭で叩かれた。

「ふむ……」

 少しだけ沈黙。思案。

「おいそこの娘」

 ヒナを指差す。

「名前は?」

「……ヒナ・ラヴデルト・フリギア、です」

「ああ、フリギアんとこの、確か三番目か」

「はい。フリギア帝国第三皇女、第四位皇位継承者の――」


「そんな事はどうでもいいわ」


 突然声の質が変化した。

 低い、威圧的な声。

 レイアの表情は厳しい。

「娘、《光の姫君》の自覚があるのか?」

「あります」

「じゃぁウチの息子が《闇の皇帝》だという事も承知?」

「承知の上です」

「ふむ……」

 少しだけ思案して、レイアはおもむろに指を上げ、ヒナを指差す。

 

 突然、彼女の後ろに、巨大な魔法陣が現れる。


 色は黄色、という事は、雷系魔法(いかずちけいまほう)

「雷よ、巨槍となりて敵を貫け」

 一言、そう言う。

 それだけで、魔法陣が光だし、そこから光が飛び出してくる。

 巨大な、雷を束ねて出来た、電撃の槍。

 それが、真っ直ぐに、ヒナに向かっている。

 しかし、

 

 ヒナはその槍を左手で払いのける。

 

 軌道が逸れた槍はそのまま壁に衝突。

「ふむ……」

 思案し、また指を向ける。

 また魔法陣が現れる。

 色は緑、属性は風。

「風よ、刃となりて敵を切り裂け」

 無数の見えない刃が放たれる。

 しかし、


 ヒナの身体には傷一つ付かない。


「むむ……」

 悔しそうな顔をして、また指差す。

 また魔法陣。

 色は赤、属性は炎。

 しかし今度はヒナを中心に展開している。

煉獄(れんごく)にて罪を(はら)いし神の炎よ、契約に従い我が敵を消し炭にしろ!」

 魔法陣から火が漏れ出す。

 渦を巻き、中心にいるヒナに向かって火が走る。

 そして、

 巨大な火柱がヒナを包み込む。

(……うわぁ、容赦ねぇ)

 秀兎はそう思った。

 母さんは奥の手の一つ、《神の炎(ウリエルイレギュラー)》を使った。

(そうとうムキになってるな母さん……)

 ムキなると強い。自分の母親は、力が衰えたとしても、それでも強い。

 ――しかし。

  

 パァァンッ!


 と、突然火柱が弾ける。

 火の粉が舞い、光に帰る。


 その幻想的な舞台で、黒衣の少女は立っている。


 平然と、悠然と、当たり前の様に、微笑している。

 ――効かない。

 《光》を宿すヒナに、


 魔術は限りなく無意味なのだから。 

 

 それは絶対であり、例外はない。

「ふぅむ、……」

 顎に指を当てて、レイアは再び思案する。

「……オッケーオッケー。成程ね、《光の姫君》は伊達じゃないわ」

 肩を竦めて微笑む。

「で、何だっけ?あー、結婚か。んー」

 ……。

 

「まぁ、いんじゃね?」

 

 おい!

「待て待って!母さんわかってる?ヒナは《光の姫君》だよ?」

「今実証したじゃん」

「……あの、結婚相手は貴方の息子は僕ですよ?」

「いや元からそのつもりだけど?」

「あの、僕これでも《闇の皇帝》って呼ばれてる筈なんですけど?」

「いや知ってるけど?」

 ……こいつッ!

「いや《光》と《闇》だよ?正反対だよ?イレギュラーだよ?」


「面白いから結婚しろ!」

 

 いや、いやいやいや!

「ちょっと待とうよ!あんたの息子は実質上高校生なんですけど!?」

「あれ、私も高校生ですけど?」

「ワォ偶然だね!でもヒナは黙ってねー!いいですかマイマザー?人間は普通十八歳にならないと結婚できないとう法律があってですね……」

「いいじゃないかお前普通じゃないし。あと法律ってのは破る為にあるんだぞ?」

「ふざっけんなこの犯罪者予備軍が!大体こういうのはお互いの気持ちが重要なん……」

「いや私は嫁に行く為に秀兎さんの所に……」

「俺の気持ちッ!俺の気持ちはッ!?」

 と、


「…………う、ぐすっ」

 

 ………………。 

「……」

「……」

「……」

 周囲からの視線が痛い。

「そうですよね……。私なんかキモくて根暗で……、うっく、ひっく」

「あ〜あな〜かしたぁな〜かしたぁ。秀兎〜が〜なぁかぁした」  

 母さんの挑発がムカつくがかまっている余裕もなし。

「い、いや違うんだよ?ほら、あれだよ。結婚って言うのはさ、お互いの事を良く知ってからするものであって、あ〜その〜、だからさ、俺らはまだあって間もない訳であって……」

「いいんです。私が秀兎さんと不釣合いなのは前から解っていましたし……」

 にこっ、と儚げな笑顔。ああ、ヤメてくれ、そんな目で俺を見ないでくれぇ……!

 助けてシャリー!

「…………(ぷい)」

 目を逸らさないでぇ!

 紅葉は!

「…………(ドンマイ)」

 ドンマイ!?いやドンマイじゃねぇよ助けてよ!?

「ヒナ、ウチの息子は照れ屋だからさ、面と向かって結婚とか恥かしがっちゃてるわけよ……」

 母親何してんの?何諭そうとしてんの!?

「……なるほど、私もそういう時期がありました」

「ちょ、ヒナ!そこは頷くところじゃないよ!」

「だからさ、ヒナ」

「はい」


「こんな息子だけどよ、よろしくな?」


「はい!」

「おかぁぁぁぁさあああああん!!!」

「よし!そうと決まれば結婚式だ!!シャリー、紅葉!」

「「は〜い!」」

「結婚式場はここで良い、城に居る奴ら全員呼んで来い!ついでに宴会だ!城の食堂とここを転移様の魔法陣で繋いでおけ!あとウェディングドレス!城の倉庫にある筈だから引っ張り出して来い!いいか、準備は素早く、宴は賑やかに!」

「「あいあいさ〜!」」

「待って待って!俺の意見は!?」

「そんなもん後で言え!」

「いや後で言っても意見は意味なさないし!」

「えぇい黙れ愚息が!こうしてやる!」

 突如、レイアの指先から光が放たれる。

 その光が、縄みたいになって秀兎の身体に巻きついた。

「むー!むー!」

 丁寧に猿轡(さるぐつわ)までかまされた秀兎。


「では!口煩(くちうるさ)い愚息がこの状態のうちに素早く準備しよう!宴だ!祭りだ!飲んで騒いで楽しもうではないかー!!」


 あーはっはっはっはっはっはっはー!

 と、魔王も絶句(実際にしている)するほどの高笑いをする母の笑顔は禍々しく、そして、どこまでも意味有りげな表情だった。

魔王結婚。

長かった。

次回から色々あるみたいです。

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