ウォー・オブ・ザ・黒月/そして産声。
誤字、脱字、おかしな文章は見つけ次第修正します。
魔導国家マジスティアの貴族、アルブレア家。
爵位は伯爵。魔導学研究に長けた、中々に有名な貴族。
広域攻撃魔法《火天煌》、《雷天輝》、《嵐天迅》などなど……。
様々な魔法魔術の開発、効率化、簡略化に携わってきている。
そして、とある事件で爵位を剥奪された。
エレア・フォーミュレンス・アルブレア。
アルブレア家の、没落した貴族の、たった一人の娘。生き残り。
それは知られてはいけない、いや知られたくない名だった。
「な、なんでその名前を……!」
没落した貴族に向けられる視線は冷たく、そして蔑まれる。
それに、その名は穢れていた。
だからこそ日本に来た。
もう、蔑みの視線は嫌だったから。
そのはずなのに。
「あ、貴方は一体……」
あの事件は、極秘裏に抹消されたはずだった。
下手をすれば戦争に発展しかねないからだ。
では何故、何故彼女は知っている?
「……視線が、怖いんですか?」
心を見透かされた気がした。
「蔑みの視線が、怖いんでしょう?」
「……ッ!」
「だから、なるべく目立たないように。あまり他人に干渉しないで。ひっそりと過ごしてきた」
ヒナの口調は、ゆっくりとしていた。
まるで諭すように、ゆっくりと、優しい声音で、語りかけてくる。
「……でも逃げてばかりじゃ、始まりませんよ?」
ゆっくりと、手を差し出した。
不思議と、その手は温かそうで。
「…………」
その手に、本当に遠慮がちに、自分の手を載せた。
すると、その手は温かくて、
温かさが、腕を伝って、心臓を、心に伝わる。
そんな錯覚を感じた。
◇◆◇
アルブレア家。
没落の話は風の噂だったが、どうやら本当のようだ。
没落した貴族がたどる道は二つに一つだ。
1.一族の抹殺。
2.身分を承知の上での逃亡。しかし、表立った行動は出来ない、すなわち日陰暮らしが待っている。
生きるより、死ぬ方がマシだと考え、一家心中する貴族も少なくない。
しかし、このエレアと言う少女は、死なずに生きている。
それは、すごい事だ。
尊敬してしまう。彼女の生きろ為の意志、強い心に。
だけど、その一方で彼女の心は脆い。寂しく、凍えていた。
その姿が、自然と昔の自分と重なってしまう。
同情や、尊敬や、いろんな気持ちがあるが、
やっぱり自分のような人を見ていると、助けたいと思ってしまう。
だから私は、できるだけ相手が安らぐように、笑う。
笑顔には自信があった。
「これで、友達ですね」
「とも、だち……」
「そうそう、ともだちともだち」
エレアは不思議そうな顔をしている。
「貴方は、本当に、何者なんですか……?」
「私はただの女学生ですよ?」
「ウソです。ただの女学生が、マジスティアの、……あの、忌み嫌われる貴族の名前を知っているんですか?」
「それは秘密です」
すると、エレアは訝しげに眉をひそめて、
「……秘め事を持つ人を友達とは言いません」
露骨に不審そうな顔をする。こういう表情は、心理的な隙だ。
「そんなことは無いですよ。例えば貴方は今までに何回男性に抱かれたことがありますか?」
なんて、初心な少女なら誰でも慌てそうな質問をする。
これは結構有効だ。前にシャリーさんで試した事もあるし。
「ぶッ!な、ななななな!!」
案の定慌てだした。顔がかすかに赤い。
……なんていうか、可愛らしい。
「あ、ありませんよ!そんなの!そういうヒナさんはどうなんですか!黒宮くんとは結婚してるんでしょう!?」
「私?私はありませんよ。ていうか、秀兎さんはそっちの話には全然反応しませんからねぇ」
「へ……?で、でも夫婦なら普通はするもんじゃ……」
「そう思うでしょう?こんな可愛い少女がお嫁にきたのにあの人全く手を出してこないんですよぅ」
彼はここ一ヶ月、まるで自分に手を出してこない。
そんな言葉に、エレナはぽかんとした表情になる。
「はぁ……」
「私だって頑張ってるんですよ?ちょっと大胆なネグリジェを着たりその格好で添い寝してあげたり……。でも全然効果が無いんですよ〜」
私は拗ねるように頬を膨らませた。
――彼は、無理をしているのかと思えば、そうでもない。
ただ単に、本当にそういうのに興味が無いのか、それとも男しょ……、いやまぁさすがにそれは……。
いや、今はそんな事考えている場合じゃなかったです。
「とまぁ論点はずれましたが、実はこういう話、誰にも言ったこと無いんですよ」
「へぇ、そうなんですか……」
「私にだって、秘密にしておきたい人、秘密を喋ってもいい人がいます」
「まぁ、たしかに……」
「人には知られたくない事、知られたい事、色々あるんです」
そう言いながら笑うと、エレアは。
「…………」
少しだけ、微笑んだ。
なんとなく、優しい目で、微笑んだ。
すごく綺麗な微笑みだ。
思わず、いやそういう気がある訳じゃないけど、見惚れた。
会話が途切れる。
「…………」
「…………」
エレアはまた、月を見上げる。
寂しそうな表情で、月を見る。
「……ねぇ、エレアさん」
「はい?」
「エレアさんて、いつも何してます?」
「……そうですね、特にやる事も無いので、勉強をしています」
「家族などは?」
「他界しました。爵位が剥奪された時、見せしめとして……」
「寂しい、ですか……?」
「寂しくはないです。こう見えても私、友達とか沢山いるんで……」
それはウソだと、ヒナは思った。
いや、確かに友達を呼べる人達はいるのかもしれない。
だが彼女自身、偽りの自分を演じているんだろう。
仮面を被って、本当の自分をさらけ出さない。
彼女が本気で笑うところを、私は見てみたくなった。
「今度、一緒に遊びませんか?」
「へ……?」
「うちって、ほら結構普通じゃない人達がいっぱいいるんで、友達としては遊びたいって言うか、え〜まぁ、そのなんて言うんでしょうか……」
……まいった。いざ言うときになると言葉に詰まってしまう。
「…………」
「…………」
しかし、エレアは微笑んだ。
「ええ、今度一緒に遊びましょう」
そんな言葉を、彼女は言ったのだ。
その言葉を聞いて、ヒナには何となく嬉しくなった。
◇◆◇
そして、午前零時。
少女たちはなんて事の無い普通の約束を交わし。
今日一日を乗り切った友と友は絆をさらに深め。
敗北した者は精進しようと決意をあらたにする。
彼ら彼女らを見下ろす月が真上に来る午前零時。
『それ』はゆっくりと動き出す。
誰にもわからなくらいに緩慢な、ゆっくりとした動きで目覚め。
《ガ、ガァ、ガ、ガガガガガガ……》
そして、
《ガァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ―――!》
産声を上げた。
さて、次回はシャリーが超大暴れします。
ていうか、大体の流れはもう決まっているのでなるべくはやく投稿します。
……戦争が終わったら一話完結で行こうかなと思ったりもしてます。
でも、……力不足だから出来ないよーッ!(涙)