ウォー・オブ・ザ・黒月【四】
今回の視点は少しぐちゃぐちゃかもしれません。
読みにくかったらすいません……(汗)
テントの中に、人が入ってきた。
黒髪。
黒宮秀兎かと思ったが、違う。髪の毛は腰まで伸び、適当に流されたている。
気になるのは何故か彼女が裸にエプロンだという事。
「あ、秀兎!起きたみたいだよ」
「テメェ早く服着ろ!」
「秀兎さん見て見て☆」
「テメェもさっさと服を着ろォォォ!」
なんか、お世話焼きのお兄さんみたいだと私は思った。
「やぁん、無理矢理こんな格好までさせておいて〜。酷いよ〜」
「だから何?何がしたいの?ていうか何故俺を陥れようとする?」
「いやぁやめてぇ……」
「なんもしてねぇぇぇぇぇ!……って叫んだらかなり疲れた…………」
「リアクションしてくださいよ〜。鼻血ブハーでも顔を真っ赤にするでもいいですから」
「どんだけ初心なんだよ……ってもういいから、お願いしますから服を着て……」
やけに疲れたような声音だ。
「あ、あの」
少女は上半身裸だという事を思い出した。
このままでは少し恥ずかしい。
「ん?」
「ふ、服はありませんか?」
「ありません」
凍りつく。少女が青ざめる。
「じゃ、じゃあ私はずっとこのままでいないと……」
「ウソウソ。ちゃんとあるから安心して〜」
シャリーはそのままテントを出る。
「秀兎〜。あの子の服お願い」
「ああ、そうだったそうだった」
と、秀兎が中に入ってくる。
何の抵抗も無く。
するりと。
そして見てくる。
少女の裸体を。
でも平然としている。
「…………」
ちょっと呆ける。え、何この人?人の裸見といて、何でこんな平然としてんの?もしかして私、魅力無い?
そんな事を思うが、秀兎は平然とベッドに乗り、少女に近づいて来る。
少女は慌てた。
「ちょ、あの、な、……!」
「あ、ごめん。ちょっと背中見せてよ」
ぐいっと背中を向けられる。
「うん、傷口は残ってないし感染の兆候も見られない」
「…………」
「気分は?」
「……悪く、ないです……」
「ならよし」
少女の顔は真っ赤だ。裸を見られた所為だろうと秀兎は思う。
ていうか、なんかこういう子って新鮮だなぁ。
「君、名前は?」
少女は、少し戸惑いながらも、小さい声音で呟いた。
「……エレア。エレア・フォーミュレンスです……」
「エレアか。なんかカッコいいわーその名前」
すると少女は耳まで真っ赤になる。
うわぁホントにこういうのって新鮮だなぁ……。
秀兎は服をエレアの前に置いた。
「はいどうぞ」
笑顔。それほど綺麗とはいえないが、精一杯笑っている。そんな顔。
「…………」
その笑顔に、エレアの顔は自然と赤くなる。
◇◆◇
所変わって。
「学園長」
そう呼びかけられて、黒宮雪魅は振り向いた。
あたりはすっかり夜だ。
夜空には満月が昇っている。
「ん?なんじゃカクリ?ウチは今月見酒の真っ最中なんだが?」
不機嫌そうに眉を顰める。
高等部学長の栗町カクリは、亜麻色の髪をショートカットにし丸いメガネをかけている。
そのメガネが、今は月光を反射していて、カクリがどんな目をしているかがわからない。
「アルノアードの軍は今夜、進軍を開始。明朝までにけりをつけるつもりのようです」
「焦っているなぁ〜ミランの若造は」
「お孫さん、生徒会長の軍は左右に展開。進軍中のアルノアード軍を廃墟で包囲するようです」
「おっと、美烏の奴も焦っているな。これでは明日には終わってしまうぞ」
ふぅ、と溜息。
戦争と言うのは長引くからこそ面白いのに。最近の若者の思考回路はよくわからない。
昔は戦乱の時代だった。
まぁ百年くらい経てば人間も平和ボケする。それは仕方の無い事だが。
「ここは、やはり……」
「ああ、やっぱり今年の戦争はものが違うな」
「ではやはりあれを?」
「ああ、確か、第四倉庫だったか。全部隊に《特壱号》を伝達。日付変更0:00に『あいつら』を解放しろ」
「命令は?」
「皆殺し」
「了解です」
雪魅は、猫のように笑いながら、酒をあおる。
「戦には、勿体無いぐらいの満月だなぁ……」
◇◆◇
また所変わって。
――秀兎たちのベースキャンプ。
「どうも妻です」
「どうも愛人Aです」
「…………………はぁ」
少女はなんとなく頷いてしまった。
このベースで唯一の男、黒宮秀兎は今晩の食事を作っているそうだ。
匂いからしてカレー。しかも、ルーではなく自家製のスパイスを使うそうだ。
私としては否が応でも期待が高まってしまう。
話がずれました。
カレーが出来上がる時間まで、今までに何があったのか、彼は白宮ヒナとシャリー・クシャーとどういう関係なのか、それを聞いていた。
状況は理解できた。
どうやら、私は生き残りの少年(仲間内ではファウルと呼ばれていた)にナイフを投げつけられ、刺さり、そのまま意識を失ってしまったらしい。
私のルールフォンの転移魔法は機能しなかった。
これは、あのどうやらファウルの少年の所為であるらしい。
その怪我を彼らは治してくれた。
そんな事を知り、私は感謝の気持ちで一杯だった。
まぁそんな感じで、私に何が起こったのかは分かったのだが……。
「黒宮君って、女誑しなんですね」
「そうなんですよ〜。夫たら私だけでは飽き足らず、色んな人を狙ってるんですから」
「なんせ守備範囲の広い人だから、ヒナも大変だね〜」
普通、正妻と愛人はそんなに仲のいいものではないと思うんですが……。
「ていうか、黒宮さんて何者なんですか?やる気無さそうに見えて、凄く強いじゃないですか」
「あ〜、まぁ、なんて言うの?結構色んな事やってるんだけど、根本的に腐ってるから」
「宝の持ち腐れといいますか……」
……かなり怪しい人物だ。今後警戒しておこう。
と、そこで彼の声がする。
「お〜い、カレー出来たから手伝ってくれ」
「「はいは〜い」」
あ、白宮さん裸エプロンのまま……
「だから服着ろって言ってんだろぉぉぉぉ!」
彼はかなりの苦労人のようだった。
カレーは人類の偉大な発明品だ。
香辛料のおかげで身体の内側から温めてくれる。
キャンプやサバイバルでカレーがよく作られるのはこの為だ。
それにしても美味しかった。
いくらルーを使わなかったとはいえ、これほどまでに違うものなのだろうか。
きっと彼の腕も相当なものじゃないだろうか。
……本当によく分からない人だ。
「んじゃ明かり消すぞ〜」
「「は〜い」」
洗い物を手早く済まし、早めに床につく。
彼曰く、
「人間は夜になったら寝るように出来てるんだ。だから俺たちも出来るだけ自然の摂理に従って早く寝ることにする」
だそうだ。
しかし、白宮さんとシャリーさんは
「とかいってどうせもう眠いから皆で寝たいんでしょ?」
「私寝込みを襲おうかな……」
などと言っていた。
……本当に、この人達はなんなんだろう?怪しいような、面白いよな、騒がしくて、ちょっと不思議な雰囲気だった。
◇◆◇
皆が寝静まる。
……しかし。
エレアは中々寝付けなかった。
当然だった。今日は色々有りすぎた。
学校では今まで比較的目立たなかった黒宮秀兎。彼の意外な一面を見た。
学校では人気の白宮ヒナとシャリークシャー。彼女たちの奇抜な一面を見た。
……彼らは一体何者なんだろう。
詰まる所はそこだった…………。
なんて思考がぐるぐる回る。
疑問を考えて疑問。その疑問が疑問を生み、最終的に、一つの疑問にたどり着く。
カレーを食べると頭が活性化する。と何かの本で読んだ気がした。
これがまさにカレー活性化効果なのか、全く眠れない。
「…………」
エレアは、音を立てないようにテントを出た。
秀兎たちのベースの入り口付近は少し開けた場所になっていた。
小さめな池があり、草木の天蓋はなく綺麗な夜空と満月を切り取っている。
エレアは、その広場の泉に足を浸しながら、満月を見詰めていた。それは、とても絵になるような光景だった。
珍しい薄紫の髪は、月光を浴びて艶が増している。
黒紫、というのだろうか。そんな色の瞳が、物憂げな表情で満月を見上げている。
最初は迷彩服だったのでわからなかったが、よく見ると彼女は華奢でしなやかな四肢、綺麗な手、きめ細かい肌を持っている。
もう、十分美人なのだが、それを泉のせせらぎと静寂の帳がさらに引き立てている。
まるで、……こう言っては月並みだが、人形のような少女だ。
そんなエレアに私は声をかけた。
「やっ」
「…………」
エレアは驚くことも無く、ゆっくりとこちらを振り返る。
「あ、白宮さん……」
「ヒナでいいですよ〜」
「ヒナさん。どうしたんですかこんな深夜に……」
ヒナはエレアの隣に座り、池の水に足を浸す。
「いやぁエレアさん今日は色々あったし眠れないんじゃないかなぁと思って」
「…………」
「まぁ私自身、貴方と話したかったんですよ。エレア・フォーミュレンス・アルブレアお嬢様」
瞬間、エレアは目を見開いた。
さて、割と半ばまで進みましたが(ていうかまだ一日目じゃん……)
次回は少しだけヒナの心境とエレアについて触れ、そしてドッカンドッカンです。
そして一気に進みます。多分、二話くらいで戦争終わると思いますよ……(多分!多分だよー!)
でもそれから先何も考えてないぜ!(泣)