ウォー・オブ・ザ・黒月【参】
『きゃぁぁぁぁぁー!』
悲鳴。女子生徒たちがあげた、黄色い悲鳴。
「…………」
そんな女子生徒たちに、ミラン・アルノアードは微笑んだ。
優しげな、それでいて高貴なその微笑みは、無差別に女子生徒のハートを貫く。
『きゃぁぁぁぁぁー!』
女子生徒たちの士気が高まった。
しかし、そんな女子の反応は、もうウンザリなくらい見てきたミランは内心鬱々としていた。
「…………」
作戦会議用のテントに入る。
今は使っていないのでミラン一人だけだ。そもそもそれを見越してここに来たのだが。
ミランは配給されたパイプ椅子に座り、目を閉じた。
思い浮かぶのはさっきの事。
はぁ、と溜息を吐きたかったが、そんな事は許されない。
リーダーがそんな態度を見せては、仲間の士気は少なからず下がってしまう。
しかし、どうせなら自分の好きな人に微笑みたかった。
「おぉ?なんだなんだ〜?疲れた顔して、欲求不満が溜まってそうですなぁ〜」
そんな言葉を投げかけられる。ちょっとバカにしたような、そんな声。
ミランは、その声のする方向を向いて、
「うるさいな〜、俺今失恋中なんだよ。ナイーブなわけ。オーケー?」
そう答える。
普段のイメージからはかなりかけ離れた、年相応の口調。
彼の素顔を知らない人は口を揃えて「誰?」と言うだろう。
しかし、『彼女』の前ではかたい口調も態度も見せなくていいのだ。自然と顔が笑う。
「お帰りファウル。どうだった、アイツは」
ファウルと呼ばれた、『黒髪の少女』は、ヘラヘラと笑いながら言う。
「ん〜。あんま変わってなかったよ。相変わらず反射神経は化け物だし虚を突いた奴も反応するんだもん、あれはさらにレベルアップしてるね」
楽しそうに笑う。可愛らしい笑顔だ。しかし、そんな笑顔が少しだけ寂しそうになる。
「でも僕の幻術は見破れなかったみたいだったよ……」
そこで、ミランも神妙な顔になる。
「…………やっぱり」
「うん。まだ《扉》は開かれていないみたい」
「ったく。生徒会長様は一体何をしているんだろう」
自分の弟を見殺しにするつもりだろうか。
「でもねでもねッ!たぶん第一段階は開放されてるよ!」
「おお?てことは何?うちの生徒会長様は、あの《魔女》を説得させたって事?」
「そういう事になるねッ!僕安心しちゃった」
少女は、恥かしげに目を細めて、微笑む。愛らしい笑顔で、微笑む。
「惚れ直したんだろ?」
「うん、……あれ、嫉妬?」
「別に。そういえば、あの子は?」
「大丈夫。ちゃんと手加減して急所は外しておいたから」
「ちなみに何本投げた?」
「七、いや八本?ちょっとグッサリ刺さったような……」
「ってそれ全然手加減してないじゃないか!」
「まぁまぁ、あっちにはシャリーちゃんたちがいるんだし、大丈夫だって」
「おいおい、何かあったら大変だぞ?」
「大丈夫だって。あはは〜」
そう言って、ファウルという少女はテントを出る。
残されたミランは、目を瞑る。
仮眠を取る為だ。昨日は作戦を練る為にろくに寝ていなかった。
「秀兎。黒宮、秀兎、か…………」
目を瞑ると、すぐに彼の意識は闇へ落ちた。
◇◆◇
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
悲鳴。それも、恐ろしい物を見てしまったような、そんな悲鳴。
そんな声を上げられてしまった秀兎は、やっぱりかと、溜息を吐いた。
「秀兎さんが女の子を持って帰ってきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「なんて事!?何てことなの!?」
そうだろう。
自分は、曲がりなりにも既婚者なのだ。まぁ俺はそんなに意識してないけど。
そんな男が、戦いに出て、女の子背負って帰ってきたら。
普通は、普通なら、こうなるよねぇ。
ちょっと安心する。よかったこいつらまだ普通で。
「貴方はどこのターザンですかッ!?」
「いやぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁん!」
ターザンじゃねぇよ。人間だよ。あと嫁、うるさい。
「はいはい予想通りの答えをありがとうね。でも今はそんなふざけてる場合じゃないの、オケ?」
そう言って、背負っている少女をうつ伏せにしてベッドに寝かす。
背中には数本のナイフ。
幸運にも出血量は少ない。さっさと治療しないと。
ヒナが少女の背中を見て、眉を顰める。
「一体何があったんですか?」
秀兎は簡単に要約しながら話す。
「そいつ、一体何者なんでしょう?」
「わかんね。ただ、あの動きは何処かで見たことあるような……」
そう言って、秀兎は魔法陣を展開。色は緑、風の属性だ。
「風よ、刃となりて服を切り裂け」
少女の衣服――上半身のジャージとシャツとブラ――が切り裂かれる。詰まる所、秀兎は少女の上半身を裸にしたのだ。
その行動にヒナが顔を赤くして、
「なっ!秀兎さ……」
しかし、
「黙って、ヒナ。今はそんな時じゃないから」
シャリーに制されて、ヒナは口篭る。
たしかに、秀兎の顔は真剣だ。
なんとなく雰囲気もピリピリしている気がする。
「シャリー、ヒナ」
「はい」
「俺がナイフを抜くから止血と治療魔法を頼む」
「はい」
「あっはい!」
そう言って、シャリーとヒナはベッドに上がる。
ベッドの上に乗せてあったバッグから止血用のタオルを取り出す。
三人は、真剣な顔で頷き合った。
「まず一本目……」
ジュクッと、嫌な音がする。血が少しずつ流れている。
ゆっくりと抜いていくと、少女の身体がピクリと動いた。
「さすがに麻酔無しは、キツイな……!」
ナイフが刺さった少女は、そのまま気絶してしまった。
ナイフに神経性の毒が入っていたのか、それとも……。
なんにしても気絶はしているがそれでも痛みは感じるのだ。
それほど深くは刺さっていなかった事が幸いだった。
秀兎はナイフを一気に引き抜く!
「シャリー!」
「うん」
シャリーは傷口に左手でタオルをあてがい、右手を重ねる。
「ヒール」
シャリーの右手に、淡い緑色の光が灯る。
現代の魔導学では、高位に属する治療魔法。
といっても、細胞の分裂を意図的に促進させ、傷を塞ぐという物だが。
これは、寿命を少し、ほんの少し縮めるので、よっぽどの時ではない限り余り使われない。
それこそ、戦場のような場所でしか使われない。
しかも、この魔法は色々と複雑だ。
だからこそ高位に属する魔法なのだ。
秀兎はシャリーの手から目を離し、もう一本のナイフを見る。
「……よし、ヒナ。次行くぞ」
「はい」
ヒナは冷静な顔で頷いた。
こんな治療を、あと八回もしなければならない。
たかが上半身の裸で、一々反応している場合ではないのだ。
◇◆◇
気が付くと、香辛料の匂いが鼻に付いた。
「…………」
ゆっくりと身体を起こし、周囲を見回す。
どうやらテントのようだ。しかし、自分はやたらと高級そうなベッドの上。
しかも自分は上半身裸だ。……ナンダコレハ?
どういう事なのか、と記憶を辿る。
自分は、アルノアードの指示でシャリークシャーと白宮ヒナを連れて帰る為に第七森林管区に来た。
途中、エルバルックのミスで移動用の装甲車が故障、破棄。そのまま進もうとするが、エルバルックが森を焼いた方が速いと言い出した。そんなバカな真似が出来るかと口論になる。
そして、彼が現れた。
黒髪に黒い瞳。ダルそうな顔、目にくまが出来ている。やる気が無さそうな、覇気が感じられないような表情。
――黒宮秀兎。
彼は、白宮ヒナ、シャリークシャーと仲が良く、登校やお昼を共にしたりと、学園ではかなりの有名人だ。
まぁ別にそんな事はどうでもいいんだけど。
それで、アルノアードは彼を病院送りにしてから連れてこいとの指示だったので当然彼に挑む。
結果瞬殺。
赤子の手を捻るように。
一分もしない内にこちらは三人も病院送りにされ、自分は唖然としていた。
別に恐怖したわけじゃなった。
彼はちゃんと急所を外していた。
そして、彼はもう一人の……。
そして思い出した。
自分は、自分は刺されたのだ。もう一人の少年に。
確か少年は彼にナイフを投げていた。
いくらか口論し、それから、……背中に激痛が走った。
そして、背中にびりびりとした何かが走り、そのまま視界が真っ暗になったのだ。
少女は自分の背中をさすってみる。
痛みは無い。傷口も、触った限りでは、無いように感じる。
誰かが治療魔法を使ってくれたようだ。
「じゃあ、ここは……黒宮秀兎のベースキャンプ?」
と、そこで、テントの外から声が聞こえてきた。
「あ、秀兎さん。お帰りなさいー」
「うぃ、ただい……ってなんで裸エプロンなんだよッ!?」
「やっぱり新妻はこうでなくちゃ☆」
「うるさいわッ!」
「見て見て〜。私も裸エプロ……」
「なんなんじゃおまえらぁぁぁぁぁ!!」
どうやらおかしな状況になっているらしかった。
よく思うんですけど……。
魔法の呼び名って作るのムズカシィィィィ……(涙)
気の利いた、なにやらカッコいい名前を考えたいんですけど新人な黒ウサギは知識不足です。読者の皆さん本当にすいません……(汗)
さて、戦争編ですが、なにやら怪しい雲行きです。
頑張ってコメディを入れていきたいと思います。
皆さんどうぞよろしくッ!